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皆様ごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。私も十五歳となり帝国では成人扱いされる歳になりました。二十歳が成人と言う日本で育った前世からすると不思議な感覚ですね。
さて、エルダス・ファミリーとの戦いの功績からリースさんに一ヶ月の休暇を頂くことになりました。とは言え直ぐには休暇に入れません。目的地も定めていませんし、留守の引き継ぎは完璧にしなければなりません。
ちなみに先日、今回協力した組織である『暁』のボスとリースさんが会談を行いました。協力関係の締結とちょっとした取引が開始されたみたいです。
リースさんも面白い人だと絶賛していましたが、生憎私はその日引き継ぎのため六番街各所にある『オータムリゾート』支店を回っていたので会談に参加することはできませんでした。
個人的にはリースさんがそこまで評価する人に興味はありましたが、仕方無い。リースさんは何れ会わせてくれると言うので、今はその日を楽しみにすることにします。
さて、休暇を頂いたので目的地は定まっていませんが、せっかくの機会なのでこの転生した異世界をゆっくりと見て回ろうと思います。もちろんお姉さまを探す旅路の暇に、ですが。
流石に他国へ行く余裕はありませんが、帝国内を見物するには充分な時間があります。
私は荷物を纏めると愛馬である真っ黒な毛並みの馬、ダッシュに跨がります。
速い馬なのでダッシュ。極めて安直なのは自覚していますが、残念ながら私は前世からネーミングセンスが壊滅的なので許してください。
私の服装は前世のドイツの民族衣装ディアンドルに似たような赤を基調とした服装です。スカートも赤、ブラウスは流石に白にしましたが。
此方では町の女性の一般的な衣装なので、目立つ心配はありません。唯一心配なのは腰に差した愛刀『蝉時雨』くらいでしょうか。北方の地で出会った東方の職人さんに打って貰った日本刀です。やはり手に馴染みます。帝国では西洋剣が主流なので珍しさから目立つこともありますが、そこは諦めます。
せっかく異世界に来たのです。お姉さまを探しながらちょっとした息抜きをしてもバチは当たらない筈。
北方の地で魔物と死闘は繰り広げましたが、冒険の類いは全く経験がないのでちょっと楽しみではあります。願わくば、旅先でお姉さまに関する情報が手に入ることを祈ります。
~六番街『オータムリゾート』本店執務室~
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。今日は『オータムリゾート』へ遊びに来ています。正確には注文していただいた果物を届けに来ただけなんですけどね。
「良く来てくれたな、シャーリィ。まあゆっくりしていけよ」
「ご無沙汰しています、お義姉様」
お義姉様は農園の果物をとても気に入って下さって、うちとしても大口の取引相手となりつつあります。定期的なご挨拶は大事です。
「今日も美味い果物を山ほど持ってきたって?全部買うから金は受付で受け取ってくれよ」
「お買い上げありがとうございます」
馬車に満載してきましたからね、割り引きしても相当な収入になります。
「そうそう、前話してたうちの秘蔵っ子だがよ」
「例の二十人斬りの方ですね?」
「ああ、昨日までは居たんだがな。今朝休暇のために出たんだよ。入れ違いって奴だ。シャーリィに早く紹介したかったんだが、悪いな」
「いえ、お気になさらず。何時でも会うことはできます。次の機会を楽しみにしておきますよ」
「そう言ってくれると嬉しいぜ。さて、堅苦しい話は終わりだ。早速シャーリィが持ってきた果物でジュースを作って飲もうぜ」
「お供しますよ、お義姉様」
私はリースリットお義姉様とジュースを酌み交わして進行を深めました。
その帰り道、セレスティンが御者を勤める馬車で私は風景を眺めながら物思いに耽ります。もちろん最愛の妹であるレイミのことです。
シェルドハーフェンに来てからもあの娘を忘れたことは片時もありません。
組織が大きくなり資金に余裕が出来てきてからは、ラメルさんを初めとして複数人の情報屋に依頼して調査を進めています。
しかし、レイミに繋がる有力な手がかりは未だに掴めていません。
唯一それらしい情報としては、三年前にレイミの特徴に良く似た女の子が北方の大地に居たと言うものです。
これは、元冒険者の方から直接私が聞いた話になります。しかし、か弱いあの娘が魔境の大地である北方に居る筈もなく、私はその情報の信憑性を疑い調査を行いませんでした。
あの日の事を思えば、あの娘は僅か七歳。九歳の私でさえシスターに拾われなければ生きていなかったのは確実ですから、最悪の予測が常に頭に浮かびます。考えたくもありませんが、覚悟は決めるべきでしょう。
この世界は意地悪でクソッタレですからね、私の大切なものをどんどん奪おうとする。レイミを奪うならば世界そのものを敵に回す覚悟です。
「考え事か?お嬢」
同乗しているベルが声をかけてきました。
「妹のことを考えていました」
「そうか。あんまり言いたくはねぇが、妹さんのことは諦めた方が良い。お嬢はシスターに拾われたが、普通七歳のお嬢様が放り出されて生きていけるほど帝国は優しくない」
「分かっていますよ、ベル。それでも、諦めきれないんです。未練ですね、何年も経つのに。」
「いや、直ぐに割り切れる方が異常さ。たまには人間味があるところを見せてくれても良いじゃないか」
「そんなに人間味がありませんか?」
「四六時中無表情だからな」
「失礼な、これでも表情を動かす練習はしています」
「お嬢の微笑みか?ガキなら泣き出しそうな顔してたもんな」
「むぅ」
失礼ですね、誰が顔面凶器ですか。確かにルイも笑顔がひきつってましたけども。
「それより、明後日はダンジョン調査も再開するんだろ?切り替えていけ。今日も訓練するんだろ?」
「勿論です。足手まといになるつもりはありませんよ」
護られてばかりでは意味がありません。私が護らないと世界は私から大事なものを奪いに来るので。
それに、小柄ではありますが身体も成長しました。胸も剣を振るうのに邪魔にならない程度まで育ちましたから。ファック。
これからはナイフではなく剣を振るいます。ようやくお母様から叩き込まれた剣術を活かす機会が生まれました。訓練で感覚を取り戻して、活躍して見せます。
ダンジョン調査に向けて意気込むシャーリィ、旅に出たレイミ。
互いに互いを探しながらすれ違う二人の運命は何時交わるのか。