テラーノベル
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夜。
店を出ると、
そこにチャンスがいた。
街灯の下、
壁にもたれて待っている。
「……来てたの」
「迎えに来た」
それだけ。
昼間のことには触れない。
でも、
来た理由は、わかる。
エリオットは、少しだけ目を逸らしてから――
「……帰ろ」
チャンスは頷く。
並んで歩き出す。
夜の道。
静かで、
人もまばらで、
やけに、落ち着いている。
(普通だ)
何も起きていないみたいに。
チャンスが、隣にいる。
その事実が、
ちゃんと現実としてある。
しばらく歩いて、
ふと、
手が触れる。
一瞬、
止まる。
チャンスは何も言わない。
ただ、
そのまま指を絡めてくる。
自然に。
(……ああ)
力を、返す。
握り返す。
温度。
重さ。
知っている感覚。
(戻った)
そう思う。
ふと、
顔を上げる。
隣を見る。
そこにいるのは――
チャンス。
以前、
夢の中で見た時みたいに、
別の誰かにすり替わってはいない。
ちゃんと、
チャンスだ。
(……よかった)
胸の奥が、
少しだけほどける。
そのまま、
手を繋いで歩く。
何も言わないままでも、
苦しくない。
信号を渡って、
いつもの道を曲がる。
家が見えてくる。
チャンスが、ちらっとこっちを見る。
「寒くないか」
「平気」
「そうか」
それだけ。
でも、
それがいい。
(これでいい)
そう思う。
ちゃんと選んだ。
ちゃんと戻ってきた。
だから、
大丈夫だと。
――そのはずなのに。
ふと。
繋いだ手。
その感触が、
ほんの一瞬だけ、
“違うもの”に重なる。
温度は同じ。
でも、
“間”が違う。
(……今)
思わず、
強く握り返す。
チャンスが少しだけ驚いたように見る。
「どうした」
「……なんでもない」
目を逸らす。
(気のせいだ)
そう言い聞かせる。
でも、
消えない。
頭の奥に、
もう一つの感触が、
残っている。
(違う)
(これは――)
顔を上げる。
隣を見る。
チャンスがいる。
間違いなく。
でも。
ほんの一瞬だけ。
その横顔が、
“別の誰かと重なる”。
瞬き。
すぐに戻る。
チャンスだ。
何もおかしくない。
なのに。
「……選んだのに」
小さく、漏れる。
チャンスは聞き取れなかったのか、
何も言わない。
そのまま、
二人で家に入る。
ドアが閉まる。
外の空気が遮断される。
静かになる。
(これで、終わり)
そう思う。
思い込もうとする。
でも。
繋いでいたはずの手の感触が、
まだ、
“二つ”ある気がした。
一一一END
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ゆゆゆゆ
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