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「ナナさんはちょっと意地悪です……」
「こらこら高校生。大人が子供を付き合わせてるのに、黙って奢られると思うなよ~?」
ナナさんの悪い所、ひとつ発見。
徹底的に、お会計を先回りされる。
喫茶店では私が! なんてお財布を出してみれば、店員さんから“お会計は既に済んでいます”と言われ。
服を選びに行けば、私が着替えている間に“そのまま着て帰っても大丈夫ですよ?”なんて言われた。
ムスーっと、不満ですって感じに見つめてみれば。
「何その顔! シロちゃん可愛い!」
何故か相手は喜んでしまう始末。
どうして、こうなった。
お財布を構えるだけで、結局一切お支払い出来ない状況に陥ってしまったという。
ならば思い切って、お金の掛からない所に行きましょう! なんて言い始めた結果。
「平和だねぇ~。ガンサバだと、シロちゃんは絶対避けるスポットでしょ」
「まぁ、はぃ……」
大きな公園のベンチで、二人揃ってのんびり。
近くのお店でドーナツを購入し、簡単なお昼&休憩タイム。
その際、今回ばかりは! と。
それこそ6keyの感覚でお財布をポーチから引き抜いたのだが。
「お支払いは――」
「カードでお願いしまーす」
既に、クレジットカードをレジの機械にペタッとくっ付けているseven。
は、速い……以前この人と勝負した時、よく早撃ち勝負で互角に戦えたものだ……。
なんて思ってしまったけど、結局はまたご馳走になってしまう結果に。
そんな訳で、私達は二人してドーナツを摘まみながら、とても穏やかな公園に滞在していた。
でも改めて考えてみると、こういう所も来た事がなかった。
一人じゃ寄る必要も無いし、誰かと一緒になんてイベントは当然発生しない。
本当に小さい頃は、もしかしたら近所の公園くらいは行ったのかもしれないけど。
物心ついた頃には、色んなお稽古を習っていた記憶しかないので。
そして、sevenの言う通りガンサバ内でもこういう広い場所は避けている。
一回だけ9Kの援護ありきで、時計塔の広場を突き抜けた事はあったけど……よく生き残ったものだと、自分でも思ってしまう。
「シロちゃんそんな拗ねないの~、怒ってるポイントですら可愛いよ? 普通の学生なら、それはもう遠慮なく奢られる所だっていうのに。それこそアレよ、私なりの“課金”みたいなモノですよ。好きなものにはお金突っ込みたくなるのが、駄目な大人と言うモノでして」
「そんな事言っても、騙されませんからね。私自身に課金される程、凄い人間じゃないので」
未だムスーとしながらも、ハムッとドーナツに噛みついてみると。
なんだかその行動だけでも、sevenが満足そうにニコーってしてるのはいったい何。
「私にとっては、それだけ価値のあるお金の使い方って事だよー。価値観は人それぞれってね」
などと言いつつ彼女もまた、足をプラプラ揺らしながら軽食を摘まむ。
こう、何と言いますか。
凄く派手な見た目で、私なんかが隣に並んで良いのかって思ってしまう程の外見なのに。
こういう緩いシーンも凄く絵になるんだから、美人ってやっぱりズルいなぁって思ってしまうけど。
正直に言うと、羨ましいと感じてしまう。
「前から思っていたんですけど、ナナさんは……その、何で私の事をそんなに気に入ってくれるんですか? 年下だからとか、そういう理由ではちょっと……大袈裟過ぎる程に構ってくれている気がするんですけど」
前から気になってはいたのだ。
柘榴とAI

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#没入感フィクション
柘榴とAI

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この人は何というか、最初から“6key”という存在を特別視している気がする。
最初に会った時ですら、シックスを探す! みたいな感じだったし。
そんなに気に入られる様な項目が、私にあったとは思えないのだが。
何となく今なら聞いて良い気がして、自然とそんな疑問を零してみると。
「そだね~……超個人的な話だから、それこそ“悪い所”というか。私の“格好悪い”所になっちゃうかもしれないけど」
なんて言ってから、食べかけのドーナツを口から離し。
普段より、少しだけ寂しそうに笑うseven。
「憧れって言ったら良いのかな? 最初は、始まったばっかりのゲームなのに戦果スゲー! 渋いおじさんキャラ格好良いー! 戦い方がシンプルイズベスト! 行動さえもスマート! みたいな? それこそ、わっかりやすい“興味”だったんだよ?」
「興味……ですか? 私は、そこまで特別な事はしていないと思いますけど……最初なんて、特に」
