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「だって、こんな美味しそうな状態のゆきりんを、ドSなお兄さんと二人っきりにはさせられないでしょ」
いや、僕はそこまで鬼畜じゃないぞ!? いくら何でも無抵抗の相手を見境なく襲ったりはしない。
「――というのは建前で、俺がお兄さんとシたいなぁって」
「……っ、君の頭の中はそればかりだな」
「酷くない? この業界に居るとさ、ストレスが溜まるんだよ。だから、思いっきりイチャイチャして発散したいなぁって」
「いやいや、それはおかしいだろ!」
「えー、でも、お兄さんも嫌いではないでしょ?」
「……」
否定はできない。いやらしいことは好きだし、ナギとヤるのは堪らなく気持ちがいい。
でも、さすがに雪之丞を一人にはできない。
「……ま、まぁ……泊めるくらいなら……。でも、雪之丞の前ではシないからな!」
「えぇ……。でもまぁ、いっか」
結局、目の前の欲望に抗えなかった。監督のことを見境ないなんて言ったけど、自分も大概見境ないよな――なんて思いながら、蓮は諦めたように嘆息する。
「ゆきりん、行こ」
「え? ナギ君も来るの?」
「ん、まぁね」
ニヤリと笑いながら、雪之丞にナギが何事かを耳打ちする。途端に、ボンッと頭から湯気が出そうになるほど顔を真っ赤にした。
一体何を吹き込んだんだ!? 雪之丞は耳まで真っ赤になり、俯いている。そんな様子に嫌な予感しかしなくて、蓮の胸がざわついた。
「雪之丞に何を言ったんだ?」
マンションへ向かうタクシーの中、左側に居るナギにそっと尋ねる。
「えー、別にぃ」
「嘘は良くないな。絶対何か吹き込んだんだろ?」
「さぁ、どうだろうねぇ?」
本当にコイツはいい性格をしている。雪之丞の反応を面白がって、こちらに教えてくれる気は毛頭ないらしい。
どうせロクでもない事を言っているに違いない。
雪之丞に後で直接聞くしかないか……。この状態で素直に教えてくれるかどうかも怪しいが。
「……蓮君」
「な、なんだ?」
隣からじっと見つめられて、思わずドキリとする。
もしかして、もう我慢できなくなったとか? まだ部屋にも着いてないのに……。
って、いやいや。自分は何を考えてる!?
雪之丞は大事な友人だし、そういう目で見たことは一度もなかったはずだ。
ナギがおかしな事を言うから、きっと変な想像をしてしまっただけだ。
雪之丞は相変わらず俯いたままで、表情は窺えない。ただ、心なしか身体が震えているように見える。
「雪……」
「き、ぎもぢわるい……」
「え?」
突然の言葉に思考が停止する。
あっと思った時にはもう遅く、蓮は生暖かい感触に包まれていた。
「股間ゲロまみれにしたイケメンとか超ウケる」
「全く……笑い事じゃないだろ。運転手さんがいい人でよかったよ」
雪之丞がダウンしてから数十分、なんとか部屋に連れ帰り、汚れてしまった服を脱がせて取り敢えずベッドへと寝かせた。
とばっちりを食らった蓮が風呂に入ってる間に、ナギが体を拭いて綺麗にしてあげてくれたようで、今はスヤスヤと気持ちよさそうに眠ってしまっている。
「吐くまで飲むヤツじゃ無かったんだけどな……」
苦笑しながらそっと髪を撫でると、くすぐったかったのか雪之丞が小さく身じろぎをしたので慌てて手を引っ込めた。
危うく起こしてしまったかと思ったが、再び規則正しい寝息を立て始めたのでホッと息を吐き、そっと着替えのシャツだけ掴んで寝室を後にする。
「ゆきりんの様子は?」
新しい着替えに袖を通しながらリビングに戻ると、ソファに座っていたナギが立ち上がって心配そうに尋ねてきた。
「よく眠っているよ」
「そっか……。ゆきりんには悪い事しちゃったな」
「……」
まさか、あの雪之丞が酒に酔って吐くなんて思わなかった。というか、酒に強いはずの彼がそこまで酔うというのがそもそも珍しい。
「酔いつぶれるまで飲むなんて、雪之丞のヤツ、一体何があったんだろう?」
率直な疑問を口にすると、ナギがキョトンと首を傾げた。
「何言ってるの? まさか、気付いてないとか無いよね?」
「 気付く? ……それってどういう意味?」
一体何に気付くというのだろうか? 今の口ぶりでは、ナギにはその原因がわかっていたようだが……?
「あれだけアピールしてたのにわかってないなんて、ゆきりん可哀想」
「だから、何が――」
「そんなの、俺の口からは言えないよ。お兄さんって、意外と鈍いんだね」
小馬鹿にしたような物言いに、カチンと来た。