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「──ッ」
喉の奥がせり上がり、胃の底が氷のように冷たくなる。拳を強く握る手の平が、嫌な汗で濡れて気持ちが悪い。
ぐうっと、くぐもった声しか出せないでいると、真守が静かな声で言った。
「せやけど、その業は五家全員で末代まで背負う。お前一人に責任は押し付けへん。お前がそのあと責任を感じて腹切るなら、しゃーないから付き合うわ」
真守は俺の胸ぐらから手を離して、ガシッと俺の肩を掴んだ。
「今ここで、やらな──帝都は壊滅すんぞ」
その言葉の重みに初めて、膝から崩れ落ちそうになった。
分かっている。真守の言うことはわかっている!!
だからと言ってすぐに五人を殺せるかと思ったとき、土蜘蛛がまた喚いた。
「なにヲ、ごちゃごちゃト。わかった、まずは一人殺すか」
土蜘蛛がまるで愉快だと、その巨躯を揺らす。
俺も覚悟を決めるしかないのかと、奥歯をギシッと鳴らした。そこに。
「──そんなことしちゃ、ダメ」
混沌とした現場にふわっと優しい声が響いた。
その声の持ち主にまさかと思った。
ばっと後ろを振り向くと。
そこには夜でも輝く、美しい金髪と金の瞳。山吹色の着物を着た──俺の妻。
環が居た。その後ろに碧隊員の姿も見えた。
一体これはどうなっているんだ。
夢でも見ているのかと思った。
環の可憐な声に誰よりも早く反応したのが、屋根にいる土蜘蛛。
土蜘蛛が環を見て叫ぶ。
「あぁァァァァ! 我ノ、キュウビぃぃぃ!!」
それは歓喜と狂気が混じった声。
また振動する空気。その声の大きさの驚きもあったが俺自身も土蜘蛛と環の関係性が分からずに真守や碧隊員と同様に困惑していた。
誰も彼もが|唖然《あぜん》とするなか環だけが声を上げた。
「私はあなたのものじゃない。私は、鷹夜様だけのものです」
環はそう言うと、一気に俺に駆け寄って来た。
「た、環っ!? なぜここに居るんだっ!」
早く御所に行けと言おうとすると、環は俺を真っ直ぐに見つめて視線がぶつかった。
そして環はニコリと笑いながら|躊躇《ためら》うことなくなんと、俺の首に抱きついてきた。
がばっと勢いよく、その華奢な体を受け止める。
鼻先に環の甘やかな香り。腕に感じる柔らかな身体。
その全てが愛しくて、つい抱きしめてしまう。
「鷹夜様。言いつけを守らなくてごめんなさい。でも、私にしかできないことをしに来ました」
「環……」
「帝都の剣に人殺しなんか絶対にさせません。今度は私が鷹夜様を、全てを守ってみせますから」
環はそう言うと、するりと俺の首から手を離した。
そして、俺の胸の中で祈るように両手をすっと合わせた。
※※※
「はっ、はっ、はっぁ、早く行かなきゃっ」
私は葵様と別れて、緊急車両に乗り込んだ。そして大聖病院の手前で降ろしてもらい、そこから封鎖された街中を駆けていた。
人気のない夜の街。道には落とし物がたくさん散らばっていて、人々が慌てて逃げ出したことを窺えた。
視線の先に照明器具に照らされた大きな土蜘蛛がいて、不気味なその姿に足を止めてしまいそうになる。
カンカンとどこからか鳴る警報。冷たい空気。
道をゆくのは私一人だけ。
この帝都に一人だけになってしまったのかという感覚に陥るが、胸の鼓動と共に自分を鼓舞する。
「この先に鷹夜様がいる。だから、なにも怖くない。大丈夫っ……!」
絶対に役に立ててみせる。
今ここで私の炎を使ってみせないと、いつ使うのだ。短い時間だけれども力を使う勉強は頑張ってきた。
「そうよ。だから、土蜘蛛からもう逃げないんだからっ」
大きく手足を動かして、病院へと急ぐ。
そうして真っ直ぐに道を行くと、開けた道に人だかりが出来ていた。
そこには傷付いた人が寝かされていたり、お医者様たちが治療に奔走して、穢れを払っている術師の方があちこちにたくさんいた。
それは野戦病院のような様子で、緊急事態のひりついた空気がビリビリと伝わってきた。
思わずその切迫した様子と、道がたくさんの人で塞がれていて、病院にどう行けばいいか分からなくて、立ち止まってしまった。
「っは、はぁ。凄い人だわ。倒れている人に、介抱している人、五家の方達や、病院の人まで……!」
こんな非常事態に病院への道を聞けないと思っていると「環様っ!」と横からぱしっと手を掴まれて、びっくりした。
驚いて手を掴まれた先をみると、そこにはよく見慣れた黒の隊服を着た碧様が居た。