テラーノベル
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「嘘だ……こんなの、何かの間違いに決まってます……!」
遠征艇の作戦室に、辻󠄀新之助の震える声が白く消えていく。画面上で冷酷に明滅する【自主解除】の四文字。そして、その直下に残された、あの忌まわしき密航コード。
辻の脳裏には、数年前、鳩原未来が姿を消したあの日の光景が鮮明に蘇っていた。何も知らされず、ただ置いていかれたあの喪失感。降格処分を受け、周囲からの冷ややかな視線に耐えながら、それでも「今度こそ」と全員で誓い合ってこの遠征の切符を掴んだのだ。それなのに、なぜ、よりによって一番近くで一緒に戦ってきた犬飼先輩が、同じことを繰り返すのか。
「二宮さん、犬飼先輩を追いかけましょう……!まだ遠くには行っていないはずです。何かの罠に嵌められて、無理やりそのコードを打ち込まされた可能性も_」
「落ち着け、辻󠄀」
二宮の声は、地を這うほどに低く、そして凍りついていた。
二宮の視線は、端末のログの一点から微動だにしない。キーボードを叩く彼の指先が、微かに、けれど明確に怒りで震えている。落ち着けていないのは、二宮も同様だった。
「このアクセスログを見ろ。遠征艇の防衛隔壁を解除する際、犬飼は『二宮隊個人の暗号化キー』を内側から三個同時に使用している。……私と、お前と、犬飼自身のキーだ」
「え……?」
「これらは、隊長である私か、あるいは隊員全員の同意がなければ同時に起動できないシステムだ。それを犬飼は、過去数週間の戦闘データの合間に、我々の端末から極秘にキーの断片を複製し、独自に模倣して突破している。……これは、突発的な行動ではない」
二宮がゆっくりと顔を上げた。その瞳の奥は、ドス黒い、底なしの深淵のような後悔と怒りが渦巻いている。
「あいつはこの遠征が始まる遥か前から……いや、鳩原が消えたあの瞬間から、ずっとこの機会を狙っていたんだ」
周到に準備された裏切り。罠でもなければ、脅迫でもない。犬飼澄晴という男が、その天才的な器用さと冷徹な頭脳のすべてを注ぎ込んで完成させた、完璧な”密航” だった。
二宮の頭脳は、最強の戦術家として常に戦況の最適解を弾き出してきた。どんな未知のトリオン兵が現れようと、どんな過酷な地形であろうと、彼のチェス盤の上に狂いはなかった。だが、その盤面から「身内の駒が自らの意志で消える」という致命的なバグが、二度も発生してしまった。
なぜだ。
なぜ、あいつらはいつも、俺の隣から黙って消えていく。
俺の戦術の、どこに間違いがあった。
「……追うぞ、辻󠄀」
二宮はコートを翻し、自身のトリガーを強く握りしめた。
「本部には、犬飼が敵の索敵網に接触した可能性があるとだけ報告する。裏切りのログは……まだ共有するな」
「二宮さん……」
「あいつの口から、直接聞くまでは認めん。なぜ、あいつの跡を追ったのかを」
*****
遠征艇の外は、玄界のそれとは全く異なる、紫色の分厚い雲が垂れ込める不気味な夜だった。
トリオンの残光を追跡するインジケーターだけを頼りに、二宮と辻󠄀は、音もなく荒野を駆けた。
怪我人はいない。血も流れていない。戦場のような爆音もなければ、悲鳴もない。ただ、静かに、じわじわとチームの絆が内側から腐食していくような、冷たい絶望だけが二人を支配していた。辻󠄀は走りながら、かつて犬飼が隊室で笑っていた姿を思い出していた。
「辻󠄀ちゃん、また女の子と話せなくて固まってたでしょー」と、いつも意地悪そうに、けれど楽しそうに笑いかけてくれた先輩。あの笑顔の裏で、彼は一体どんな目で自分たちを見ていたのだろう。
追跡インジケーターの針が、敵の人型ネイバーの拠点である”黒い城塞”の付近を指した瞬間、ぴたりと停止した。
「_そこまでだ、玄界の戦士たち」
暗闇の向こうから、冷徹な声が響く。現れたのは、その星の防衛を担うネイバーの精鋭部隊。そして、その最前列、異界の兵士たちに恭しく道を譲られながら、ゆっくりと歩み出てくる一人の男の影があった。
その男は、見慣れたボーダーのスーツではなく、ネイバーの黒い装甲を身に纏い、手には禍々しいトリオンの光を放つ、見覚えのある形状の銃を携えていた。
「よお、二宮さん、辻󠄀ちゃん。わざわざこんなところまで迎えに来てくれたんだ」
前髪の隙間から覗くその瞳は、強化トリガーに耐えきれず片目が変色していた。ただ、いつものように、完璧に、けどどこか怪しく笑っていた。
光街 葵
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#染井華
さんま
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すぷりんぐ
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#迅悠一
コメント
3件
うわっ…重い…!😭💔 第2話、一気に読んだけどマジで心臓ぎゅーってなった… 二宮さんの「なぜ俺の隣から黙って消えるんだ」ってとこ、静かな怒りと悲しみが滲み出てて泣ける。犬飼先輩の裏切りが“突発的じゃない”ってログで確定した瞬間の絶望感、やばすぎる。最後の「完璧に、けどどこか怪しく笑う」犬飼、もう戻れない感じがヒリヒリする…続きが気になりすぎる!!🔥