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王都エインデルブルグの道路を歩いているのは、パフィ、ピアーニャ、アリエッタ。少し離れてミューゼ、ネフテリアもいる。
一行はリージョンシーカー本部を出て、その外周をのんびりと歩いていた。
「そういえば、何で新しく教会なんて作ったのよ?」
「いまさらだな……って、そういえばオマエたちには、はなしてなかったか」
シーカーの結婚式を行う事を前提に作られた、リージョンシーカー本部横の教会。
今まで教会が無かったからではなく、多くのリージョンの宗教に対応するために、かなりシンプルな造りになっている。その代わり倉庫が大きく、仕切りがかなり多い。
倉庫には多種多様な様式の道具が、リージョン別に置かれている。リージョンや人種によって、宗教が異なるからである。イディアゼッターから、リージョン1つ1つが違う神によって創られている為、信仰をまとめる事は不可能と聞いていたピアーニャやガルディオ王が、テストケースとして汎用性を重視した教会を企画したのだ。
共通で使用するのは椅子や祭壇のみ。それ以外の装飾は取り換え可能で、新郎新婦の出身リージョンに合わせた装飾にする事が可能となっている。
「……なるほどなのよ。私の場合は半分がラスィーテ式で、もう半分がグラウレスタ式なのよ?」
「グラウレスタにはヒトおらんだろ……。ホントウにむすばれるコトになったら、アリエッタとそうだんしろ」
「ん~……どっちが夫になるのよ?」
「しるかぁっ!」
ピアーニャと手を繋いでいるアリエッタが、キョトンとしている。今の会話には、知らない単語が多かった。人名とリージョン名だけでは会話内容がさっぱり分からない。
なんとなく悔しくなったアリエッタがとる行動は、
「ぴあーにゃ、めっ」
妹分を抱き上げながら叱る事だった。ちょっとした八つ当たりである。
「くっ、なんて羨ましいのよ……」
「もういやだ……」
そうこうしているうちに、リージョンシーカー本部からすぐの所にある、件の教会の前へとやってきた。
「そういえば、今日は誰が結婚するんですか?」
「あれ? そういえば言ってなかったっけ?」
ミューゼがふと疑問に思った事を口にした。呼ばれていないので知らないのも無理は無いが、見学するのにそれは失礼では?と考え、内心焦っている。
「そういえば、わちもしらんな……」
「リリさんが頑張ってるから、副総長とリリさんの式だと思ってたんだけど……」
本日は教会の初お披露目。さらにテストケースとして、1組の異界同士の夫婦が生まれる事になっていた。
という事は、両者がファナリア人であるロンデルとリリは、条件には当てはまらない。それに、2人が結ばれるのであれば、ピアーニャが知らないわけが無い。
「って事は、ムームーとクォン……かな?」
「同性で式が出来るなら、こんなに嬉しい事は無いのよ」
(あいつら、ドウセイじゃないだがなぁ)
もう教会前だし、どうせ知らないなら、そのままサプライズ風に紹介しちゃおうと、ネフテリアが決めた。特に困る事は無いので、ピアーニャ達も了承。
教会の前で、式の進行具合がどうなっているか見てくるか相談している時、タイミングよく教会の扉が開いた。丁度中での儀式が終わったらしい。
招待客が次々と入口から出てきて、左右に別れる。新しい夫婦の見送りのようだ。そのほとんどがシーカー達。そして家族と思しき人達がいる。
「ん? シャダルデルク人なのよ?」
家族らしき人は、体が黒い。影のリージョン『シャダルデルク』出身者の特徴である。もう片方の家族は分からない。シーカーの中にいるのかもしれないが、当事者達に確かめるのも、全てが終わった後の方がいい。
それに、これから新郎新婦が出てくるのだ。調査する必要も無い。
教会から、綺麗に着飾った2人が出てきた。
「ええええええ!?」
その2人を見たピアーニャが絶叫した。
アリエッタ達が驚いた。
結婚式の招待客達も驚いた。
新郎が驚き、顔を赤らめた。
新婦がにこやかに、半透明の触手を振った。
「誰だっけ?」
「あんな人達もいたような気がするのよ」
「あ、そうなんだ……」
接点が少なかったミューゼ達は覚えていなかった。ピアーニャしか驚かない事に、ネフテリアはガッカリ。
「いやちょっとまて! あのドルナはラドと色々あったんじゃなかったか!?」
「ああ、あの時ドルナに攫われてた人なのよ。あの後色々あったのよ? 大人って不思議なのよ」
新郎新婦は、ネマーチェオンで見つかったヨークスフィルン人のドルナと、シーカーのセゥアトデュレインだった。ではもう1人はどうしたのか…と言うと、いつの間にか近くにいたもう1人の人物、ラドが説明を始めた。
「いやー、面白半分でキュアレにレインを勧めてみたら、まさかの相性バッチリでさー。1発でお互い堕ちてたんだぜ、ウケるっしょ」
「うひゃっ!? いつの間に!」
「ってか、軽っ」
キュアレとは、新婦のヨークスフィルン人の名前である。言葉は喋れないが文字は使えるので、アリエッタよりしっかりしたコミュニケーションを取る事が出来ている。
あの後ワグナージュ人のラド、シャダルデルク人のセゥアトデュレインに、ドルナのキュアレが加わり、3人仲良く仕事を続けていたらしい。そしてある日の過ちを境に、セゥアトデュレインとキュアレの距離が急接近。その事にはラドも喜んだ。
「やっぱオレはいろんな女の子と仲良くなんねーと駄目っしょ。だからキュアレもレインとのほうが幸せなんだ」
「おまえはやくケッコンして、おちついてこおおおおおい!!」
「おわああああ!?」
色々軽すぎるラドを、ピアーニャは『雲塊』を使ってぶん投げた。教会の方に。
『え?』
どっごおおおん
投げられたラドは、立っている人々の間を抜け、その向こうにいる新郎新婦にクリーンヒット!
