テラーノベル
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忙しい金曜日が終わり、土日も終わり、夏芽が出勤する月曜日に。
名論永(めろな)が出勤するとすでに夏芽が出勤していた。
「あ、お疲れ様です!」
元気いい挨拶が飛んでくる。
「お疲れ様です」
「めろさんお疲れ様です」
カウンター内から神羽も挨拶してくる。
「あ、お疲れ様です」
「店狭いから金城崩(かなしろほう)さんが大体やってくれてますわ」
と神羽が言う。
「あ、そんな早くから来てるんですか?」
「はい。めっちゃ早くから来てたので」
「へぇ〜」
名論永も控え室というか更衣室へ行って荷物を置いて、エプロンをつけて戻る。
「でもなんであんな早く来てるんですか?」
神羽が夏芽に聞く。
「あ、ご迷惑でしたか」
「あ、全然全然。単純な疑問です」
「沖縄県民の県民性って知ってます?」
「県民性?酒強いとか?」
神羽が言う。
「おおらかとか」
名論永も言う。
「おおらかが近いです」
「おぉ〜。めろさん1ポイント」
神羽が勝手にポイントを割り振る。
「いつのまにかクイズ番組始まった」
「沖縄県民って時間にルーズって聞きませんか?」
「あぁ、聞いたことある」
「オレもテレビで見た気がする」
「そうなんです。ま、ちゃんとしてる人ももちろんいますけど、私の周りはみんなテーゲーな人が多いんです」
「「テーゲー?」」
「テーゲー。テキトーとかルーズみたいな意味で」
「沖縄弁だ」
「そうですね。そう。私の周りには時間とかテキトーな人が多くて。
家族もみんなテキトーな人が多くて。親戚も友達も」
「ま、オレの周りもそうですけどね」
と言う神羽。クスッっと笑ってから夏芽は続ける。
「だから私も割とルーズな性格になっちゃって。友達と13時待ち合わせで、1時間遅れて行っちゃって。
でも友達も1時間遅れてきて「タイミングちんとぅ!」って笑って」
「ちんとぅ?」
名論永が疑問に思う。神羽も疑問に思いつつも
下ネタ?
と思いつつも文脈的にあり得ないと、頭から排除するように頭を振った。
「あ、タイミングぴったりだねってことです」
「でも1時間遅れるんですね。オレぎおちんと遊ぶ約束して、ぎおちんが1時間遅れてきたら蹴るわ」
と「すまん!」と言っている銀同馬(ぎおま)のお尻を蹴っているところが容易に想像できた神羽。
「そうですよね。東京の人は厳しいって聞いたことがあったので」
「ま、人によるんじゃないですかね」
「そうっすね」
「オレもそんな厳しくはないし。ぎおちんだけかな。あの人テキトーすぎるから」
「でも沖縄県民はテーゲーな人の割合が多いから、それを許す割合も多いんです。だから治りづらいというか」
「おぉ。めろさんの言ってた通り、おおらかだ」
「だね」
「そうですね。だから私遅れないように早めに来てるんです」
「なるほどねぇ〜。偉っ」
「偉いですね」
「偉いんですかね」
「偉いでしょー。まだ会ったことないけど、うちにはもう1人ぎおちんっていうバカがバイトでいるんですよ」
「ぎおちんさん。さっき店長さんの話にも出てきた」
「そうそう。遅れてきたら蹴るって言ってたやつ。オレの1個上なんですけど」
「あ、先輩さんなんですね」
「そうそう」
と言ったものの
先輩“さん”?
と疑問に思った。名論永も
先輩“さん”?
と思っており、言った夏芽本人も
先輩“さん”ってなんやん?
と思っていた。
「ま、まったく尊敬できない先輩なんだけど。ぎおちんはたぶんへーきで遅れるし
あの人バイト初日どうだったっけな…。さすがに遅れなかったか?
