大森視点
星崎が心配になって病院に昨日行ったが、
何ともなさそうで安心したのも束の間で、
俺とはほとんど目が合わなかった。
「ーーーー!」
「ーーーーーー?」
「ーーーーーー!?」
何だ?
休憩室の方から誰かの言い争う声が聞こえた。
盗み聞きは良くないと立ち去ろうとした時、
そのうちの1人の声に、
聞き覚えがあった。
(この声は⋯星崎か?)
一体何を揉めているんだろうか。
気になって覗き込むと、
女性スタッフとガッツリ目が合ってしまった。
様子を見るだけのつもりが、
目が合った以上は放っておけない。
「どうかした?」
「あ⋯大森さん!
お願いします!
大森さんからも説得して下さい」
彼女が困ったように助けを求めたが、
これでは状況がさっぱり分からない。
説明を求めようと星崎を見ても、
気が立っているのか苛立ちを隠さない様子のままで、
押し黙るだけだった。
「だから!
車に積んでるんだから、
俺の自前のカメラを使えばいいだろ?」
え?
星崎が俺呼び?
自称が変わった瞬間を初めて聞いた。
つまりそれだけ苛立っていると言うことか。
「ダメです!
また壊されたらどうするんですか!?
前のカメラの修理代だってまだ完済してないのに、
ギタリストとしてやっていけなくなりますよ」
よく話が見えないがどうやらスタッフの悪意で、
カメラを壊されたことによって、
負わされた借金が星崎にはあるらしい。
「俺が表現したいことは、
現場のカメラだけじゃクオリティが足りない。
副社長の営業妨害さえなければっ!!」
星崎がガシガシと頭を乱暴にかきむしる。
こんなにも焦って、
切羽詰まったところなんて、
今まで見たことがなかった。
かなり状況が深刻なようだ。
「副社長?」
「リゼラル社の現社長だよ!!」
誰のことか分からず若井が聞き返すと、
苛つきが収まらない星崎は、
怒鳴りつけるように攻撃的に言い放つ。
どうやらリゼラル社は元社長派と、
現社長派の派閥で内部分裂を起こしており、
かなり荒れているらしい。
そして退院初日で「足りないもの」のMV撮影に参加した、
今回のスタッフは現社長つまり星崎に枕営業をけしかけた、
張本人の息がかかった人間で固められていたのだ。
「彼女は元社長派だから害はないけど⋯⋯」
「他のスタッフはTASUKUさんに非協力的で、
全然撮影が思うように進まないんです」
だからまた壊されるのを覚悟して、
自前のカメラを持ち込もうとして、
彼女と言い争いに発展していたようだ。
確かに星崎が言うように、
撮影がままならないのは非常に困る。
だが、
カメラを持ち込んで彼女の言うように、
また壊されたら星崎の借金が増えることになってしまう。
金銭的な制裁を受け続けて、
ギタリストを辞めてしまうのではないかと、
心配する気持ちも理解できた。
双方の考えが理解できるからこそ、
俺は何と声をかけてやればいいのか分からなかった。
そこで少し作戦を考えることにした。
「ちょっと休憩したいって、
撮影止めてもらえる?」
「まあ⋯で、
でき、
ますが⋯」
俺たちはインタビューを巻きで済ませると、
すぐに星崎が撮影する現場に向かった。
自分で言うのも何だが、
ベテランの俺たちが入ると、
明らかに空気が一変した。
やる気なさげにしていたスタッフが息を呑み、
現場の空気が一瞬にして張り詰めた。
「すいません。
邪魔しないようにするので、
見学させてもらっていいですか?」
「元貴⋯怖いって。
目が笑ってないから」
コソッと若井が俺に耳打ちで伝える。
そんなのわざとだよ。
俺が睨みを効かせたら、
スタッフは嫌でも動くはずだとふんだ。
その結果やや不満げな顔をする者は数名いたが、
こちらに食ってかかってくるだけ威勢はないようで、
スタッフらは大人しく撮影に協力して、
彼も二度のリテイクのみでどうにか無事に撮影が終了した。
「そういえばさ、
スタッフ泣かせのTASUKUって噂聞いたんだけど、
あれって本当なの?」
本当は一切疑ってなんかいなかったが、
スタッフが目の前にいるこの状況であえて、
その話題に触れた。
「事実なわけないでしょう?
TASUKUさんは元社長くらいに、
スタッフを大事にしてくれる人です!」
彼が何か答える前に、
彼女がそう叫んで主張した。
星崎には黒い噂として、
完璧を追い求めるあまりにスタッフの人使いが荒く、
使い潰すほどにこき使われると言われていたのだ。
確かに彼は高いレベルものを周りに要求する。
しかし、
それは世界を相手にしてきた彼だからこそだ。
半端なものにはしたくないと言う強い意志と、
常に高みを目指し新しいものを生み出していく原動力ゆえなのだ。
間違ってもスタッフをコマ使いにしているわけではない。
「じゃあその噂って⋯どこからたったんだろうね?」
「そういえば⋯⋯いつの間にかって感じ、
だったような?」
感情が剥き出しの先ほどとは打って変わり、
冷静になりながら彼が考え込む。
スタッフの配置に関しては星崎が、
社長の営業妨害を疑っていた。
正直それは話を聞いた時点で俺も疑った。
あらぬ噂を流したのも、
おそらく社長の可能性が高い。
きっと星崎の味方を減らして、
自分を頼るように追い込みをかけていたのだ。
そう考えると今までのことは全て説明がついた。
誰のことも頼らず、
甘えずに、
問題を1人で抱えこもうとしていたこと、
頼らないのも頼り方を知らないのも、
全部社長のせいだった。
彼は誰かを頼ればその相手が社長に目をつけられるから、
プライベートな時間しか、
誰かを頼ることができなかった。
一緒に食事をした時もそうだ。
子供のようにはしゃいでいたのも、
賑やかな食事を楽しんでいるだけではなかった。
社長もスタッフの目も気にしなくていいから、
心から楽しむことができていたと気付く。
雫騎の雑談コーナー
はいっ!
大森さんの『ヒーロー』っぷりは、
いかがっしょうか?
星崎に『1人じゃないから!』って寄り添うように、
タチの悪いスタッフに反撃かましているところ、
格好いいですよね。
ただ自分の文才でその格好良さが、
十分伝わってるんですかねぇ?
いささか微妙〜な感じです。
伝わってないかもしれない。
そんじゃ本編ですわ〜。
枕営業に盗撮、
さらに追い打ちをかけるように、
今度は営業妨害ときました。
書いてて思うけど星崎って
結構⋯波乱万丈な人生をおくってますね。
それでも大森さんって強い味方を見つけた星崎です。
ここからさらに大森さんが大活躍しますよ。
んで、
星崎とももうちょいイチャついてもらいます。
ではでは〜
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!