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それから、もう、何年経ったか。それまでの一分一秒、その瞬時全てが愛おしく、面白可笑しい日々だった。
あの日までは。
あの日にはもう既に新しい国の化身が生まれたらしく、典華も身を隠す必要が無くなった頃だった。それでもなお、典華と盟典は俺たちと共にこの家に住んでくれていた。自身の主である化身と別居であろうとも。
あの日、典華は彼女の主であるスウェーデン王国の化身に会いに行っていた。
盟典がキッチンで鼻歌を歌いながら皿を拭いているのを確認して、俺は洗濯物を取り込んでいた。亜津沙と杏那、晶斗はする事も無いからと、屋根に登って空を眺めていた。
その時、ガチャン!と土器の割れる音がキッチンの方からけたたましく聞こえてきた。
俺も、亜津沙も、杏那も、晶斗だって、驚いて、慌ててキッチンへと向かった。
『盟典!どうした!』
慌てて扉をすり抜けながら俺がそう叫んだ。今まで出したことも無いような声量で。
そんな俺の目に飛び込んできたのは、体が透けて、皿を持っていたであろう左手が徐々に砕けて空気に溶け込んでいる盟典の姿だった。
『何があったの?!』
『ど、どうしたら、』
『えと、えぇ~と、手、え?』
遅れてやってきた亜津沙たちが口々に言葉を発する。
そんな風に動揺を隠せない俺たちを他所に、盟典は、冷静に、まだ砕けていない右手で皿の破片を拾い集めていた。
「俺の主が死んだみたいなんだ。だから、俺も死ぬ。それがドールの定めだからな。そんなに驚くなよ」
淡々とした口調で冷静に盟典がそう語る物だから、俺の頭はだいぶ冷えたらしい。まぁ、亜津沙たちはまだ慌てふためいているが。
「なぁ、彰」
『なんだ?』
盟典と俺は、昔と全く変わらない言葉を交わした。
「俺には見えないが、亜津沙も、杏那も、晶斗も。これからの典華の事を頼んでも良いか?」
そう言った盟典のナイトグリーンの瞳には悲哀の色が浮かんでいた。
『あぁ』
『勿論』
『うん』
『了解』
俺たちは、口々に盟典へ返事を返した。