そのまま巻き込み、教会の正面を粉砕した。
『えぇぇ……え?』
あまりの行動に、驚きを通り越して呆れるミューゼとパフィ。だが、壊れた教会の入口からある物が見え、さらなる驚愕で動きが止まった。
壊れた時の粉塵が収まり、教会の奥が見える。祭壇の左右の壁には、女神のようなミューゼと、同じく女神のようなパフィが、大きく描かれていた。
『なにあれええええ!?』
ミューゼとパフィに身に覚えは無い。しかもこんな絵を描けるのは、アリエッタだけである。その犯人を見ると、恥ずかしそうに照れている。しかし嬉しそうだ。
(うん。やっぱり2人は綺麗だなぁ)
「いつの間に……あっ! あの部屋か!」
「てことは、テリアの陰謀なのよ?」
今度はネフテリアを見た。黒幕はニヤリと笑ったが、首を振った。
「残念ながら、わたくしは手伝っただけ。発案はアリエッタちゃんよ」
『………………』
ミューゼとパフィは膝から崩れた。相手がアリエッタなら、もうどうしようもない。
予想外の騒ぎが起こったが、シーカー達は慣れていて、そのまま流れるようにリージョンシーカーで手当てと宴会。セゥアトデュレインの家族や招待客も、シーカーってこんな感じかと自己完結し、一緒になって騒いでいた。とても幸せそうである。
「はぁ……」
「ふぅ……」
リージョンシーカー本部の執務室で、ミューゼとパフィが完璧なまでに落ち込んでいる。
「まぁそうなるわな」
アリエッタの膝に座っているピアーニャも、やや落ち込み気味だったりする。なんとも言えない経緯を持つ結婚式が、新しい教会の第一号だったのだ。その心境は複雑なようだ。アリエッタの膝の上にいるから落ち込んでいるわけではない筈。
ここでロンデルとリリが戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「うるさいっ! オマエらなんで、きょうケッコンしなかった!」
『ええ……?』
こいつらが初の結婚式だったら普通に幸せな結婚式だったのに……と、思いっきり不満をぶつけるのだった。勿論八つ当たりである。
「レインさんが結婚とは、やはりどうなるか分からないものですね」
「あの真面目で口が軽く、異性に免疫がないレインさんがねー」
「いつもおもうが、ビミョーなヒョウカだよな……」
シーカーとしては有能だが、決して組織の中枢に置きたくない人材である。
ピアーニャが今日あった結婚式についてロンデル達と話し始めたので、アリエッタが暇になった。喋っているピアーニャをリリの膝に預け、落ち込んでいるミューゼ達に駆け寄った。
(いくら考えても、何で落ち込んでいるのかが分からん。でもここで慰められなきゃ、男が廃る! 男が!)
最近すっかり女に馴染んだと思ったのか、ちょっと焦って自分を矯正しているようだ。女の子になったのは仕方ないとして、ミューゼに頼られる男前になりたいという気持ちは変わっていない。
最近の目標は『カッコイイ姉御』。精神世界でその事をエルツァーレマイアに相談したら、『そっかー、頑張ってね。応援してるからっ』と言われていた。その時アリエッタは抱きしめられていたので、女神の目が泳いでいた事を知らない。
ミューゼとパフィが落ち込んでいるのは、自分のせいだとは知らないアリエッタ。声をかけようとしたところで、パフィに掴まった。
「ふえっ!?」
「もおぉぉぉ! この子はっ、なんて物作ったのよーっ」
「今日は寝るまでお仕置きだからねっ」
アリエッタを捕獲し、急に元気になる2人。そのまま、いたいけな少女をこねくり回し始めた。
「みゅっ、うあっ、んきゃはははっ、ぱひっ、めっ、んにゃああああ!?」
どこかを揉まれて声を出し、くすぐられて笑い、触られて艶っぽい声を出したところで、ロンデルはピアーニャを抱えてしれっと退室。リリは鼻血を流しながら、ネフテリアはニヤニヤしながら見学していた。
「ぐふふ。パフィは手をもうちょっと……いいですなー」
「うわぁ、アリエッタちゃん、すっご……」
今日1日、アリエッタの味方はいない。お姉さん2人に寝るまでもみくちゃにされ続けるしかないのだった。『カッコイイ姉御』への道は早くも崩壊寸前となっていた。
(なんでえええええええ!?)
翌日、大満足して満面の笑顔になったミューゼとパフィは、ヘロヘロになり過ぎて自分で立つ事も出来ないアリエッタを抱え、ニーニルへと帰って行った。
さらに後日、ピアーニャから教会修繕の仕事が出され、ミューゼは再び植林を頑張る事になった。自分の絵が飾られた教会で、大工たちにチラチラ見られ続けながら。
この教会は後に、大工と料理人と王族が、かなりの頻度で通う事となる。その誰もが、祭壇ではなく壁に向かって礼拝をするそうな。