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空港に着くまでバスの中では最終日にも関わらず賑やかだった。
小泉は寝たいと言っていたが沢渡にずっと話しかけている。
「小泉さんさ、寝るんじゃないのかよ。」
「せっかく沢渡と座ったんだし、何か話さないと損でしょ。」
「俺と話して損得もないだろ。」
「俺得的な?」
「はぁ?」
何を言っても通じない小泉にため息をつく沢渡。
リュックから飲み物を取り出す。
「あ、それ美味しかった?」
「すげえすっぱかった。」
「えー、そうかなぁ。美味しいのに…。」
ジュースからは炭酸がすでに抜けていてすっぱいだけのジュースになっていた。
蓋を開けて少し飲むが、炭酸が抜けているだけで相変わらずすっぱいジュースに沢渡は顔を渋くした。
その顔を見て小泉は笑った。
「そんなにすっぱい?すごい顔してたじゃん。」
「すっぱいの苦手なんだよ。」
「えー。……だったらさ、俺にそのジュースちょうだい。」
「え、別にいいけど…。炭酸抜けてるよ?」
「炭酸抜けても好きだから。」
小泉は沢渡の手からペットボトルを取る。
ジュースをリュックにしまうと再び小泉の質問コーナーが始まった。
沢渡はあきれて寝たふりをした。
小泉がやんやと騒いでいるが無視を貫いた沢渡だった。
ようやく空港に着きバスを降りると神代ももう一つのバスから出てきた。
神代の姿を見つけた沢渡は神代のもとへ走って行った。
「望さーん。」
「沢渡ー。」
再開のハグを交す二人。
神代はスキンシップが多く、よく人に抱き着いている。
沢渡と神代、そして大谷は中学生時代からの付き合いなので神代のスキンシップは慣れたものだった。
二人のところへ大谷も合流し、三人で空港の方へ歩いて行った。
そして無事に飛行機に乗り故郷へ帰ることが出来た。
修学旅行が終わったらいつもの日常に戻る。
修学旅行から沢渡と小泉はよく話す仲になっていた。
沢渡は教室に入り自分の席に座った。
沢渡の席は窓側の1番後ろの席だ。
その席に座るとリュックから本を取り出し読み始めた。
神代と大谷は違うクラスになってしまい、会う機会が少ない。
クラスに話せる友人はいるが、今日は友人の姿が見えないので仕方なく本を取り出したのだ。
読み始めて数分、目の前に人影が出来る。
「さわりょうおはよ。」
「はよ。」
「何読んでるの?」
「小川洋子の『琥珀の瞬き』。」
「え、知らない。どういう話?」
小泉が現れる事に慣れた沢渡は驚くこともなく話を続けた。
小泉は沢渡の前の席に座った。
あらすじを簡単に説明する沢渡。
「へー。面白そう。俺も読みたい。」
「読んだら貸してやるよ。」
「やった。」
小泉が笑顔で喜んでいる。
その笑顔を見た沢渡は小泉に犬の耳が生えているように見えた。
「なんか小泉って犬みたい。」
「え、犬?」
「犬。」
沢渡に犬の様だと言われた小泉は少し考えるような顔をした。
「さわりょうは犬好き?」
「俺?あー、好きだよ。犬。俺犬派だから。」
沢渡の言葉に口角が上がる小泉。
「ふーん。じゃあ…俺、さわりょうの犬になろうかな。」
「…………は?」
「わん。どう?」
小泉の言葉に固まる沢渡。
それに対して小泉は沢渡をまっすぐ見つめる。
その時救いのチャイムがなった。
小泉は「あ、時間だ。」といって自分の席に戻る。
小泉がいなくなった後、先生が教室に入り朝の連絡が始まった。
その間、沢渡は思考を巡らせた。
考えても考えても小泉の言葉の意味が分からず、沢渡は考えるのをやめた。
そのあと沢渡は遅れてやってきた友人と一日を過ごした。
放課後、小泉が近づいていることに気づいた沢渡は早足で教室を出た。
隣のクラスの神代のところへ急いだ。
「望さーん!今日何時に帰る?」
「え、今日?いつでもいいけど。」
「一緒に帰ろう。一緒に。」
「いいよー。」
「よっしゃー。せんきゅ。」
沢渡は神代の首のところに抱き着く。
それに対して神代は沢渡の服の中に手を入れる。
神代の冷たいが背中に触れた。
「うわぁぁぁ!冷たっ。」
「必殺!冷えピタぁぁぁ!」
「うわ~!離せ!馬鹿!」
ドタバタと騒ぐ二人。
沢渡はふと廊下の方を見るがそこに小泉の姿はなかった。
安心し沢渡は神代の攻撃に反撃を開始した。
数分後、二人は椅子にうなだれた。
疲れて二人とも息が切れている。
神代が椅子に座り直すと、沢渡はその上に向き合うように座った。
「なぜ座る。」
「何時に帰る?」
「無視すんな。どけ。」
「望さん細すぎて座り心地悪いわ。」
「座っといて文句言うなよ。」
たわいもない会話をし、二人は教室を後にした。
沢渡は、神代とは普通に話せるのに小泉と話すときは普通に振る舞えない時がある。
それが小泉に対する嫌悪感なのか恋愛感情なのかと考えたところで立ち止まる。
「(………恋?)」
「沢渡?どうしたー?」
「…………。」
神代が立ち止まる沢渡に声をかけるが反応は無かった。
しかし、少し間を挟むと沢渡は再び歩き出した。
神代は不思議に思いながらも横を歩く。
数秒の間に沢渡は小泉に対する感情が恋ではないと結論づけた。
小泉の言動や行動で勘違いしているだけだと自分にも言い聞かせる。
沢渡だけではなく小泉はいろんな生徒と仲がいい。
自分もその一人として接されていると沢渡は考えたのだった。