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微笑ましいやり取りの後、ケイトはピザの箱を抱えてオフィスに戻った。クーパーも当然のように彼女の後をついてくる。椅子に座り、机の上にピザの箱を置くと、ケイトは躊躇なく蓋を開けた。途端に、焼きたてのチーズとトマトソース、そして香ばしい生地の匂いが部屋中に広がり、ケイトの空腹をさらに刺激した。
「はぁ…美味そうな匂い!」
思わず声が漏れる。一切れ手に取り、熱いピザを頬張る。チーズがとろけ、口いっぱいに旨みが広がる。昨日からの体調不良と空腹が相まって、その美味しさは格別だった。夢中で二切れ目に手を伸ばそうとした時、ケイトはふと、視線を感じて顔を下げた。
クーパーが、まるでピザに釘付けになったかのように、じっとこちらを見つめている。そして、その口元から、オイルの涎がとろりと垂れていることにケイトは気づいた。
「あんた…もしかして、これ食べたいの?」
ケイトが尋ねると、クーパーは小さく「クゥーン…」と鼻を鳴らし、モノアイをウルウルと輝かせた。その姿は、まさしく食べ物をねだる犬だった。機械であるはずのドローンが、ピザの香りに反応して涎を垂らすという、信じられない光景。ケイトは思わず、その珍妙な行動に笑みがこぼれた。
ケイトは迷った。機械に人間の食べ物を与えて良いものか。しかし、このドローンは鉄くずもオイルも消化するのだ。ピザくらい、問題ないかもしれない。それに、何よりもそのウルウルとしたモノアイで見つめられると断ることはできなかった。
「しょうがないわね、ほら。一口だけよ」
ケイトはそう言い聞かせるように呟くと、ピザの一切れをちぎり、クーパーの口元に差し出した。金属製の顎がカチリと開き、クーパーはパクッと噛みついた。その瞬間、まるで本物の犬のように、ムシャムシャとピザを咀嚼し始めたのだ。
香ばしいピザの匂いが、クーパーの口元から微かに漂う。機械が食べ物を食べるという不思議な光景に、ケイトは目を丸くした。クーパーの内部からは、小さな駆動音が聞こえ、ピザがエネルギーに変換されていくかのように見えた。
満足そうにピザを平らげたクーパーは、さらに「クゥーン」と鼻を鳴らし、おかわりをねだるようにケイトを見つめた。その姿に、ケイトはまたしても笑みがこぼれる。
ピザを一口食べた後のクーパーの満足げな様子を見て、ケイトは「もう一切れくらいなら良いか」と思った。全部で2枚あるピザのうち、自分もまだ半分も食べていない。ふと、床に放置されていた使っていない金属製の皿が目に入った。
ケイトはオフィスチェアから立ち上がり、その金属製の皿を拾い上げると綺麗に拭いて床に置いた。そして、自分のピザからさらに二切れをその皿に乗せてやった。
「さあ、あんたの分よ」
ケイトがそう言うと、クーパーは皿に顔を近づけ、夢中になってピザを食べ始めた。ガツガツと、人間では考えられないような勢いで、香ばしいピザがクーパーの内部へと消えていく。その間も、クーパーのモノアイは喜びでキラキラと輝き、尻尾は楽しそうに左右に振られていた。
二切れのピザをあっという間に平らげると、クーパーは満足げにケイトにお腹を向けて、床にゴロンと倒れ込んだ。その姿は、まるで満腹になった犬が、信頼する飼い主に甘えているかのようだった。
ケイトは、そんなクーパーの姿を見て、再び心が温かくなるのを感じた。このドローンは、彼女の殺風景なガレージに確かな温もりと、言葉では言い表せない感情をもたらしていた。