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ー『もう、枯れちゃったね…』『あぁ、寂しいな…』
『綺麗だったのに…』
畑にあるコスモスは、茶色くなって萎れていた。
いつかは来るもの、
それはわかっている。
でも、悲しい。
ずっと、綺麗な花をつけてくれていた。
見惚れてしまうほど綺麗だった。
『お疲れ様、だね。』
『それは…』
前、俺が言ったこと…
『コスモスさん、お疲れ様でした。』
琥珀さんは目を閉じて、両手を合わせて言った。
今は、あの鮮やかな色がなくとも、
コスモスなんだ。
『楽しませてくれて…ありがとうございました。』
俺も、目を閉じて手を合わせる。
生き物、なんだよな。
コスモスにとっての終わり。
『でも、今年はいつもより長い間咲いててくれてたんだよ?』
『そうなのか…』
だけど、
たったの3ヶ月くらいしか見れなかった。
いつから芽が出始めたのかはわからないけれど、1年さえもたないんだ。
花なら、一週間くらいで枯れる。
それほどしか寿命がない。
自由に動くこともできず、暑い中、青空を見上げることしかできなかったんだ。
俺たちと、どちらが辛いだろうか。
風が吹いた。
落ち葉が、どこからか舞い落ちてくる。
今は、11月になった。
『瑠璃、酷いいじめは受けてないか?』
『毎回訊いてくるね。やっぱり優しいんだね。』
瑠璃の怪我は、見るたびに酷くなっているような気がする。
『そんな怪我をしてれば、気になるに決まってる。』
『大丈夫だよ。これくらい、慣れてるから。』
瑠璃とは、学校が違う。
だから、学校では守ってあげられない。
『本当に、大丈夫なのか?』
『うん。』
そうは言うけど、
寂しそうに見える。
俺と琥珀は学校に行っていないのでいじめられることはほとんどない。
たまにあった人から物を投げられたりするくらいだ。
『瑠璃も、学校なんていかなくてもいいんじゃないか?』
でも、
『親に、迷惑はかけたくないから。』
親のことばかり考えているみたいだ。
自分が傷つこうとも、親に心配をかけたくない、か。
その気持ちはわかる。
俺も、本当の親には隠していたっけ。
傷のせいでバレたけど、ギリギリまで誤魔化していた。
『親はその傷を見て、何も言わないのか?』
『親も、いじめられてるから。それどころじゃないの。』
親も…
『親までいじめられてるのか?』
『私のせいなの。私が人狼だから、昔は優しかった親が、今はおかしくなっちゃった。だから、家にはなるべくいない方がいいの。』
『それは、瑠璃のせいじゃない!人狼だからって、いじめる周りが悪いんだよ!』
人狼が、なぜいじめられるのか。
その理由は、能力と筋力が、普通の人間より高いからだと聞いた。
ただそれだけ。
なのにいじめられるんだ。
まずそれが、おかしいんだよ。
『だったら、3人で暮らそうよ。』
琥珀が言った。
『え?』
『今は甘ちゃんと、こんてな?に住んでるの。近くに前行ったお弁当屋さんがあって、お弁当も食べれるから大丈夫だよ。』
そうだ。
そういう守り方もできるんだ。
『そうだな。俺も琥珀も、家出したし学校にも行ってない。瑠璃だって、家にも学校にも行かなくたっていいんだよ。』
さっき、あまり家にいない方がいいって言っていた。
ならいっそ、家を出ればいいんだ。
その方が、苦しむことも少ない。
圧倒的に少なくなったんだ。
そうすれば、きっと…
『それはとっても嬉しい提案だね。だけど、親のために、しないといけないことがあるの。今の親は、精神的におかしくなっているから、私がお世話をしてあげなきゃいけない。』
『本当に、そうしなきゃいけないわけじゃないだろう?そんな苦しんでまで…』
『私が原因だから。それに、苦しくなんてないよ。大事な人たちだから、私くらいしか優しくしてあげられないから、いいの。』
『親からは、いじめられてないんだよな?それなら…』
いいのだろうか。
やっぱり、わからない。
『大丈夫、大丈夫だよ。私がそうしたいんだから、平気だよ?』
瑠璃は笑顔だった。
そうか、大丈夫か…
今の俺に、できることは少ない。
でも、少しだけでもいい、
できることをしてあげよう。
あの後も、俺と琥珀は、コスモス畑だった場所に行った。
『今日も、来てくれたんだね。もう、来なくなるんじゃないかと思ってたよ。』
『友達なんだろ?くるに決まってる。コスモスだけを見にきてたわけじゃないからな。』
『そうだよ?今日もあそぼうよ。』
『ありがとう、いつも来てくれて。』
瑠璃は、笑顔を見せる。
でも、どこか遠くを見ているような、
何かが違う気がした。
『暇だからな。』
何も、することはなかった。
だからここにくる。
今日も、あてもなく歩く。
それだけでも楽しくて、幸せだから。
今日は、森の中を歩く。
この時期は、木の葉っぱが綺麗だから、見て歩くことになった。
もうだいぶ落ちてしまっていたけど、地面が綺麗だ。
確か、これが…
モミジ、だったっけ。
落ちてしまっていたモミジの葉っぱを手に取る。
不思議な形だ。
『それはちょっと大きいから、カエデかな。』
カエデ?
