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その日の夜。
「はっ……ぁっ、……くッ、ふ……ッ」
自室のベッドの上で、仁 人は苦し気に荒い息を吐き出していた。
身体の奥から焼き尽くすような熱が湧き上がり、皮膚の表面まで甘く痺れるような波が刺々しく断続的に押し寄せる。その波に翻弄され、仁 人は身悶えた。
「じゅうっ、柔 太朗……っ」
「ここにいるよ」
掠れ呼ぶ声に、柔 太朗が静かに寝室へと入ってくる。既に抑制剤とペットボトルの水を両手に持っていて、何故呼ばれたかは勿論承知だった。
「仁 人。体温と脈拍がだいぶ上がってる。辛いよね。抑制剤持ってきたけど、もっと強めのがいいかな」
薬をサイドテーブルに置き、柔 太朗がベッド脇に座る。横たわる仁 人の額に優しく冷えた手を当てた。普段の柔 太朗は人間と同じ、人肌の体温を保つように設計されている。しかし、今はその温度を一時的にダウンし、仁 人のケアを適切に対応できるよう皮膚の表面温度を下げていた。ひんやりとした感触が気持ち良くて、仁 人はその手首を掴み自らの頬へと擦り寄せ押し当てる。
「きもちぃ」
「薬飲もうね。楽になるから」
薬を取るため手を離そうとするが、仁 人は追い縋るように身体を起こした。必死に柔 太朗に向かって両手を伸ばす。
「柔、太朗……っ、やだ、熱い……たすけて……」
熱に浮かされた仁 人が柔 太朗の首に固く腕を回した。その身体を抱き留め背中を撫でてやると、んっ、と仁 人は背をしならせ震わせる。その刺激さえも今の仁 人には本能的な欲求を呼び起こさせるようだ。短く息を吐きながら、熱に潤んだ瞳で柔 太朗に助けを求めた。頬は朱く上気し、唇から湿った吐息が漏れ出る。自分だけを乞うように見つめて、誘うように甘いフェロモンを振りまくこのΩを前にして、理性を保てるαはきっといないのだろう。
柔 太朗は何の色も乗せない無機質な瞳で、冷静に仁 人を観察し記録として様子を映す。
脈拍、体温の上昇。そして、生殖行為への貪欲な本能の発露。ヒート期の状態に間違いない。
ただ、仁 人のヒート周期には当てはまらない。ここ数年、仁 人の成長と柔 太朗の管理により、ヒートの周期と抑制は安定していた。
昨日のαと接触した時の突発的な反応、そして、いま現在の状態を鑑みると、無理やりヒートを誘発された可能性が高い。周期を強引に狂わされた身体が、過剰なヒート反応を引き起こしてしまったのだ。
佐野 勇 斗というあまりにも強力なαに出会い、昨日今日と連続でその熱量と濃厚なフェロモンを浴びてしまった影響は、想像以上に甚大だったということか。
このような事態は初めてのことで、仁 人の新たなデータが蓄積されていく。
薬を選び取り、柔 太朗は仁 人に水と一緒にそれを飲ませようとするが、荒い呼吸を繰り返す仁 人は上手く飲み込むことができない。
「けほっ、ぐっ、苦しっ……っ」
「飲んで仁 人。ほら、口開けて」
薬を吐き出し口元を濡らした仁 人の顎を優しく上向かせ、柔 太朗は強引に薬を押し込む。そして、自ら水を口に含むと唇を合わせ仁 人へと流し込んだ。こくりと喉が嚥下したのを確認して唇を離す。
「うっ、……ふっ」
「いい子。よく飲めたね」
まだ出会ったばかりの少年期。
ヒートの抑制が上手くいかなかった時のことを思い出す。こうして何度も数えきれない夜を過ごした。
柔 太朗は慰めるようにひんやりとした両手で頬を挟み、額を仁 人の額にそっと押し当てた。
「すぐ良くなるから。大丈夫」
「じゅうっ、そばにいて……ッ」
「勿論、傍にいるよ」
子どものように涙を流し、苦しさを訴える仁 人を柔 太朗は両腕を回して抱きしめた。そのまま身体をベッドに優しく横たえると、自身も隣に滑り込み、再び仁 人の火照りきった身体をしっかりと繭のように腕の中に包み込んだ。
「ふ……ッ、ン」
冷たい柔 太朗の肌に触れるたび、仁 人は甘えるようにその胸に顔をうずめる。柔 太朗の手が、仁 人の汗ばんだ髪をやさしく撫で下ろし、背中を一定のリズムでさすり続けた。
「仁 人。俺の声を聞いて。ここにいるよ」
耳元で囁かれる声を聞きながら仁 人は柔 太朗の服を強く握りしめると、ふわりと一度微笑み、いまだ渦巻く熱の底へと落ちていった。
柔 太朗の起動から11年3ヶ月。
26歳、吉田 仁 人との記録。
α(対象者:佐野 勇 斗)との接触による、強誘発性ヒートの確認。
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設定が興味深くて1話目でお話に引き込まれました!そしてお話の書き方もとても読みやすくて一気に読ませていただきました。続きのお話も楽しみにしています。

続き楽しみにしてます!