いやでも金城崩さんはマジで偉いっすよ。…っていっても
金城崩さんもぎおちんと比べられても嬉しくはないか」
と神羽が笑う。
「あ、いえ、そんな」
「大丈夫。ぎおちんに会えばわかります。どれだけクズかが」
「クズ」
思わず名論永。
「お疲れ様でーす」
と雪姫(ゆき)が出勤してきた。
「おぉ。お疲れー」
「お疲れ様ー」
「お疲れ様」
「めろさんもお疲れ、様、です…」
と言いながら名論永の奥に夏芽の姿が見えて挨拶がデクレッシェンド気味になる雪姫。
「お疲れ様です!」
そんな雪姫に対しても元気いっぱいの挨拶の夏芽。
「あ…ども…お疲れ、様です…」
消え入りそうな声で、目も合わせず挨拶をして、控え室というか更衣室というかに入っていく夏芽。
「私嫌われてますかね」
「大丈夫大丈夫。ものすごい人見知りなだけだから」
「そ、う、なんですかね」
「そうそう。そのせいで大学でもボッチだったっぽいし」
控え室というか更衣室まで聞こえており
「余計なこと言わんでいいっての」
と呟きながらエプロンをつける雪姫。みんなで少しだけ駄弁り
開店時間の少し前に暖簾を出し、看板や提灯の明かりをつける。
「近いうちにキッチンも経験してもらいますけど、今日はまだシフト2日目ですから、初日のおさらいというか
今日も飲み物とかは作らなくていいので、注文取ってカウンターやキッチンに通すってのをお願いします」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「ま、ホールは注文うんぬん覚えたら終わりみたいなもんですから」
「そうなんですか?でも飲み物」
「まあ飲み物の作り方とかも覚えてもらったら楽ですけど、基本は自分がやっちゃうので。
仮に自分が体調不良とかでいない日は」
神羽が名論永の肩に手を乗せて
「めろさんがやってくれるんで」
と言い、名論永は少し恥ずかしそうに、でも笑顔で頷く。
「自分がいなくてめろさんもいないなんて日はないと思うんで、大丈夫だとは思います」
「そうなんですね」
「それよりもキッチン覚えてもらって、ぜひとも沖縄料理をメニューに加えたいんです」
と目を輝かせながら言う神羽。
「沖縄料理のあの感じ?癖があるんだけど癖がないみたいな?個性強いけど馴染みやすいみたいな?」
名論永も夏芽も雪姫も
自分(神羽)のことかな?
と思う。
「癖あります?」
「癖っていうと臭いとかみたいな話に聞こえるかもだけど、違くて
土地柄が濃いっていうのかな?沖縄料理って知らなくても
「あ、これ、沖縄料理じゃね?」ってわかるみたいな?」
「あぁ。わかるかも」
名論永も同意する。
「…」
雪姫もキッチンで一人スマホ片手に、視線を天井に向け、少し想像し
「…あぁ。わかるかも」
と同意した。
「そうなんですかね」
「それがすごくいいんだよねぇ〜。ま、少なくともオレは好き」
「オレも好き」
キッチンで
「ま、私も嫌いじゃないけど」
独り言を呟く雪姫。
「だからキッチン覚えてもらって、金城崩が予定合う日に集合して、新メニュー会議的なものをしようかと」
「なるほどですね」
そんな話をしていると最初のお客さんが来て、そこからちらほら、どんどんとお客さんが入ってきて賑わう。
基本的には注文を取るのは雪姫にまかせて、名論永がアシストして
神羽はカウンターで常連さんと話をしながらも飲み物を作る。カラガラカラと引き戸が開き
「いらっしゃいませ!」
と夏芽が元気よく迎える。
「あれ?店間違えた?」
と一度外に出て暖簾を確認する漆慕(うるし)。
夏芽は漆慕のTシャツの襟首から見える胸のタトゥーと左腕のレントゲンのような骨のタトゥーを見て
うわ。恐い人かな
と思う。
「あ、漆慕くん、合ってる合ってる」
と少し笑いながら言う神羽の声に
「あぁ。合ってたわ」
と入ってくる漆慕。
「あ、めろさん。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
漆慕はエプロンをつけた夏芽を見て固まり
「…えぇ〜っと…。どちら様?」
と神羽と名論永に言う。
「あぁ。うちに入ってくれた新人ちゃん」
と言う神羽に頷く名論永。
「あ、そうなんですね」
「あ!はい!初めまして!き、金曜日から入り、らせていただきました金城崩(かなしろほう)夏芽です!
