「ほんとにこの時期でよかったの···?」
不安げに見つめる涼ちゃんの頭を撫でる。
少し落ち着いてきたピンクの髪がなんとも言えない淡い色でとっても似合っていて可愛い。
そんな涼ちゃんの不安なんて気にもとめていない俺を見て更に不安になってしまったのかその瞳は先ほどより潤んでいる。
「いいの、今で···もっと早くても良かったけどね、俺は」
「でもっ、ツアーだって始まるしCMだって···」
「皆わかってくれるよ、それにそうじゃない人は···いずれそうなるだろうし。CMは受ける条件としてそれは伝えてる」
「でも、でも···怖いよ」
俺だって少しも怖くないと言ったら嘘になる。
けどそれより怖いのは涼ちゃんと離れることだ。
フェーズ2が終わる、とか活動休止とか解散とか···あれこれと噂が飛び交う中で出来る限りの情報発信はしてきた。
けどまさか躍起になって色々嗅ぎ回られているとは思わなかった。
だから油断していた、というか俺にとっては日常だったけどそれは見方によっては非日常であることに間違いない。
数カ月前···事務所の偉い人とマネージャーに呼び出された俺たちが見せられたのは数枚の写真で、そこにはぼんやりとしたものだったけど俺と涼ちゃんがマンションの前でキスしている写真だった。
「よく撮れてる···とは言えないけど元貴と涼ちゃんには見える、ね 」
若井がいつもより強張った声で、けど落ち着いて写真を手に取り眺める。
涼ちゃんの顔色がみるみる間に白くなっていつもピンクの頬からは血の気が引いていた。
「だって俺たちですからね」
そこにいる皆、俺と涼ちゃんが恋人として付き合ってることは知っている人ばかりだった。
けどさすがにこの写真にはどうしたものかみんな何も言えないでいた。
そこに俺が肯定したことでより空気が重くなる。
「ごめ···すみません、僕のせいだ」
涼ちゃんの声は震えていた。
けど涙は堪えて居るのか謝ったあとは唇を噛んでいる。
「違う。撮られたことに関してはすみません、記者に追われてることも全く気づきませんでした。けどこれが悪いことで別れるとか謝るとかは俺は思いません」
「元貴落ち着けよ、ここにいる誰もそんなこと思ってないから。涼ちゃんだって大丈夫だからね」
若井が涼ちゃんの背中を撫でて、俺の肩をトントンと叩いてくれる。
「一旦、掲載は伸ばしてもらうように手配したけど、無かったことにはしないらしい。どうする?どうしたい?」
色々方法はあるだろう。
出たところで沈黙を貫いて世間の判断にに委ねるか、それとも仲の良いグループで冗談で、ということにするか、他人の空似か捏造だと突っぱねるか···。
それか、きちんと付き合っていると公表するか。
「···きっとこの写真が出たら、これからもっとネタになりそうなことはないか追われ続けるでしょう。下手したらそのせいで活動がしにくくなるかもしれません。でも俺は藤澤のことを諦めません」
そこだけは揺るがない決定事項なのでしっかりと伝えておく。
そしてそっと涼ちゃんの手を握った。
「だから俺は然るべきタイミングで、この関係を公表したいです」
「元貴···」
「···迷惑かけるとおもいますが、正直である方がいいかと思うんです。俺は」
涼ちゃんは小さく頭を下げた。
俺もそれに合わせて頭を下げる。
「俺はいいと思う。たった1回、事実がないことでも写真を撮られて見られてると思うと、怖かった。自分の意思なんて誰も気にしてくれないみたいで。それなら全て打ち明けた方がいいんじゃないかな···わかってくれる人は、理解してくれる人は···以外とたくさん居ると思うよ。少なくともここに1人」
「若井···」
「わかい···」
3人でぎゅっと抱き合う。
こうして、みんなにお知らせしようと···決めて活動してようやくその日がやってくるのだ。
「僕があんなところで元貴にキスしなかったら···」
「遅かれ早かれ撮られてたかもしれないし。俺が生放送でキスしてたかもしれないし?」
くふ、と笑う俺に涼ちゃんがようやく少し笑ってくれる。
「元貴にも若井にも感謝してる···事務所やマネージャーさんにも···こんな僕を大切にしてくれて」
「僕たち、でしょ?俺たちは皆に愛されてる···そして涼ちゃんを一番愛してるのは俺」
「···僕も元貴が一番大切」
その桜色の唇にキスをして優しく抱きしめると、ふっと涼ちゃんの身体から力が抜けて緊張が解ける。
「大切だから、っていうのを大義名分にして俺から離れるなんてことは考えないでよね」
「う、わかってるよ···」
「地の果てまで追いかけてやるから」
頭の中で若井の「怖い怖い」という声が聞こえた気がして、ふふっと笑ってしまう。
「どんなに怖くても大変でも元貴と一緒がいい···」
抱きしめた身体の体温が上がった気がしてこちらまで心地良い。
声もいつもよりゆったりと小さくなっていって、すぅすぅと可愛い寝息が聞こえた。
ここ最近、更に盗撮されるのは避けたいと距離を保って気をつけていたから疲れていたんだろう。
僕のせいで、が口癖になりかけていて若井もひどく心配していた。
「明日に備えて···ゆっくりおやすみ」
YouTubeでの生配信で俺は涼ちゃんのことをどんな風に話そうか。
ファンの反応は気になるけれど、いつも通り俺は愛を伝えるだけだと心に決めた。
配信当日。
「本日は皆様にお伝えしたいことがあります」
右を見れば涼ちゃんが少し緊張した様子で。
左を見れば若井はいつも通り落ち着いた様子で。
俺は2人と手を繋いでゆっくりと前を見て話始める。
「俺と···メンバーの藤澤は恋人としてお付き合いしています」
精一杯の愛を伝える。
大切な人たちへ。
大切なお知らせって勿体ぶらないで···と心穏やかでは居られないですが楽しい明るいお知らせだったらいいなぁと思いつつ···こんなのを書いてしまいました。
コメント
10件
救済措置ありがとうございます……😭 明日が楽しいお知らせでありますように🪄
私も明日の配信、楽しみにしようと前向きな気持ちにさせてもらいました💕 ありがとうございます✨
いつも楽しく拝読しております、初めてコメントさせていただきます! 明日の配信が少し楽しみになりました🥹❤️💛素敵なお話をありがとうございます🙏✨‼️