テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
お化け屋敷の事件が起きてからの1週間。
大学での宮舘(幽霊)は驚くほど【普段通り】だった。
それもそのはず。
岩本が事前に『大学では普段通りに生活する』というのを絶対条件として幽霊に約束させていたのだ。
宮舘の身体は講義中も休み時間も、元の宮舘のように渡辺の隣で静かに過ごしていた。
しかしながら、外見を取り繕ったところで中身は偽物だ。
💙「………」
🖤「………」
渡辺の宮舘への強烈な違和感や、目黒の鋭い警戒心は、隠しきれない重苦しいオーラとなって放たれていた。
***
そして迎えた、デート1回目。
記念すべき最初の行き先として選ばれたのは、落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。
🔴「照、やっほ♪」
💛「……どうも」
待ち合わせ時間の10分前。
二人は、ほぼ同時に待ち合わせ場所へと現れた。
💛「……行こうか」
🔴「うん、行こ♡」
いつもなら自分の隣を歩くのは目黒で、宮舘の隣を歩くのは渡辺なのに。
本来の定位置を変えさせた宮舘(幽霊)は楽しげに岩本と並んで歩いていく。
.
.
.
.
.
💛「……もうすぐ、着くから」
🔴「うん♪」
どこかぎこちない空気のまま、二人は目的の喫茶店へ入り、奥の席に腰を下ろした。
それぞれメニューを見て注文を決めると岩本が呼び鈴を鳴らす。
「お待たせしました。注文はいかがいたしますか?」
💛「……ブラックを1つ」
🔴「チョコレートケーキセット1つ、お願いしまーす♡」
「少々、お待ち下さい」
注文を終えると、2人の間には息が詰まるような沈黙が流れた。
腕を組んだまま硬い表情を崩さない岩本に、幽霊は退屈そうに頬杖をつく。
🔴「何か話してよ〜!つまんな〜い」
💛「……宮ちゃんの見た目で、その喋り方をするのはやめろ」
低く、拒絶を込めた岩本の声。
しかし幽霊はクスクスと肩を揺らした。
🔴「え〜? 俺はこの子じゃないもん!無理だよ〜♡」
そんな風に戯ける幽霊の姿に、岩本は心の中で小さく奥歯を噛み締める。
.
.
.
やがて、注文の品がテーブルに運ばれてきた。
岩本は重い空気を飲み込むように温かいコーヒーを口に含む。
向かいでは、幽霊が嬉しそうにフォークを手に取り、チョコケーキをパクリと口に運んでいた。
🔴「ん〜♡ 美味し〜い♡」
くろ
484
幸せそうに目を細めるその表情は、岩本のよく知る【元の宮舘】そのものだった。
食べることが大好きな宮舘が見せる、いつもの無垢な笑顔。
それを見た瞬間、岩本の緊張の糸がふっと緩み、自然と優しい笑みが零れ落ちた。
しかし、幽霊はその隙を見逃さなかった。
岩本の笑みを見た宮舘(幽霊)の瞳の奥に妖しい光が灯る。
🔴「照♪」
💛「……何」
フォークでケーキを小さく一口サイズに切り分けると、それを岩本の口元へと突き出す。
🔴「あ〜ん♡」
💛「…………」
――試されてる。
岩本の脳裏に直感が走った。
幽霊は自分の要求を岩本がどこまで受け入れるのか、その覚悟を見定めようとしている。
🔴「照、ま〜だ〜?」
💛「…………」
数秒の葛藤の後、岩本は覚悟を決めた。
ここで拒絶して機嫌を損ねるわけにはいかなかった。
岩本は少しだけ身を乗り出し、差し出されたフォークからケーキを口に含んだ。
🔴「照、美味しい?」
宮舘(幽霊)が頬杖をして岩本に、さも愉快そうに尋ねた。
💛「……あぁ」
本当なら自分も大好きなチョコケーキ。
しかし、喉を通ったそれは味のないガムを噛んでいたかのように全く味がしなかった。
.
.
.
食べ終わり、会計を済ませて喫茶店を出た二人は最初の待ち合わせ場所へと戻ってきた。
🔴「……照、また来週♡」
💛「……あぁ」
幽霊は岩本の前に回り込むと妖しく底の知れない笑顔を浮かべて顔を近付けた。
🔴「……今度はもっと楽しませて、ね?」
それだけを言い残し、幽霊は宮舘の身体を揺らしながら人混みの奥へと消えて行った。
その姿が完全に交差点の向こうへなくなり、見えなくなった、その瞬間だった。
「岩本くん……!」
「照……!」
背後から声をかけられ、岩本が振り返る。
そこに立っていたのは、目黒と渡辺だった。
最初の待ち合わせの段階から、二人はずっと距離を置いて後をつけていた。
🖤「岩本くん、大丈夫……?」
目黒が痛々しいものを見るような目で、岩本の顔を覗き込む。
恋人が別の男(の姿をしたもの)とデートし、あ〜んまでされている光景を見せつけられていたのだ。
目黒の心境も複雑なはず。
それにも関わらず、自分以上に岩本の精神面を心配していた。
💛「大丈夫。…………翔太」
岩本は、隣で拳を握りしめて俯いている渡辺に視線を向けた。
💛「俺が必ず、宮ちゃんを助けるから。お前の元に、絶対に返すから」
💙「……頼む」
渡辺は顔を上げないまま、消え入りそうな声で小さく呟いた。
その短い言葉には友人への絶対的な信頼と、恋人を奪われている悔しさが滲んでいた。
こうして、張り詰めた緊張感の中で1回目のデートが幕を閉じた。
【残りデート数:4回】
コメント
4件
くぅ〜↑ でも🔴も可愛いところあるなぁ〜♪

あー、これめっちゃ苦しい回だった……!岩本が「あーん」を受け入れるシーン、試されてるって分かってても飲み込まざるを得ないのが辛すぎる。宮舘の見た目で無邪気に振る舞う幽霊の怖さがじわじわ来るし、後ろで見てる渡辺と目黒の気持ちも重い。残り4回のデートカウントダウン、どう転ぶか気になって仕方ないわ🔥