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夏休み前、教室にはいつもよりにぎやかな空気が流れていた。文化祭の準備が始まり、クラス全員が忙しく動き回っている。彩乃は、普段は目立たない存在だが、今年は学園祭の展示委員として写真コーナーの担当になった。
「彩乃、これ手伝ってくれる?」
陽翔の声に振り向くと、彼は展示用の写真パネルを抱えていた。
「うん、もちろん」
彩乃は少し緊張しながらも笑顔を返す。二人でパネルを並べる作業は、意外にも楽しかった。
陽翔は手際よく作業を進めながら、時折彩乃に話しかけてくる。
「この写真、いいね。誰が撮ったの?」
「私です…少し前に撮ったやつ」
「すごい、彩乃って写真も上手なんだね」
誉められるたびに、彩乃の頬は赤くなる。
放課後、作業を終えた二人は校庭のベンチに座った。
「疲れたね…」彩乃がつぶやくと、陽翔は笑った。
「うん。でも、一緒にやると楽しいね」
その言葉に彩乃の心はふわりと温かくなる。
学園祭当日。クラスの展示コーナーは大盛況で、彩乃は写真を見に来た人たちの反応に嬉しさを感じる。陽翔も隣で楽しそうに話しており、彩乃は「この人と同じ時間を過ごせること」がこんなにも幸せだとは思わなかった。
そして夕方、片付けを終えた二人は校庭に残った。夕日に染まる桜の影が二人の間に伸びる。
「今日はありがとう。彩乃と一緒にできてよかった」
「私も…楽しかった」
言葉に出すと、胸の奥がじんわり温かくなる。小さな笑顔の交換が、二人の距離をぐっと縮めた日だった。
夏の風が頬を撫でる。青春の匂いと少しの切なさが混じった、そんな夕暮れのひととき。彩乃は気づく――自分の心が、陽翔の存在で少しずつ色づき始めていることを。