テラーノベル
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夜桜はまだ。
静かに二人を包んでいた。
目黒の紺。
阿部の緑。
その間を赤い光がゆっくり行き来している。
さっきより鮮明に。
二人の手首まで柔らかく染めながら。
阿部は繋いだ手を見る。
「あべちゃん?」
「……何?」
「これ、このまま結ばれるのかな」
「多分」
「多分?」
「俺も初めてだから」
阿部が小さく笑う。
「そっか」
縁が結ばれる。
翔太と涼太。
深澤と照。
二組の薬指にあった赤い光。
ずっと一緒にいる。
神様の伴侶。
そう考えると。
急にその意味が重く感じた。
「あべちゃん」
「……何?」
「怖い?」
阿部はすぐ答えられなかった。
目黒の紺色が少し心配そうに沈む。
それを見て。
誤魔化すのをやめた。
「ちょっと」
目黒が黙る。
「嫌とかじゃないよ」
「めめといるのも」
「縁が結ばれるのも嫌じゃない」
むしろ嬉しい。
でも。
「神様のずっとって」
阿部は夜空を見る。
「どれくらいなんだろうって」
「長い」
「だよね」
「多分、人間が思うよりずっと」
阿部は苦笑した。
「明日とか来年なら考えられるけど」
「百年とか千年とか」
「そんな先まで今ここで約束するのは」
少し怖い。
最後までは言えなかった。
でも。
目黒には伝わったようだった。
「あべちゃん」
「うん」
「じゃあ」
「ずっとって約束しなくていいよ」
阿部が目黒を見る。
「……いいの?」
「うん」
目黒は迷わない。
kaede🍁
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#mmab
七瀬⛄️
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「明日、俺といたかったらいて」
「その次も」
「一緒にいたかったらいて」
「嫌になったら?」
目黒の表情が少し寂しくなる。
それでも。
「その時は」
「あべちゃんが決めていい」
阿部が目を見開く。
「俺は嫌だけど」
「すごく嫌だけど」
「それでも」
「あべちゃんが決めることだから」
胸がじんわり温かくなる。
昔なら。
絶対に言わなかった。
俺のもの。
ここにいろ。
そうやって全部。
自分で決めていた神様。
今は。
離れることさえ。
阿部に委ねようとしている。
「俺は毎日」
「あべちゃんにいてほしいって思う」
「明日も、その次も」
「多分ずっと」
「でも」
「それを約束させたくない」
阿部はしばらく黙って。
ふっと笑った。
「めめ」
「何?」
「それなら」
少し間を置く。
「ずっとになりそう」
目黒が目を見開く。
「毎日その日に決めればいいんでしょ」
「うん」
「明日もめめといたいって思って」
「その次の日もまたそう思って」
「それを繰り返したら」
阿部が少しだけ目黒を見る。
「結局ずっとになるじゃん」
紺色の神力が大きく柔らかく広がった。
「あべちゃん」
「何?」
「それ、すごく好き」
阿部が笑う。
「何それ」
「今の考え方好き」
「そっか」
目黒は阿部の左手をそっと持ち上げる。
薬指。
赤い光が集まっている。
でも。
すぐには触れない。
「あべちゃん」
「何?」
「ここ」
「触っていい?」
胸がまた高鳴る。
「……そこまで聞くの?」
「大事だから」
阿部は少し目を細めた。
「いいよ」
目黒の指先が。
ゆっくり薬指へ触れる。
ほんの少し。
それだけで赤い光が強く揺れた。
目黒も自分の薬指を重ねる。
赤が丸く広がる。
まるで指輪のように。
でも。
まだ輪は閉じない。
何かを待っている。
