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限界社畜リーマン青×代行業桃パロ6話目
「ないちゃん、データ見てくれた?」
事務所に戻り、PCに向かっていたところ声をかけてきたのは初兎ちゃんだった。
振り返ることなく画面を注視したまま、「あぁうん」と曖昧に頷く。
「びっくりしたわ、いつもはもっと『さぁ今から告白しますよ!』みたいな空気があるのにさぁ。今日は会話しとったかと思たら、何の前触れもなく急に奪うようにして花束持っていくんやもん、あのターゲット」
ぼやくようにして言う初兎ちゃんは、「危うく撮り損ねるとこやった」と小さく付け足した。
そんな声を聞き流しながら、マウスをかちりとクリックする。
今日も今日とて、初兎ちゃんから受け取った写真をメールに添付して依頼人に送り終えたところだ。
…これで、6日目。明日がまろが言った通り最後の告白代行になる。
「ないちゃん、あの人となんかあったん?」
俺達の様子をいつから伺っていたのか、初兎ちゃんから見てもさっきの別れ際の俺達はどこかおかしかったんだろう。
少しだけ遠慮がちに問われて、俺は小さく頭を左右に振る。
「なんもないよ」
…そう、『何もなかった』。
まろが何であの時あんなに態度を一変させたのかなんて分からない。
だけど一つ言えるのは、それまで楽しかった時間が嘘のように崩れ落ちたという事実。
まるで最初から、俺達の間になんて何もなかったかのように。
そう、何かがあるはずがないんだ本来なら。
ただ「告白される者」と、「その代行を請け負った者」。
ただそれだけの関係で…いや、むしろそれは「関係」なんて言葉を使えるほどにも値しない。
今更改めて痛感させられたそんな事実に、きり、と胃の辺りと胸が痛むのを感じた。
翌日の日曜日。
依頼人からの指定は初日と同じようなスーツだった。
あの時は暗めグレーだったけれど、今日は少しだけ明るめのブラウン。腕にはいつも通り青い大きな花束を抱えた。
朝、勇気を振り絞ってまろにメッセージを送った。
まるで昨日は何もなかったみたいに、「今日はどこで何すんの?」と予定を探る。向こうからも「一日家におるからいつでもいいよ」なんて簡潔な返事が返ってきた。
さすがにこちらの意図は汲み取っているらしく、当たり前のように「告白しにいく」ことを前提として返事をくれる辺り無駄がない。
まず、返信がきたことに安堵する。
それが業務的だろうが義務感からだろうが何でもよかった。
小さく胸を撫で下ろして、俺は両手に余るくらいの花束を抱え直してまろの家の方へと足を向けた。
玄関のインターホンを鳴らすと、「はい」と低い声が応じる。
低いけれどどこか甘さの響く声。俺が好きなまろのトーンだ。
俺がそれに名乗ったり挨拶をしたりするより早く、「ちょっと待っとって」と機械越しの声が告げてくる。
ドアの前で待っている間、ピンク色の前髪を撫でつけるようにして整えた。
鏡なんかがあったらもっと念入りに直していたかもしれないなんてふと思い至っては、「乙女か」と自分で自分に辟易する。
「ごめん、待たせた」
少しして開いたドアの向こうから、まろが姿を見せた。
休日らしくだらだらと過ごしていたのか、ルームウェアに素足。
サンダルをひっかけただけの姿で廊下に出てきた。
後ろ手に玄関のドアを閉めたのは、昨日の俺の言葉を覚えているからだろう。
きっと初兎ちゃんは、今もどこかから俺達にレンズを向けているに違いない。
花束を抱え直した俺を、まろは黙って見つめていた。
これが7回目、最後の告白代行。
いつもみたいにあの決まり文句を口にすればいいだけの話なのに、ぐっと息を詰めたように言葉が喉に張り付いてしまう。
1回目から5回目までは、「代行」としてのセリフであって自分の中から出てきた言葉ではなかった。
6回目の昨日は、口にする前にまろに終わらされてしまった。
…だから、今日が初めてだ。
「代行」としてでなく、その用意されたはずのセリフに自分の想いも乗ってしまうのは。
「…好きです、付き合ってください」
今自分がどんな顔をしているのかも分からない。
どんな顔をすればよかったのかも分からない。
差し出した花束は、いつも通りまろがそっと受け取った。
肯定も否定もせず、ただその気持ちだけを受け止めるかのように。
でも、今日ばかりはそうはいかない。
「まろ、今日は最後だから返事してほしい」
今までは「一週間の告白代行」だったから、告げるだけで良かった。
