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沢渡は昨日の事を思い出し憂鬱な気分だった。
それでも皆勤賞のため授業を休むわけにはいかなかった。
胃がキリキリと痛むが教室の扉を開けた。
沢渡の席に先客がいる。
憂鬱の原因である小泉が座っていた。
「あ、沢渡。おはよ。」
「………おはよ。」
「本どこまで読んだ?」
「…全部。」
「早。」
普通に会話をする小泉。
いろいろ考えていた沢渡は馬鹿らしくなってきた。
リュックから本を取り出し、小泉の前に出す。
「ん。」
「やったー。俺も読むの早いからすぐに返せると思う。」
「いつでもいいよ。」
沢渡の席から立つ気配のない小泉。
仕方なく前の席に沢渡は座る。
「いつでもいいとか言うと俺一生返さないよ?」
「は?なんで。」
「返さなかったら沢渡と話すきっかけが出来るだろ。」
「……借りパクする奴とは関わらねぇから。」
「手厳しいー。」
小泉は本を数ページめくる。
沢渡は小泉から顔を逸らす。
沢渡は顔が熱くなっている感覚になり、顔が赤くなっている事が予想された。
それを隠すために窓の方を向き、頬杖をついた。
周囲には他にも生徒がいて賑やかなはずなのに、小泉がめくる本の音しか聞こえなかった。
「さーわーたーりー。」
後ろから声が聞こえたと思ったら、沢渡の背中が重くなった。
首の辺りから手が見える。
沢渡は声から神代であることが分かった。
「望さん!」
「大谷が来ないから来ちゃった。」
「はー?俺は勝生さんの代わりかよ。」
「うそうそ、古文の教科書貸してくんね?忘れた。」
「教科書目当てかよ。」
笑いながらリュックから教科書を取り出す沢渡。
その間も神代は沢渡に抱き着いたままだ。
「はいよ、お礼はジュースでいいぜ。」
「アソパソマソジュース買ってやるよ。」
「俺の推しはドキソチャンだ。」
「あはは~。助かったわ、じゃ。」
神代は沢渡の首を撫でてから自分の教室に帰って行った。
今までの一部始終を見ていた小泉。
小泉は本を読んでいると思っていた沢渡は神代が来たことにより緩んだ口元が戻っていなかった。
「…………。」
小泉が見ていることに気づいた沢渡。
「…なに?」
「いや。今日お昼一緒に食べよーぜ。」
「きょ、今日は望さんと食べるから無理。」
沢渡はとっさに嘘をついてしまった。
「じゃあ、明日。」
「……………分かった…。」
何回も断るのはさすがに心が傷んだ沢渡は了承してしまった。
チャイムがなり、他の生徒たちも席に着きはじめた。
沢渡と小泉も自分の席に戻る。
次の日お昼が来てしまい、小泉と歩いている沢渡。
「どこで食べんの?」
「俺が見つけた秘密の場所。」
「秘密の場所?裏庭とか?」
「まあ、そこらへん。」
裏庭の奥の奥を進むと少し開けた場所に出た。
「外寒ー。」
「もう冬だし。」
そんなことを言いながら昼食を食べる二人。
もう12月に入り、気温も低く、風も冷たい。
そんな中、ご飯を食べるのは2度と御免だと沢渡は思った。
「さわりょうはさ、好きな人とかいんの?」
小泉の突然の言葉に吹き出す沢渡。
「ごほっごほっ、はあ?!いねぇよ!」
「あ、そーなんだ。」
「……………。」
「……………。」
小泉が自分にも聞いて欲しそうな顔で沢渡を見つめる。
沢渡はそれを無視した。
それを聞いたらどうなるか予想がついたからだ。
「俺の好きな人はー…。」
「聞いてない聞いてない。興味ない興味ない。」
昼食のパンを横に置き、耳を塞ぐ沢渡。
小泉はすでに食べ終わっていた。
沢渡の無防備な脇腹目掛けて沢渡は両手を伸ばした。
そして脇腹を掴んだ。
「うひゃ!」
沢渡は反射的に両手を耳から外すしてしまった。
小泉はその瞬間を見計らって沢渡の両腕を掴んだ。
「ちょっ!」
「沢渡、俺の好きな人沢渡なんだけど。」
「あ~~~!」
「分かってるっしょ。」
「うっ。その…。」
沢渡の顔がみるみる赤くなっていく。
「付き合って欲しいんだけど……。」
「……………………。」
「沢渡?」
「………………。」
「………………。」
「……………………わ、分かった……。」
小泉の目が輝く。
喜んでいる小泉と対象に沢渡の思考はオーバーヒートを起こしていた。
生まれて初めて告白されたのだ。
思考が追いつかないのも無理はない。
そして、男同士だけど付き合ってもいいと思ってしまった自分にも沢渡は困惑していたのだ。
オーバーヒートした沢渡は魂が抜けたようになっていた。
そこからどのように教室に戻り、授業を受けたのか覚えていなかった。
気付けば放課後になっていた。
「沢渡?大丈夫?」
神代が沢渡の顔の前で手を振る。
「はっ!望さん。」
「どうした?魂抜けてたけど。」
「あ、いや、なんでもない!」
「そう?今日はいつ帰る?」
沢渡と神代は同じ部活であるのでよく一緒に帰っている。
「あーもう帰るか…ぐへぇ。」
「沢渡は俺と帰るんだろ。」
「…小泉くん?」
沢渡の後ろから小泉が出てきて、沢渡の首に手を回した。
神代は戸惑っているようだった。
「俺はいつも望さんと帰っているんだよ。」
「………。」
「なに?」
小泉は不機嫌そうな顔をした。
すると沢渡の耳元に口を近づけた。
「彼氏よりも一緒に帰りたい人?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
沢渡はとっさに叫んだ。
「え、沢渡!?どうした!?」
「なんでもない!ごめん望さん今日は一緒に帰れない!」
「え、りょ、了解。」
小泉が「今日はっていうか、これからずっとだろ」と言おうとするが沢渡が口を塞ぐ。
そして小泉の背中を押して教室を出る。
教室に残された神代は手を振るが、背中は少しだけ悲しい雰囲気が漂っていた。
「まじで人前で変なこと言うなよ。」
「はーい。」
「本当に分かってるのかよ。」
「そういえば本読んだよ。」
「早っ。」
「話すきっかけ作らなくても話せるようになったからね。」
「…お前なぁ。」