目黒は何も言わない。
答えを迫らない。
ただ。
阿部が自分で決めるのを待っている。
そのことが分かった。
「めめ」
「何?」
阿部は少し緊張しながら。
まっすぐ目黒を見る。
「俺」
一度息を吸う。
「めめを選ぶよ」
目黒が動かなくなる。
阿部の頬も熱い。
でも。
目を逸らさない。
「縁があるからじゃなくて」
「神様になるからでも」
「ここに連れてこられたからでもない」
最後に残ったもの。
「俺が」
「めめといたいから」
目黒の目が柔らかくなる。
「あべちゃん」
「うん」
「俺も」
薬指へ触れたまま言う。
「あべちゃんを選ぶ」
「明日も」
「その次も」
「毎日選ぶ」
阿部が少し笑う。
「じゃあ一緒だね」
「うん」
二人の薬指。
赤い光。
開いていた輪が。
ゆっくり閉じていく。
その瞬間。
赤い光が弾けた。
眩しいほどの赤。
手首から腕へ。
胸元へ。
一瞬。
二人の身体を包む。
阿部は思わず目を閉じた。
身体の奥。
何かが繋がった。
神力とは違う。
もっと静かで。
もっと深い。
姿を見なくても。
目黒がそこにいると分かるような感覚。
やがて光が収まり。
阿部が目を開ける。
「……あれ」
二人の間に伸びていた赤い光がない。
「消えた?」
「違う」
目黒がすぐ左手を見せる。
薬指。
そこに細い赤い輪。
指輪のように残っていた。
阿部の指にも。
同じもの。
「……これ」
「結ばれた」
阿部は手を離してみる。
消えない。
少し離れても。
残っている。
「離れてもある」
「うん」
「もう繋いでなくても?」
「うん」
目黒が静かに笑う。
「もうなくならない」
阿部の胸がいっぱいになる。
でも。
縛られたわけじゃない。
離れることも選べると知った上で。
二人とも。
隣を選んだ。
だから残った。
阿部は自分の薬指を。
目黒のものへ重ねる。
二つの赤い輪が柔らかく光った。
「めめ」
「何?」
「明日もよろしくね」
目黒も笑う。
「あべちゃんも」
少し考えて。
「明後日も」
阿部が吹き出す。
「もう欲張ってる」
「明日だけじゃ足りない」
「毎日決めるんでしょ?」
「うん」
「じゃあ明後日の分は」
「明後日聞いて」
少し不満そうにしながら。
目黒は頷く。
「分かった」
永遠なんて。
まだ分からない。
千年先も想像できない。
でも。
明日なら選べる。
その次の日も。
そうやって一日ずつ隣を選んで。
いつか振り返った時。
それがずっとになっているのかもしれない。
二人の薬指。
赤い輪が夜桜の下で静かに光っていた。
縁は結ばれた。
それでも。
二人はしばらく動かなかった。
目黒が阿部の手を包み。
阿部も離さない。
夜桜。
月。
静かな風。
今は。
目黒のことしか見えなかった。
「あべちゃん」
「何?」
目黒が何かを言おうとして黙る。
紺色の神力。
嬉しい。
でも少し緊張している。
「めめ?」
目黒が阿部を見る。
「あべちゃん」
「キスしていい?」
阿部が息を止める。
口づけ。
前にも一度あった。
暴走した神力を止めるため。
あれは必要だった。
でも。
今は違う。
何も起きていない。
ただ。
二人がここにいる。
「……今さら」
目黒が首を傾げる。
「何が?」
「前は聞かなかったじゃん」
「あれは」
「あべちゃんを止めないといけなかったから」
「うん」
「今は」
少し言葉を探す。
「俺がしたいだけだから」
胸が強く鳴る。
「だから」
「あべちゃんもしたいって思ってないならしない」
本当に変わった。
触れることも。
抱きしめることも。
今は全部。
阿部が選べる。
「めめ」
「何?」
「俺も」
一度目を逸らして。
また見る。
「したい」
目黒の紺色が一気に柔らかくなる。
