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これが神か( もうとりまうん死んでくる(
午後。
翠は、自分の教室の前に立っていた。
保健室から戻るの、
少しだけ遅れた。
ドアの向こうから、ざわざわした声が聞こえる。
いつも通りの、昼休み明け。
——行かなきゃ
そう思って、ドアを開けた。
瞬間。
「うわ、来た」
「まだいたんだ」
空気が、露骨に変わる。
翠は何も言わず、
自分の席に向かおうとする。
でも。
机が、ない。
正確には、
後ろの壁際に寄せられていた。
椅子もない。
「……あれ?」
思わず、声が出た。
「掃除のとき邪魔だったからさ」
誰かが笑いながら言う。
「端でいいでしょ」
くすくす、と笑い声。
翠は、一瞬だけ立ち尽くしてから、
机に近づいた。
引こうとする。
——重い
机の脚に、ガムテープが巻かれて
床に固定されていた。
「……」
手が、止まる。
「力弱すぎ」
「ほんと使えない」
誰かが、机を蹴った。
がたん、と大きな音。
胸が、ひゅっと縮む。
——落ち着け
——ここで何か言ったら、終わる
翠は、黙って
床に座ろうとした。
その瞬間。
ばさっ。
頭の上から、
細かく切られた紙が降ってくる。
プリント。
教科書。
ぐちゃぐちゃにされたノート。
「紙吹雪〜」
「お祝いじゃん」
肩に、膝に、
紙が積もっていく。
翠は、俯いた。
——見ない
——反応しない
でも。
「……くさ」
「さっき濡れてたし、雑菌ついてそう」
その言葉で、
胸の奥が、ずきっと痛んだ。
「保健室行ってろよ」
「こっち来んな」
翠は、ゆっくり立ち上がった。
震えてるのは、
怒りか、怖さか、分からない。
「……授業、始まるよ」
絞り出した声。
一瞬、静かになる。
でも次の瞬間。
「は?」
「自分の立場わかってる?」
誰かが、
翠の机の上に
濡れた雑巾を投げた。
水が、広がる。
朝の冷たさが、
一気に蘇る。
——もう、やだ
喉が、ひりつく。
呼吸が、浅くなる。
翠は、教室を飛び出た。
背中に、声が飛ぶ。
「逃げた」
「やっぱ弱」
廊下に出た瞬間、
足がもつれて、壁に手をついた。
はぁ、はぁ、と
息がうまく入らない。
——発作
——でも、今ここで倒れたら
翠は、必死で
吸入器を探した。
でも。
ポケットの中に、ない。
朝、濡れたまま
教室の鞄の中に入れてきた。
視界が、じわっと暗くなる。
——赫ちゃんだったら
——今頃、誰かがそばにいる
翠は、壁にもたれながら、
必死に呼吸を整えた。
誰も、来ない。
授業のチャイムが、
無情に鳴った。
翠は、
廊下にひとり、取り残された。