春風が校庭を撫でる。桜の花びらがひらひらと舞う中、高校三年生の桜井彩乃は、少し遅れて教室に入った。机に置かれた教科書のページをめくる手が、いつもより緊張しているのを自覚する。
「彩乃、また遅刻?」
友達の佐々木真央が、にこやかに声をかける。
「うん…ちょっと朝がバタバタしてて…」
彩乃は目を伏せながら答えた。真央はそんな彼女を軽く叩いて笑う。
そのとき、教室のドアが開いた。
「失礼します!」
明るい声とともに、藤原陽翔という転校生が入ってきた。
黒髪に整った顔立ち、笑顔は柔らかく、どこか温かい光を放っている。
「みんな、こんにちは。今日からよろしくお願いします」
クラスの空気が一瞬で変わったように感じた。彩乃の胸は、思わず小さく高鳴る。
授業中も、陽翔はよく手を挙げ、積極的に発言している。彩乃は、黒板を見ながらもつい横目で彼を追ってしまう自分に気づいた。
放課後、彩乃は真央と一緒に帰ろうと教室を出た。すると、廊下の窓際で陽翔が一人、教科書を広げて座っている。
「手伝おうか?」
彩乃の心の中で、言葉にならない思いが芽生える。けれど、声にはならない。
「…大丈夫です、ありがとう」
照れくさそうに陽翔は微笑む。その笑顔に、彩乃は思わず顔を赤くしてしまった。
その日、桜の花びらが舞う校庭で、彩乃の胸の中に小さな春の予感が芽生えた。新しい日々の始まりが、少し不安で、でも確かに心躍る瞬間だった。
もし希望なら、次は**第二章「夏:距離の変化」**として学園祭や部活のシーンを交えた二人の距離の変化を描くこともできます。
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