ご迷惑をおかけするかともしれませんが、どうぞよろしくお願いします!」
と恐い人かもと思っている夏芽は固くなりながら挨拶し、思い切り頭を下げた。
「あぁ。めちゃくちゃ丁寧にありがとうございます。自分は円鏡(まるきょう)漆慕(うるし)です。
神羽の高校のときの先輩です。こちらこそよろしくお願いします」
と漆慕も頭を下げる。
「もしかして金城崩さん、漆慕くんのこと、ここの店のオーナーの恐い人だとでも思ったんじゃない?」
ギクとする夏芽。
「あぁ。タトゥーね。怖いですよね。すいません」
謝りながらカウンター席に座る漆慕。
「あ、いえ。…ま、多少は恐いと思いましたけど。でもタトゥーは見慣れているというか。
近所のお兄さんとかタトゥー入ってる人もいたので」
「あぁ。沖縄の話?」
「あ、沖縄出身の方なんだ?」
「そうなんです」
「でもさすがにここまで入ってる人はいなかったでしょ」
と神羽が笑いながら言う。
「そ…うですね」
なんて話をして、24時、12時、0時を回り、終電時間が近づくとお客さんも減り落ち着いたので
「んじゃそろそろ。金城崩さんはどうする?あ、金城崩さんの飲み物、めろさんお願いします。
オレは引きこもり姫の飲み物を」
といつも通りの乾杯をしようとキッチンの暖簾に頭を入れ
「梨入須(ないず)ー。なににするー?」
と雪姫に飲み物を聞く。
「甘いやつー」
「なんだよ」
「んー…ピーチフィズ」
「はいはい。ピーチリキュール炭酸割りね」
「台無し感すごいわ」
雪姫の飲み物を作る神羽。
「金城崩さんはどうします?」
「あぁ〜…レモンサワーで、お願いします」
「はい」
夏芽の飲み物を作る名論永。
「あ…あの後読みました?」
切り出す名論永。
「あ、え!あ、はい!少しだけですけど」
「そっか。最初のほうは少し重い話というか、ですよね」
「そうですね。社会人辛いなって感じです」
「だよね」
と笑いながらできたレモンサワーを夏芽に渡す。
「ありがとうございます」
神羽もキッチンの雪姫を呼び、雪姫は嫌々立ち上がり、暖簾から顔だけを出す。
「ほい、めろさん」
と神羽がいれてくれたビールを差し出す。
「あ、ありがとう」
神羽も自分のビールをいれて
「それでは、一旦お疲れ様でしたー乾ぱーい!」
「「「かんぱーい」」」
4人でカキンコキンとグラスをあてて乾杯した。乾杯してすぐにキッチンに引っ込む雪姫。
「金城崩さん、乾杯。オレ割と常連だから、これからよろしくね」
と漆慕がビールのジョッキを上げる。
「あ、どうも。こちらこそよろしくお願いします」
夏芽と漆慕も乾杯する。
「みんなもお疲れ様」
と漆慕はジョッキを上げる。
「ありがと〜漆慕くん」
「ありがとうございます」
「梨入須(ないず)さんもお疲れ様」
と少し大きな声で雪姫に聞こえるように言う漆慕。
「あいつ人見知りだからなぁ〜」
と神羽が言うと、暖簾からひょっこり顔を出し
「あ、…ありがとうございますお疲れ様です」
と恥ずかしそうに、目を合わせるのが苦手だが、目を合わせないと失礼かな?と
チラチラと漆慕に視線を合わせて外してを繰り返して言って、またキッチンへと引っ込んでいった。
「おぉ〜。さすが人心把握の天才、漆慕くん」
感心する神羽。
「言い方。人聞き悪いわ」
笑いながらビールを飲む漆慕。
「でも事実じゃない?ホストでいつでもナンバー1になれるって言われたことあるんでしょ?」
「まあ…ナンバー1の人には可愛がってもらってたけど。でもそれ新人ホストに言う定番のセリフだから」
「そうなん?」
「ほら、辞められないように、意欲出してもらうためにね」
「あぁ〜」
「ホストさんだったんですか?」
「ホストさん」
漆慕が笑う。
「可愛い言い方しますね」
「え」
漆慕が微笑む。中性的な顔と中性的な声の漆慕に
うわっ。この人カッコいい。これが東京の人か
と思う夏芽。
「言い方もそうだけど、顔も整ってますよね」
「え…いや、そんなことは」
と漆慕に褒められ、少し照れる夏芽。
「でもたしかに、金城崩さん可愛い顔立ちですよね。さすがは沖縄って感じ?」
と神羽が言うとキッチンから足が伸びてきて蹴られる。
「いった!」
「沖縄?関係あるんですかね?」