たしかに、モミジより大きいかもしれない。
俺の手より大きかった。
他にも、見てまわる。
と、
何かが聞こえてくる。
水の流れる音?
少し進むとそこに、
川があった。
少し高いところから水が落ちている。
綺麗な水だった。
こんなに綺麗な水が流れる川なんて、見たことがない。
落ち葉も流されていて、それも綺麗に見えた。
『川に入ってもいいかな?』
琥珀が言った。
『からだも洗いたいし…』
またか。
まぁ、仕方ない。
しばらくの間は、水道の水で体を洗っていたからな。
でも最近は、冷たいからと嫌がっていた。
でも、
『川も冷たいんじゃないか?』
琥珀は、川の水を触った。
『うん、冷たい…』
やっぱりな。
『お風呂、入りたい…』
食料なら弁当があるし、
水なら、近くの公園に水道があるし、トイレもある。
でも風呂なんて、そんなものはない。
『ごめんね。私のところも、難しいかな…』
瑠璃の親のことは聞いている。
これ以上、人狼とは関わらないようにした方がいいだろう。
『ならはいる…』
11月、
もう、肌寒い季節だ。
そうなると、
もうそろそろ、弁当屋のおじさんが言ってたところに泊めさせてもらった方がいいだろうか。
まだ怖いけれど、
そこなら、風呂だってあるだろう。
今日、行ってみるか。
『甘くん、琥珀ちゃんが入るって言ってるよ?向こうに行こう?』
『え、ほんとにこんな冷たい川に入るのか?』
『ちょっとだけ入る。』
そうか…
『今度は転けないよう、気をつけろよ?』
前は、転けそうになってたからな…
琥珀が、服を脱ぎだす。
『甘くん?そういうのはよくないと思うよ?』
『え?』
瑠璃に、手を引かれた。
そして、草木の裏まで連れてかれる。
『いや、前に…川で転けそうになってたから…』
『そうじゃなくて、男の子が女の子の裸を見るのはよくないんだよ?』
『え、そうなのか?』
知らなかった…
って、前に見たような…
どうしよう…
『甘くんは、ここにいてね?』
瑠璃にそう言われて、置いてかれた…
俺は、近くの木にもたれかかる。
1人か。
『・・・』
“1人は、周りに合わせる必要はないし、自分の好きなように、自由でいれる。だから、友達なんていらない。”
昔、俺はそう言っていた。
そのはずだ。
なのに…
1人って、こんなに寂しかったっけ?
昔は親しかいなくて、1人が当たり前だったはずなのに…
『こんなに、寂しいなんてな、』
今では考えられない。
今は、2人の友達がいて、1人とはほぼずっと一緒にいた。
1人じゃなくなったんだ。
初めは、出会って、
あの子を守って、
あの子が後をついてくるようになって、
あの子と友達になって、
あの子に名前をつけて、
琥珀と近くを歩いてまわって、
琥珀と家出をして、
琥珀と一緒に倉庫に住んで、
琥珀とお花畑を見て、
また新しい友達ができて、
その子にも名前をつけて、
瑠璃と、3人で遊んで、
楽しくて、幸せになった。
『友達って、いいな。』
こんな気持ちになったのは、初めてかもしれない。
親とは違って、同じくらいの年齢で、
人狼だからだろうか。
本当に安心できる気がする。
でも、
変わってはいないこともある。
空を見上げる。
木の葉の隙間から、光が見える。
眩しくて、目を細める。
父と母は、俺のことを見ているだろうか。
神様は、俺のことを見ているだろうか。
『俺は、間違っているのだろうか…』
この世界は、誰かにとっては天国で、
誰かにとっては地獄、
そういう場所なのかもしれない。
なら、俺は…
どこかで、間違えたのかもしれない。
それは、あの2人に失礼か。
色々考えた。
でも、答えは見つからない。
まだ、情報が足りていないのだろう。
『なぜ、人狼はこんな目に遭わなきゃいけないんだ?』
答えは、返ってこない。
静かに、水の流れる音が聞こえる。
そして、鳥の鳴き声も聞こえた。
それだけだった。
しばらくして、
『甘ちゃん、待たせちゃってごめんね?』