それでも。
すぐには近付かない。
「本当に?」
阿部が少し笑う。
「そこまで確認するの?」
「大事だから」
「うん」
今度ははっきり。
「いいよ」
目黒がゆっくり近付く。
阿部も逃げない。
ほんの少し。
自分から距離を縮めた。
そして。
そっと唇が重なる。
短い。
優しい口づけ。
離れたあと。
二人とも何も言えなかった。
近い。
目黒も阿部を見ている。
薬指の赤い輪が柔らかく光る。
「あべちゃん」
「何?」
「もう一回」
阿部が笑う。
「めめ」
「嫌?」
少し不安そうな顔。
阿部はまた笑った。
「嫌じゃない」
今度は自分から。
目黒の着物をそっと掴む。
「だから」
小さく言う。
「もう一回」
目黒の表情が柔らかくなる。
二度目の口づけ。
さっきより少しだけ長い。
それでも。
静かで。
優しい。
急がない。
離れて。
また目が合う。
「めめ」
「何?」
「これ」
阿部が少し笑う。
「前と全然違うね」
「あの時は」
「あべちゃん苦しそうだった」
「うん」
「今日は苦しくない?」
「全然」
「よかった」
あまりにも目黒らしくて。
阿部は声を出して笑った。
「ふふっ」
その瞬間。
緑。
阿部の神力がふわりと足元へ広がる。
でも。
怖くない。
暴走ではない。
ちゃんと分かる。
嬉しい。
幸せ。
もっとこの時間が続けばいい。
その気持ちが。
神力になって溢れている。
地面から小さな芽。
一つ。
また一つ。
そして。
桜の蕾がゆっくり開いていく。
一つ。
二つ。
その先の木まで。
でも。
広がりすぎない。
二人がいるこの場所だけ。
阿部の力が。
ちゃんと止まる。
夜桜が一斉に咲いた。
風が吹き。
花びらが二人の上へ降る。
阿部が空を見上げる。
「……すごい」
横を見ると。
目黒は桜ではなく。
阿部を見ていた。
「めめ」
「何?」
「見ないの?」
「見てる」
「俺じゃなくて桜」
目黒が少し考える。
「桜も綺麗」
「でも」
「あべちゃんの方が見たい」
阿部の顔が一気に熱くなる。
「もう」
「何?」
「そういうこと普通に言うよね」
「駄目?」
阿部は少し目を逸らす。
でも。
笑っていた。
「駄目じゃない」
目黒の紺へ。
阿部の緑が自然に近付く。
紺。
緑。
そして薬指の赤。
三つの色が。
夜の中で静かに重なる。
阿部はもう一度夜桜を見上げる。
自分が咲かせた花。
でも。
前とは違う。
力に振り回された春ではない。
自分の嬉しいという気持ちを受け止めて。
自分で選んで咲かせた。
阿部はそっと目黒の肩へ寄り添う。
目黒も手を握る。
二人の赤い輪が。
触れ合って柔らかく光った。
「あべちゃん」
「何?」
「今日」
「すごく好き」
阿部が笑う。
「今日だけ?」
目黒が慌てる。
「違う」
「今日も」
「明日も?」
「明日も」
「その次は?」
目黒は真剣に答えた。
「その日にまた言う」
阿部が少し驚いて。
笑う。
「覚えてたんだ」
「毎日選ぶんでしょ」
「うん」
阿部は繋いだ手を少し強くする。
「じゃあ今日は」
目黒を見る。
夜桜。
月。
花びら。
その真ん中で。
「俺も」
「めめが好き」
今度は目黒が固まった。
阿部が吹き出す。
「ふふっ」
目黒の紺色の神力が。
夜空いっぱいに広がる。
その瞬間。
桜がもう一度ふわりと揺れた。
まるで。
二人を祝うように。
夜の山へ。
花びらが静かに降り続けていた。
コメント
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一気に読みました。 うー 良すぎます。 ゆっくり2人で確認しながらそれでも確実に 愛を❤️育ててる。 不器用な2人尊いです🥰💞