今日も私は不機嫌そうな彼氏を玄関先まで見送る。
「行ってらっしゃい!気をつけてね?あっ、外寒くないかな。もっと厚手の上着とか持って来ようか?」
季節は2月。
首都、東京でも気温がマイナスにまで落ち込んでしまうほど寒い朝だった。
私が慌てて取りに行こうとすると
「ホントに気が利かないな。もういい、時間ないから」
そう冷たく言い放ち、彼は玄関を閉めた。
ドアが閉まり彼の顔が見えなくなった瞬間、私は「ふぅ」とため息が出てしまった。なんのため息だろう。
私、成海 桜《なるみ さくら》(26歳)は、彼氏である、速水 優人《はやみ ゆうと》(30歳)と同棲中である。
付き合って三年が過ぎようとしていた。
合コンで知り合い、たまたま地元が一緒だったこともあり、意気投合。
年上だけど、年上だとは感じさせない優しい雰囲気の彼に惹かれた。
私が彼のアパートに転がり込むようにして、同棲がスタート。
優人は、私が初めて付き合った人だった。
誰だってそうかもしれないけれど、付き合った当初は本当に幸せだった。
こんな幸せがいつまでも続けばいいと思っていた。
しかし、現実はそんなに上手くいかない。
「私もそろそろ家を出なきゃ」
私もいわゆるOLとして働いている。
優人を見送ってから、私も出社する。そんな毎日だった。
「おはようございます!」
「おはようございます」
上司に挨拶をしながら、自席へと座る。
同期で仲良くなれる人はいなかった。
けれど――。
「おはよう、成海」
「あっ、おはようございます。遥さん!」
あっ、またやってしまった。
会社の中では苗字で呼ばなきゃいけなかったのに。
私の顔が一瞬引きつったのがわかったのか
「気付けばよろしい。気をつけなね?一応、私、あなたの上司だから?」
周りに聞こえないよう、小声で囁かれる。
「はい。すみません……」
私の上司である、水瀬 遥《みなせ はるか》先輩は、プライベートでも仲良くしてもらっている大好きな頼れる先輩である。
入社したばかりの頃は「女性の中で一番怖い先輩」として有名だったし、私もそんな風に思ってしまっていた。
でも残業する時は必ず気にかけてくれるし、私のミスを一緒に謝ってくれたり……。
次第に打ち解けられるようになって、一人っ子の私にとってはお姉ちゃんみたいな存在になっている。
会社の中では、プライベートと混同しないよう、名前も「水瀬《みなせ》先輩」と呼んでいるが、仕事外では下の名前「遥《はるか》さん」と呼ぶことが許されてる。
朝礼が終わり、いつも通り仕事を進めていく。
今日は、打ち込む資料が多いな。
定時で上がれるかな……。
そんなことを考えながらも集中し仕事に移る。
気がつけばもう昼食になってしまった。
「成瀬、今日はお弁当?」
遥さんが話しかけてくれた。
「はい、お弁当です」
「そっか、私も今日お弁当作ってきたんだ。一緒に食べない?」
ラウンジで二人で昼食。
遥さんは外出や会議、研修で自席にいないこともあり、たまに一緒に食べれる昼食が嬉しかった。
「えらいよね、ほとんど毎日お弁当作って来てるんでしょ?私、結婚する前はほとんどコンビニ弁当だったよ。それか外に食べに行くか?」
「遥さんもお弁当じゃないですか?」
しかもすごく可愛らしい。キャラ弁って言うのかな。
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