「沖縄の人ってなんか顔濃くない?」
と漆慕が言う。
「そうですかね?」
「ね?めろさん」
漆慕が名論永に話を振る。
「え?あぁ。まあ。有名で可愛い女優さんとかも沖縄出身だったりしない?」
「あーそうそう」
「…まあ、たしかに、そうかな」
「金城崩さんも例に漏れず、本土の人とは違って濃い系の可愛い顔してるなーって。ね?めろさん」
「え?」
と夏芽を見る名論永。夏芽も名論永を見る。目が合う。なぜか心臓が跳ねた。
「かわ…」
可愛い顔…たしかに
と思い
「たしかに」
と言う名論永。ぽっっとなる夏芽。
「へぇ〜?」
小さく呟く漆慕。
「アルコール強いですよ、このレモンサワー」
「え。あ、そお?ごめんなさい」
「あ…いえ。あ、文句とかではなくて…」
という2人を見て
「通い甲斐が出てきたねぇ〜」
と呟く漆慕。そして「あっ」っとなにか気づいた表情になって
「でもあんま可愛い子に可愛いって言ったらまずいか」
と言う漆慕。
「なんで?別に良くない?事実は事実だし、漆慕くんはその仕事してたんだからなおさら」
「いや、ま、オレはいいんだけどね?でも可愛いって言った女の子になにかあったらね…」
全員「?」となる。
「ん?漆慕くん、どゆこと?」
「ん?いや、可愛いって言った女の子に、オレのストーカーちゃんがなにかしないか心配で。
ま、なにかする人ではないだろうけどね?万が一の話」
またも全員「?」となる。
「ん?ん?ん?漆慕くん今なんて?」
「ん?万が一だけど」
「違う違う。その前」
「その前?…何言ってたっけ…。あぁ、心配?」
「違う!ストーカーって言った!?」
「あぁ、それね。うん、言った」
「マジで!?聞いてない!」
「うん。初めて言ったもん」
「え!?え!?いつから!?」
「いつから?…気づいたのは1年くらい前かな」
「1年も前から!?」
「うん。ホストしてたときのお客様で、あ、偶然会うなぁ〜ってのが何回かあったから
その人のアカウント見たら、オレが過ごしてたとこに近いとこでお茶してたりってことが
めっちゃ多くて「あ、たぶんストーカーだ」って思った」
「うわぁ〜…。マジでストーカーってあんだ?ドラマとか、ニュースとかでもたまに見るけど
なんか現実感なかったけど、漆慕くんので一気に現実味出たわ」
「ホストやられてたのっていつからなんですか?」
夏芽が聞く。
「20歳(ハタチ)から22まで」
「あ、もうお辞めになられてるんですね」
「そうなんです」
「…でもそうだとしたら、気づいたのが1年前でも
もしかしたらストーカー始めたのは、ホストやめられてからじゃないですか?」
「てことは…3年?」
名論永が言う。
「あ、そっか。店長さん」
「ん?オレ24で漆慕くん1個上」
「なるほどですね」
「ヤンキーだったんですよね?」
名論永が神羽に冗談混じりで言う。
「いやいやいやいや。全然全然。ですよね?」
神羽が漆慕に振る。
「まあぁ〜。オレはヤンキーじゃなかったけど神羽はヤンキーだったなぁ〜」
「どこがっすか」
と笑う神羽。
「てか今思ったんすけど、一時期オレのことじんって呼んでなかったっすか?漆慕くん」
ビールを飲みながら漆慕に疑問をぶつける神羽。
「あぁ〜。そうね。てか銀(銀同馬(ぎおま))はまだ呼んでるよね?」
「そうそう。なんかすぐ呼ばなくなったけどなんでかなぁ〜って」
「なぜ今?」
「…んん〜…わからん」
「まあぁ〜、単純に銀と被るからかな」
「あぁ〜」
「あぁ〜」
「なるほど」
話を聞いていた夏芽と名論永も納得する。
「銀のことは中学からかな?銀って呼んでたからな」
「そっか。ま、そうですよね。ぎおちんとは小学生からの幼馴染ですもんね」
「そうそう。まさかあんな赤髪のバカになるとは思わなかったなぁ〜…」
「たぶんぎおちんも漆慕くんがタトゥーまみれになるとは思ってなかったと思いますよ」
と笑う。
「たしかに」
漆慕も笑う。そんなこんなで閉店時間になり、漆慕も一緒に閉店作業をする。
「なんかいつもすいません」
「身内の店だから当たり前だろ」
「カッケェ〜」
閉店作業を終え、漆慕が先に店を出て、引き戸を押さえて、雪姫、夏芽、名論永の順で外に出る。
