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「久しぶりの再会で、積もる話もあるだろう。一緒に礼拝堂へ行くのはどうかな」

 

レリアの婚約者だという王太子の申し出に、断る言葉など、この俺が持ち合わせているだろうか。

 

「そもそも、お前が王太子殿下の婚約者なんて、聞いていないぞ」

 

礼拝堂に着いて早々、俺はレリアを問い詰めた。王太子が気を遣って、傍から離れてくれたからだ。

 

「う~ん。色々あって、そういうことになっちゃったのよ」

「なっちゃったって、お前……」

「今は侯爵令嬢なんだから、別におかしくはないでしょう」

 

王太子の前でしおらしくしていた態度はどこへやら。レリアは嘲るような笑みを浮かべた。

 

「それよりも、エリアスはどうなの? お嬢さんとは上手くいっているわけ?」

「……もうすぐ婚約するんだ」

「大出世じゃない!」

 

俺の答えに、レリアは何故か、自分のことのように喜んでいた。

無理もない。向こうは王太子と婚約したんだ。

規模は違えど、お互い、良い未来が待っている。同じ孤児院出身の身としては、喜ぶべきことだった。

 

「おめでとう、エリアス。私も安心したわ」

「何で、お前が安心するんだ」

「だって四年前は、捨てられて、すぐに戻ってくるんじゃないかって、思っていたから」

「んなわけないだろう」

「そう? あの時、お嬢さんを困らせていたじゃない。だから、てっきりそうなるだろうって皆、言っていたんだから」

 

まさかと思うが、賭けまでしていたんじゃないだろうな。首都に帰ったら、確認してみるか。

そんなことを考えていると、突然、聞き慣れた声が耳に入って来た。

 

「わぁ!」

 

悲鳴とは違う。驚いたような声だった。それもマリアンヌの声。短くても、聞き間違えるはずがない。

 

「マリアンヌ!」

「え? お嬢さんがいるの?」

 

俺はレリアの質問に答える余裕もなく、急いで礼拝堂の入り口へと向かった。マリアンヌが背中を摩っているのが見えたからだ。

 

やっぱりオレリアと一緒にいさせるんじゃなかった。

 

 

***

 

 

どうやら二つの誤解があったらしい。

 

一つ目は、マリアンヌがオレリアに危害を加えられた、と俺が思い込んでいた件。

それは二つ目の誤解によって、生じた出来事だった。

 

俺がレリアと話していた姿を見て、浮気したとマリアンヌが誤解した、二つ目の件。正確に言うと、嫉妬……してくれていたらしい。

レリアとはそんな関係じゃないし、マリアンヌに誤解されたままなのも困る。が、まさか嫉妬してくれていたとは思わなかった。

 

あの場でレリアが茶化してくれなければ、この感情を隠せなかっただろうな。そういう点では、感謝しなければならない。

 

けれどそんな中、一つだけ気になったことがあった。マリアンヌの反応だ。

 

孤児院出身のレリアがバルニエ侯爵家の養女になったのは、確かに驚くべきことだろう。だが、マリアンヌの反応は、それとは違うものだった。

何というか、ショックを受けたような顔……いや違うな。疑心だ。それも不快を感じた疑心の表情だった。

 

何故だ? 俺が伯爵になるのは許せても、レリアが侯爵令嬢になるのは嫌なのか?

 

信じたくはないが、マリアンヌもリュカやポールのように、孤児が貴族になるのは嫌だって思っているのだろうか。

 

「エリアスが礼拝堂に来たがっていたのは、お嬢さんとの待ち合わせ場所だったんですね」

「うん。エリアスを礼拝堂まで案内してくれてありがとう、バルニエ侯爵令嬢」

 

どうやら、俺が浮気していないことを、レリアがマリアンヌに説明をしていたらしい。

こっちに合流していいのか迷っている王太子が傍にいるのだ。そりゃ、レリアも必死になる。

 

バルニエ侯爵家の養女になったことでも、孤児院では大騒ぎになったのに、今度は王太子の婚約者だ。

レリアとしても、ここで失敗するわけにはいかなかった。

 

「そんな、お嬢さんにお礼を言われるほどのことじゃありませんよ。それに、私のことはレリアと呼んでください。お嬢さんに侯爵令嬢とか言われると、恥ずかしいです」

「……よく分からないけど、分かったわ。なら、私のこともマリアンヌって呼んで。レリア嬢も、今はお嬢さんなんだから」

「はい! よろしくお願いします、マリアンヌ嬢!」

 

傍から見れば、レリアの態度に、マリアンヌは普通に接しているように見えるだろう。けれど俺には、内心戸惑っているのが手に取るように分かった。

無理もない。マリアンヌは孤児院での自分の評価を知らないからだ。

 

実は、四年前の誘拐騒動と、二年前の毒殺未遂の件で、マリアンヌは薄幸の令嬢と認識されてしまっていた。つまり、庇護すべき存在。それが孤児院の子供たち一同の考えだった。

 

加えてレリアにとっては、貴族令嬢のお手本でもある。話し方や振る舞いなど、マリアンヌを真似しているらしい。

 

俺から見れば、全然似ていないし、気持ち悪いからやめてほしかった。

 

そんな憧れともいうべき存在を目の前にして、レリアははしゃいでいるだけなのだが……。事情を知らないマリアンヌは、ただただ戸惑うだけだった。

 

そろそろ助け舟を出さないと、レリアが何を言い出すか分かったものではない。

 

「レリア、その辺にしておけ。お前にも連れがいるだろう」

「あっ、そうだった。お嬢、じゃなかった。マリアンヌ嬢に会えたのが嬉しくて、忘れていたわ」

 

婚約者を忘れるな!

 

「あの、紹介してもいいですか? その、私の婚約者なんです」

「婚約者!? それはおめでとう、レリア嬢。私は構わないけど、いいの? 相手の方の承諾も得ないで」

「はい。大丈夫です」

 

レリアはそう言うと、こちらを窺っていた王太子に向かって手を振る。ようやく許しを得てホッとした表情を見て、王太子も大変なんだなと思った。

 

レリアは婚約者だからいいとしても、マリアンヌやオレリアは畏まってしまう。それを考慮して、今まで我慢してくれていたのだ。

 

「こちら、私の婚約者のフィルマン・ヨル・バデュナン王太子殿下です」

「お、王太子殿下!?」

 

ほら、マリアンヌが驚いている。オレリアは来客を把握していたからなのか、驚きはしないが、マリアンヌと同じように、頭を下げていた。

王太子が片手を上げると、二人は元の体勢に戻る。

 

「こちらが、私がよくお話しするマリアンヌ・カルヴェ伯爵令嬢です。フィルマン様」

「あぁ、そなたが。レリアから可憐な少女だと聞いていたが、確かにその通りだな」

「きょ、恐縮です」

 

マリアンヌは確かに可憐だが、何を王太子に吹き込んでいるんだ。全く、他の男の口からなど、聞きたくもない。

 

仮にも王太子に言われたんだ。やっぱり嬉しいと感じるんだろうかと思い、そっとマリアンヌの顔を窺った。

 

「マリアンヌ?」

 

どういうわけか、顔色が悪かった。まるで貧血を起こしたような、青ざめた顔になっていた。

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