「そう、特別じゃない。一つ一つは誰でも出来る動き出しだし、“シックス”の行動を参考にするプレイヤーは多い。それでもソレ等の組み合わせが、尋常じゃなく上手い。ゲーム内の格闘チュートリアルを、全部忠実にこなした上でアレだけ強い存在。それが私にとっての6番目のファーストイメージ」
けどね? なんて言いつつ、彼女は人差し指で此方の頬を突いて来る。
「リアルに会ったら、こんなに小さい可愛い女の子。それに、まるで周囲を怖がるみたいにサポーターの後ろに隠れて。こんな可愛い小動物系女子がシックス!? って、本当にビックリしたよ」
「うっ!? か、可愛くはないですけど……もしかして、イメージを崩してしまったでしょうか?」
「ううん、むしろ逆」
「へ?」
ニコッと微笑むsevenは、今何を考えているのか。
物凄く真っすぐな瞳で、此方を覗き込んで来る。
真正面から目を合わせるのって苦手だから、思わず視線を逸らしそうになってしまったけど。
でも今の彼女からは、目を逸らす方が失礼だと感じてしまった。
それくらいに、深い……底が知れないのに、とても綺麗な目をしている気がした。
「最初は見た目と評価、安っぽい感情。その次にギャップ、中身は全然違う人でした~は当たり前だけどさ。でもまさか、こんなにも違う雰囲気の子が登場するとは思ってなかった。そこで“人間として”興味が更に深まって……その後は、まさに沼だねぇ」
「沼……沼なんですか? 私」
「あ、良い意味でだよ?」
「良い意味での、沼」
ちょっと分からないけど。
良い意味という事は、一応褒められているんだろう。
「その後のシックスの動きとか、実績とかさ。なんかもう凄いなぁとしか言えない感じだったんだけど、もうどんどん夢中になるの。それこそ、昔私が“助けて欲しい”って願い続けてた、映画のヒーローみたいでさ」
「……ナナさん程の人でも、そんな風に思った事があったんですか?」
「そりゃあるよ~というか、今は少しマシになっただけ。昔はね、地味で口下手で、とてもじゃないけど周りの人から見てもらえる様な人間じゃなかったのよ」
えらく軽い感じでそんな事を言われてしまったけど……駄目だ、全然想像出来ない。
ナナさんが、地味? 口下手?
今だと立っているだけで注目を集めそうなこの人が?
いやいやいや、なんて思わず否定してしまいそうになるが。
「でもVRだと、意外と上手く動けるなぁって気が付いて。なんかもう、リアルの自分の身体重っ!? って思っちゃうくらいに、私は頭の中では自認している以上の“制御する感覚”がある事に気が付いたの。でもそれは、結局ゲームの中だけ。ゲームの主人公を演じている時だけ、その瞬間だけ私は変われるんだって」
「…………」
ちょっと、というかだいぶ。
その気持ちは分かる気がする。
私も一緒だ、sevenと。
VRの世界に居る時だけ、リアルの自分という“枷”を外す事が出来る。
あの世界に居る間だけは、私が私じゃ無くなる感覚。
それを知ってしまったのなら、夢中になるのだって理解出来ると言うもの。
けど彼女の場合……私と違って、現実の本人に自信を持てない要素など無い気がするのだが。
「なので思い切って、リアルの自分をVRの自分に近付けちゃぉー! って、勢いだけで突き進んだ結果が、今の私。だから昔の自信無い時の私は置き去りのまま“ガワ”だけ作って、感情さえも“演じて”。それでどうにか配信で食べてる訳ですよ」
「けど……それは。普通に考えたら、立派な事なのでは?」
とてもじゃないけど、そんな行動力は真似できない。
此方で例えるのなら、リアルでも6keyを演じると言う事。
流石に無理。
あんなに堂々と出来ないし、ビビリ散らしてばかりの私に出来る気がしない。
どうしたって、いつも通り否定的な思考回路へとシフトしてしまうのだから。
でも彼女は、もう一回優しく微笑んでから。
「私にあったのは“変身願望”ってヤツ? けど、シロちゃんはさ。“弱い”と思う自分とちゃんと向き合いながら、受けとめた上で“シックス”になった。リアルとVRは別だって切り分けつつも、どっちもちゃんと出来てるんだよ。無意識的にだったとしても、シロちゃんはシロちゃんを認めてる。もしくは認めてくれる人が居るから、頑張ってる。それって、凄く強いんだよ? 普通だったら、私みたいに逃げちゃうもん。一つ自分でもすげぇーって思える所を見つけたら、全力でそっちに頼っちゃうの。その感情に、リアルも引っ張られる」
よく、分からない。
私はずっと、リアルの自分を諦めて来たから。
どうせ出来ないって思って、最初から希望を持たなかったから。
そんな風に思っていたけど……もしも、本当にもしも。
お兄ちゃんの所へ逃げて来るという選択肢が無かったら?
