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酔いrdpn、付き合ってない
rd side
「キスはレモンの味がするって言うけど、実際どうなんだろうな」
馬鹿げた行動に曖昧な戯言、酔っ払えば思考は鈍く回らなくなっていた。適度に嗜んでいた缶ビールも、今ではドバドバと気持ち悪くなる程飲み込んでいた。元はと言えば、宅飲みをしようと最初に誘ったのは俺だった。そこからぺいんとが話に乗って、身近な事を駄弁り続けばお互い調子に乗ってしまい、現在に至る。
友人とソファに座りながら、お互いだらけながら酒を飲み呑まれ、アルコールの作用で場の雰囲気は歪んで見えた。
「いや知らねぇよ」
ワンテンポ遅れてぺいんとも言葉を返すが、少々呂律が回っていないその声は酔っ払っている事を証明していた。ぺいんとは酒には弱くないものの、此方の倍は飲んでいた為いつもより虚ろだった。心地良くも悪くもない沈黙が部屋を満たしたが、次に口を開いたのはぺいんとの方だった。
「…気になるなら、試してみる?」
「は?」
友人の言葉に思わず間抜けな声を漏らすが、ぺいんとは気にしていないようだった。酔っ払い相手にまともな反応をしたって無意味だろう。ぺいんとは新しい缶ビールを開けながら、コンビニで買っていたツマミをちびちびと食べていた。
「お前酔い過ぎ、その冗談はマジ無いわー」
「勝手に萎えんなよ」
グチグチ言ってやればぺいんとに缶ビールをひったくられ、目の前のコーヒーテーブルへと静かに缶を置いていた。微妙に眉を上げながらぺいんとを眺めていたが、反応するよりも前にすぐ視界が反転した。どうやらソファに押し倒されたらしい。衣服の擦れる音が聞こえながら、当のぺいんとは此方の腹上に跨ってきていた。
「わざわざ聞くって事はしたいんだろ?してやるから目閉じろよ」
「イヤー!!ぺんちゃんに襲われちゃう!!マネージャーにクレーム入れるからな!」
「それはマジ迷惑だからやめろ!!」
ひときしり騒いだ後 再び沈黙が部屋に忍び寄る、先程よりも居心地悪く感じられた。二人のゆっくりとした息遣いが耳へと妙に響きながら、上から覆いかぶさられるかの様に此方へ影が掛けられた。そこでようやく互いの顔の近さを自覚したが、先に来たのは唇に当たる慣れない感触だった。
友人にキスされたのだと悟ったが、お世辞にも柔らかい唇とは言えず、少し乾燥してカサついた唇はまさに男のものだと認識させられた。ずさんなキスはただ唇が押し付けられているだけで、快楽も何も無かった。反射的に目を閉じそうになるが それを堪え、代わりに相手の肩を掴んで無理矢理に引き剥がす。
「…味は?」
「酒」
考える間もなくぶっきらぼうに返事をする。相手と宅飲みしている時点で、今したキスの味なんて最初から分かっていた。億劫そうに上半身を起こしぺいんとと目線を合わせる。無意識に動いた腕がぺいんとの腰に巻き付くより先に、相手が膝上から降りていた。空回りした中途半端な腕を脇に戻し、再びソファの背もたれに寄りかかった。ぺいんともきちんとソファに座り 再びツマミを食べ始める中、微妙な空気が漂っていた。
「…中々に男前な行動だったよ、俺が女だったら確実に惚れてたね」
「男でも惚れろよ」
普段言わなそうな事を勢いで言っている辺り、ぺいんとが自分の言葉の意味を考えないほど酔っているのだと 理解するのは他安かった。面倒くさそうに溜め息をつきながら、拙い動きでポケットからスマホを取り出す。早いところお暇してもらった方が楽になる。
「まぁじで酔い過ぎだよお前。タクシー呼んどくから帰る準備しとけ」
「泊まってく」
「は?」
酔っ払いの戯言だと無視すれば良かったのだが、ぺいんとの言葉が妙にハッキリしていた為、すぐに否定は出来なかった。
「だぁからぁ!!泊まってくっつってんの!!!」
「あー!うるさいうるさい!静かにしろよ近所迷惑だって!!!」
「お前も人のこと言えないだろ!!!」
ぺいんとのお構い無しの声量に、大袈裟な反応をして両耳を指で塞ぐ。もう缶ビールに手を出してはいなかったが、はしゃぎ続ければアルコールは体中により早く巡っていた。
しばらくはお互い騒ぎながら文句を言いあったが、口論に先に疲れたのは此方だった。そもそも、ぺいんとの頑固さに抗う方が無駄だ。諦めたかのように一息つき、ふらついた足取りでゆっくりと立ち上がって 似合わない拗ね顔をした友人を見下ろした。
「分かったよ…でも俺がベッドで寝るから、お前はソファで寝ろ」
「…ん」
曖昧な返事をしながら頷く友人を他所に、鼻で笑いながらソファから離れた。ぺいんとが普段もこれくらい素直ならどれだけ良いものか なんてありもしない事を考えながら、自身の寝室に向かう為にリビングから出ていった。
カーテンの隙間から差し込む眩い朝、二日酔いで痛む頭痛は 良い眠気覚ましになっていた。寝疲れた様な大きなあくびをして、気だるげにソファの肘掛けに腰を下ろした。そのままソファで横たわっている、頭を抱えた顔色の悪い友人を見下ろす。
「おはよ、ぺんちゃん。昨日の事覚えてる?」
「殺してくれ」
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