琥珀と瑠璃がきた。
『気にすることじゃない。』
俺たちは、来た方向へ戻る。
そして、瑠璃と別れる。
『またね、』
手を振って、歩く。
でも、帰らない。
『甘ちゃん?どこに行くの?』
僕は答えない。
そのまま、弁当屋へ行く。
『どうだ?決めたか?』
弁当屋のおじさんが訊いてきた。
『泊めてください。いえ、住まわせてください。お願いします。』
俺は頭を下げて言った。
この人なら、信じてもいいだろう。
『俺のことを信頼してくれたみたいだな。大変だったろ?もう少し待ってろ、店を閉めるからな。』
おじさんは、片付けを始めた。
『手伝うよ。』
俺は、片付けを手伝おうとした。
『いや、いい。そこで待ってろ。』
だが、断られた。
なら、ここで待っていよう。
『甘ちゃん、住むって?何かあったの?どうするの?私、1人はいやだよ…』
琥珀が、俺の体を揺らしてくる。
『宿屋とかいうところに住まわせてもらえるらしい。だから、2人で住むんだよ。』
これで、琥珀は喜ぶと思っていた。
でも、
『え…』
琥珀は、悲しそうだった。
『風呂にも入れるだろうし、布団で寝られるだろうし、その他にも色々あると思うぞ?』
だけど、
『人がいるところ、や。』
琥珀は、嫌がった。
『見るだけでもいい。この人なら、信じてもいい気がする。』
俺の、予想でしかないけれど、
あんな狭くて何もない場所にいるよりはいいだろう。
と、
弁当屋のおじさんが、スマホを取り出す。
そして、耳に当てて、話し始める。
?
何をしてるんだろう。
スマホとやらは、すごいんだな。
もちろん、触ったこともない。
しばらくして、
『今から行ってもいいってさ。』
今から行く、のか…
少し、怖くはある。
でも、行こう。
『じゃあ、行くぞ。』
俺は、後ろをついていく。
琥珀も、俺の後ろに並ぶ。
琥珀が、手を握ってきた。
少し、震えている。
怖いのか…
少し歩いて、
『ここだ。』
宿屋に着いた。
建物に入る。
と、
『あらあら、可愛らしい子ね。』
1人の女性が立っていた。
『この2人が、電話で言った子だ。お願いしてもいいか?』
女性は、俺たちを見た後。
『もちろんよ。私たちがこの子たちを幸せにするわ。』
優しそうな笑顔。
でもその笑顔がいつまで続くのか、俺にはわからない。
あの母も、最初の方はそうだった。
だから、信じられない。
最悪、すぐに本性を現すだろう。
『銅.甘。よろしく、お願いします。』
頭を下げる。
『銅.琥珀です。よろしくお願いします…』
琥珀も、真似をするように頭を下げた。
『うふふ、いい子たちね〜。私は、田沼.藍子[タヌマ.アイコ]よ。よろしくね〜。』
にっこりと、優しそうな笑顔をした。
そこでなんとなく、
この人は、あの母と違う気がすると思った。
本当に、優しくしようとしてくれているような…
よくわからない。
でも、この人は…
大丈夫なのかもしれない。
その後、
『ここと隣の部屋は自由に使っていいからね〜』
部屋へ案内された。
2部屋も使わせてもらえるなんて、思ってなかった。
『ありがとうございます。』
何度も頭を下げた。
本当に何一つ不便はなかった。
『はっはっはっ、久しぶりに若い子が来たなぁ!』
父だろう男性も、優しそうだし、
ご飯も風呂も布団もちゃんと使わせてもらえる。
『ここ、いいかも。』
琥珀も、もう安心しているようだった。
これなら、もっと早くくればよかった。
逆に少し後悔してしまうほどだった。
でも問題は、
いつまで続くかだ。
最初だけなら意味がない。
どうか、この幸せが終わらないように願うしかなかった。
『甘ちゃん、一緒に寝てもいい?』
琥珀が、隣に座った。
『隣の部屋にも布団、あるぞ?俺がそっちでもいいけど、』
『一緒がいいな。』
『一緒、か…』
『うん、』
琥珀と、同じ布団で寝ることになった。
狭いけど、
まぁ、いいか?
久しぶりの布団。
いつのまにか、意識が遠くなっていた。ー