朽木家の当主が白哉様に変わられて、私は下女中から上女中に昇進した。
「行ってらっしゃいませ。」
ちらりと振り返り、無言で六番隊隊舎に向かう白哉様を三つ指ついて見送る。次に戻られるのはいつだろう。それでも白哉様がいない間も上女中の仕事はたくさんある。
「おらぬのか。」
「はい、只今。」
3日ぶりの帰宅に慌てて玄関に向かい、三つ指をつく。
「お食事までお時間ありますがいかがいたしましょう。」
履き物を揃え羽織を受けとる。
「茶室に行く。」
「承知しました。」
炭とお湯を給仕場から用意して、釜を置く前に香を焚く。
「伽羅か。」
「はい。」
「いつ焚いても良い香りだ。」
「左様でございますね。」
粛々とお茶を点てる。下女中の頃遠目で見た白哉様は威厳があって怖く見えた。上女中になってからもその印象は変わらず。先に奥方様を亡くされたことで一層怖いという印象が濃くなってしまったが。
「今日の茶はいつもと違う。考え事でもしていたか。」
「申し訳ありません。久しく白哉様にお茶を点てていなかったので嬉しくて。」
「そうか。」
「点て直します。」
「よい。これはこれで旨い。」
「有り難き存じます。」
など日常会話をしてくれるようになり、怖いという印象は払拭されつつある。
「風呂の用意を。」
「承知しました。」
茶室を出る白哉様。自分も片付けを済ませ急いで下女中達とお風呂の用意をする。お着替えの服を置き、白哉様をお呼びになったら食事の仕度へと足を走らせる。
食事が済めば寝床の用意。そしていつでも要望に応えれるよう隣の部屋で待機する。
「今日はもう下がってよい。」
その言葉に襖越しでも三つ指をつき挨拶をしてから自室へ下がって1日の仕事が終了する。
そんなある日、屋敷内にいても聞こえてくる声に慌てて玄関を飛び出した。
「阿散井様!?」
「すいません。酒の席で隊長、珍しく酒が進んでしまって。部屋まで運びます!!」
「承知しました。中へ!!」
履き物を脱がし、自分も片方の肩を担ぐ。
「今お布団を!!」
「隊長!!着きましたよ!!もう横になって休んでください!!」
その言葉におぼろげに返事をして床に臥せる。
「ありがとうございました。」
外で私は阿散井様が見えなくなるまで頭を下げた。あとは履き物を揃え脱がしてもらった羽織を直しにいくだけ。
「いるのか。」
羽織を羽織掛けに直して出ようとすると声をかけられた。振り返ると起き上がられていて。
「申し訳ありません。起こしてしまい…。」
「水を…。」
「すぐにお持ちします!!」
水をお飲みになるまでは良かった。湯呑みを受け取って立とうとすると布団に引き込まれた。
「白哉、様??」
整ったお顔にかかる髪、酔ったせいでうつろな瞳が艶やかさを醸し出していて。
「妾にならぬか。」
「は…??」
芸妓から上女中に登り詰めて次は妾!?真意を聞こうとするが寝息をたてている。
「(うーん。すり抜けたらまた起きるのかな…腕の中にすっぽりおさまってしまった…。)」
実際動こうとすると、離すまいと白哉様の腕に力が入る。
「(明日どんな反応なさるのか…。)」
半ば諦めて腕の中で眠ることにした。
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