だけど今日は最後だ。
「答え」をもらって、それを含めた報告を依頼人にしなくてはいけない。
そう伝えると、まろは花束を見下ろしていた目線をゆるりと上げた。
…答えなんて分かってる。
まろは依頼人のことなんて何も知らないんだから。
告白を受け入れるわけもなく、返ってくる言葉を俺は知っている。
だけど……。
「…ごめんなさい」
申し訳なさそうに目を伏せて口にしたまろの言葉は、依頼人じゃなくてまるで自分に言われたみたいだと思った。
心臓を鋭利な何かで一突きされたような感覚。
そして底のない暗い時空へ、落とされていくような感覚。
「…1週間、『代行』に付き合ってくれてありがと」
最後はせめて笑えていただろうか。
困り眉なんて人に称されるように眉を下げ、俺はそうまろに告げるだけで精一杯で。
「またね」なんて言葉は、とても自分の口からは出てこなかった。
その日の夜、いつものように初兎ちゃんから受け取った写真をメールに添付した。
ラフすぎるルームウェアの男と、イキりすぎているスーツの男が2人、マンションの共用廊下で花束を受け渡しているんだから何とも笑えない絵面だ。
マンションの管理人が見つけていたら驚倒していたかもしれない。
いつもと違ったのは、このメールを送信した後すぐに依頼人と通話を繋げたことだ。
カメラをオンにした通話は2度目だった。
1度目は言わずもがな、この依頼を受けた時だ。
『ありがとうございました』
通話が繋がってすぐ、画面の向こうの人物はこちらに向けて頭を下げた。
それに付随するようにして、肩より下くらいまできれいに伸ばされた髪がさらりと揺れる。
丸みを帯びた細いフレームの眼鏡をかけた、画面の向こうのその女性。
まろの会社の隣の部署の子だと聞いている。
地味…というと聞こえは悪いだろうけれど、控えめな雰囲気の女子だった。
『こんな妙な代行依頼を引き受けていただいただけでなく、1週間完遂してくれると思ってなかったのでびっくりしました』
自分でもへんてこな依頼だという自覚はあったのか、苦笑いとも照れ笑いとも言えるような笑みを浮かべている。
10日ほど前、この依頼を持ち込んできたとき彼女は思い詰めたような顔をしていた。
好きな人がいるけれど、告白する勇気はない。
だけど自分の気持ちがこのまま宙ぶらりんになるのは嫌で、伝えるだけは伝えたいと。
そこで「代行」を思いついたんだと言う。
ただし、女性に頼むのは気が引けたようだ。
自分の代理人と言えど、好きな男に別の女性が近づくのは嫌だったんだろう。
だからこそ、男が男に告白代行するなんて妙な構図ができあがってしまった。
そんな異質な依頼だったけれど、今の彼女は10日ほど前とは比べものにならないほどすっきりとした表情をしていた。
目には活気が戻っている。
自分が1週間代行したことで満足してくれたのかと思ったけれど、事実は少しずれたところにあったようだ。
『ないこさんが毎日代わりに告白してくださってるのを写真で見て、最初は嬉しかったです。正体は明かさないにしても、自分の想いはなくならずに済んだ、って』
でも、と彼女は言葉を継ぐ。
『1週間代行していただいて…気持ちが変わりました。ないこさんが代わりに告白してくれてるのを見て勇気をもらえたというか…自分でちゃんと、直接伝えたくなりました』
…そうか、だからそんなに晴れ晴れとした顔をしているのか。
自分の気持ちを、自分で告げて守る覚悟ができたから。
「…そう」
告白なんて、「代行」しない方がいいに決まってる。
だからここは一緒にその勇気を喜んであげるべきだ。
そんなことは分かっているけれど、胸の奥底で違う自分の感情が顔を出す。
1週間の代行料金なら今すぐに全額返してもいい。
むしろ未履行としてその分の弁済をしてもいい。
だから、まろに云わないで。
本当なら縋ってそう言いたくなった感情を何とか押し留める。
「……がんばって」
画面の向こう側へ、眉を下げて無理やり笑ってそう言ってあげることしかできなかった。
コメント
3件
ついに代行を頼んだ方の正体が…✨✨ 隣の部署の方…あおば様の作品に出てくる方は憎めない可愛さがあってどんな子かなぁと想像してしまいました…💕 桃さんが自分の気持ちに気づいてもう嬉しい悲鳴が上がりそうです、!!
はっ!はっ、やばい!!どーしよ! うわぁぁ申し訳なさすぎるけどどうか隣部署の女の子と成功しないでくれ……
わはぁぁぁんもう最高ですリアルに涙ちょちょ切れました😢①って事は②もあったりします?あるなら楽しみにしてます😖