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悲しい。とても。母は、母さんは、変わってしまった。神のせいで、神を偽る化け物によって。
「母さん…信じてたのに」
「狐絃?どうしたの?」
「あぁお母様。残念ですがそろそろ」
「あぁ、そうね。儀式の邪魔は出来ないわ」
「じゃあ、頑張ってね。狐絃、譜弦」
頑張って。この儀式をか?この、頭のおかしい儀式を、頑張れと。あぁそうか…おかしくなってしまったんだ。母さんの頭は、この街と同じ様に。
「それでは狐絃様は願いの手紙を。譜弦様は感謝の手紙を。この紙にお願い致します。」
「…はい。」
「…わかりました。」
願いの手紙は文字書き師の力が強くなければ書けないらしいのだと、呆れ混じりに教えてくれたのは、昔居た一代前の文字書き師のじいちゃんだった。しわくちゃな手で、文字を書いていた。
「またか、」
小さく呟く。思ったより呆れが滲んだ声が出た。その元凶である願いが纏められた紙には豊作を願うものや健康を願うもの。はたまた神が姿を現すことを願っているものもあった。その神聖な御姿を見てみたいと。
軽く目を通し、置いてある白銀の机に少し大きい紙を広げたあと、大量の願いが記された紙をまた見て、これまた書くのに時間がかかりそうだな、なんて。
「準備は宜しいですかな。」
ちら、と譜弦を見ると、譜弦は小さく頷いた
「いいです。」
「では、皆さん。これから儀式を初めます。此度は初めて参加なさる方も居るという事で、始めに手順の説明させていただきます」
「まずは文字書き師の方に願いの手紙、感謝の手紙を街の言葉を元に書いて頂きます。この間皆さんは一言も喋ってはいけません。手紙が穢されるためです。 その後手紙を折り鶴にします。そうしたら文字書き師の方に舞を踊って頂いた後、手紙を川に流し、儀式は終わりとなります。」
「では、手紙の制作をお願いいたします。今から私が良いと言うまで皆さんお静かに。」
細い筆に墨を付け、動かして、文字を作る。大量な願いを、ゆっくりと完成させていく。同じような願いを要約しながら、ひとつも漏らさないように。
ふと思った、ばかばかしい。なんで、叶って欲しくもない願いを丁寧に書いているんだ。だって、みんな優しいから。あぁ、もう。ばかみたいだ。
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泣きそうになりながら、書き終える。そして最後に
“皆が神様を信じなくなりますように”
と、神に願う言葉を残した。
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マリーゴールド…絶望、悲しみ、嫉妬