その希望さえ無い状態で、私は実家に居る両親に対して不満を爆発させただろうか?
多分無理だ。
だってソコ以外に居場所が無いのなら、どこにも逃げられないから。
可能な限り親の言う通りに生きていたのは、生きて行く為。
本能的なソレによって、私は自分を抑え込んでいた……気がしていたけど。
どうして私は、その枷が無くなった今でも。
お兄ちゃんの所に来てから、ずっと以前のままの私で居るんだろう?
それ以外に知らないから、というのもあるかもしれない。
お兄ちゃんに迷惑を掛けたくないから、というのもあるかもしれない。
けどもしも、私が独り立ち出来る年齢で、今とは違う選択をしていた場合。
ずっと昔のままの私で居る必要なんて、無い筈なのだ。
好きな事をやれば良い、これまで出来なかった事を全部やってやろうって思うかもしれない。
けど多分……私は、やらない。
怖いからとか、そういう感情もあるけど……きっと違う。
両親の教えは、基本的に正しい事が多かったと感じているのだ。
勉強も、習い事も、得する事はあっても損した記憶は無い。
完璧ではなくとも、ある程度こなせる自分に……ある種、肯定意識があったと言う事なのだろうか?
本当に他に何も無い、逃げ道もない、自分で生きて行くしかない。
そうなってしまった場合。
多分、私だってsevenと同じ様に“得意分野”だけに走るのだろう。
昔の自分が嫌いだと言うのなら、“演じて”でも生き方を変えようとするのだろう。
これをやらない理由は、凄く単純。
私を支えてくれる人が居るから、というのと。
今の自分を、根本から変える必要がないと思っているから……なのだろうか?
どちらの割合が多いのかは、現状判断が付かないけど。
でも“頭で”考えてみれば……そういう結果にも、繋がる気がする。
むしろこれまで教わって来た事を使って、ある程度でも“出来る”というソレが。
私の中では存在意義というか、ある種自信の源として作用しているという事なのだろうか?
「そういう所も含めて、私がドハマりしちゃった感じかな。弱いと思った自分すらも前面に押し出して、更には誰でも憧れる様なヒーローにも変身する。格好良いし可愛いし、駄目だ~って泣きそうになってる所を見ると、思わず手を差し伸べたくなっちゃう。私にとっての“シックス”は憧れで、私にとっての“シロちゃん”は……私には出来なかった事を、しっかり出来てる凄い子。シロちゃんは、もう少しリアルの自分を褒めてあげる事を覚えるべきじゃないかな。それが出来ない内は、私みたいな外野がいっぱいヨシヨシしたくなっちゃう訳ですよ」
そんな事を言いながら、彼女はニシシッと悪戯っぽく微笑むのであった。
コメント
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**はる。です!** シロちゃんとナナさんの公園デート回、めっちゃ良かった…!ナナさんが「憧れ」から「沼」にハマった理由がしっかり語られてて、関係性が一段深まった感じがしたわ。特に「弱い自分を受け入れてるシロちゃんの方が強い」って台詞、胸に刺さった。お互いの過去や価値観が重なる瞬間、尊すぎるでしょ🔥