神羽が店の電気を消して出てくる直前で引き戸を閉める漆慕。
「ちょ」
引き戸を開いて
「なんで閉めるん」
とツッコむ神羽。
「漆慕くんこーゆーお茶目なとこあるんだから。…そこが女子を虜にするのか…」
「どうかな?」
「もー!そーゆーとこも!好き!ってなるんだろうな…。うん。
ま、じゃ、めろさん、金城崩さん、本日もお疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
「金城崩さんには明日ー…はあれか。
今度の木曜くらいから徐々にキッチンにも入ってもらおうかなと思ってるので
そのつもりでよろしくお願いします」
という神羽の横でスマホをいじりながら
「マジかよ」
と呟く雪姫。
「こちらこそよろしくお願いします!あ、梨入須(ないず)さん
ご迷惑をかけるともいますが、よろしくお願いします!」
と神羽にも雪姫にも頭を下げる夏芽。雪姫は無言でスマホをいじりながらペコッっとする。
「ま、というわけで2人とも、明日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「梨入須さんもお疲れ様」
「うっす」
「じゃ、めろさん、また」
漆慕が名論永に手を挙げる。
「はい。また」
「金城崩さんも。また」
「あ、はい!」
「オレのストーカーちゃんに気をつけてね?大丈夫だとは思うけど」
「恐いこと言わないでくださいよ」
と笑う。そして漆慕、神羽、雪姫の3人と夏芽、名論永の2人にわかれて帰る。
「あ、そうだ」
漆慕が立ち止まる。
「オレちょっと買い物していかないと」
「コンビニで?じゃ、オレも行く」
「神羽は来んでいい」
「え?」
「じゃ、梨入須さん、またね」
「あ、…はい。お疲れ様です」
と言って漆慕は1人でコンビニへ行った。
「なん?ま、いいや。帰るか」
「うっす」
と神羽は雪姫を家まで送っていった。
「あ、あの」
「はい?」
「めろさんっ小説、どれくらいお持ちなんですか?」
「どれくらいかぁ〜…」
頭の中で数えようと試みるが、まだ読んでいない詰み本を数えようとするだけで
「…わかんない…」
心が折れた。
「そんなに持ってるんですか?」
「うん。詰み本がたくさん」
「その中でも特におもしろかったのってなんですか?」
という質問に様々なタイトルが思い浮かんだが
「あぁ〜。でも「人生色のパレット」はおもしろかった。というか人生の一部になったかも」
と夏芽も読み始めた「人生色のパレット」のタイトルを出した。
「そんなにですか?」
「まだ序盤なんだよね?」
「はい」
「最初のほうは小説あんま読まない人からしたら読み進む手遅いと思うけど
ある点からスラスラ読める、と思う」
「へぇ〜」
「なんか本当に世界が色付いたような感覚になるんだよね。
なんか、オレはね?読んでるときに情景を想像しながら読んでるんだけど
もちろん、前半のちょっと重い部分も色付きの映像で想像してるんだけど
ある部分から急に世界が鮮やかになる気がするんだよね」
とそれこそ色付いたように活き活き喋る名論永を見ながら頷く夏芽。
「めろさん、小説のこと話すとき、楽しそうですよね」
「あ、…そう…かな?」
「はい」
「なんか恥ずかしいね」
「そうですか?仕事にできるように努力できる好きなことあるって羨ましいです」
「…ま、仕事にはできていないんですが…」
「私なんもないからなぁ〜…」
と話していると夏芽の家の前に着いたので
「じゃ、お疲れ様」
「はい。お疲れ様でした」
「また明日?てか今日か」
「そうですね。また今日もよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
お互い頭を下げて、手を振ってわかれた。夏芽はベッドに倒れ込み
「ぬーんちわんあぬとぅち照りたるんだる?」
と言いながら頬を触っていた。
名論永も家に帰り、本棚に飾った「人生色のパレット」に目をやる。
不思議と色付いているように見えた。
「こんな本…書けたらなぁ〜…」
という思いで眠りについた。
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