テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
kaede🍁
8,845
おその★
23,401
#❤️💙
みら

13,722
数日後。
阿部と目黒は、メンバー全員での撮影へ向かった。
骨折してから初めての全員仕事だった。
楽屋へ入った瞬間。
「あべちゃん!」
真っ先に佐久間が駆け寄ってくる。
「腕大丈夫!?」
「大丈夫だよ。」
「痛くない?」
康二も心配そうにギプスを見る。
「最初より全然大丈夫。」
「無理すんなよ。」
岩本にも念を押される。
「分かってる。」
「本当に?」
「……多分。」
「多分じゃ駄目。」
みんなが次々に声をかけてくれる。
心配されるのは少し恥ずかしかったけれど。
やっぱり嬉しかった。
___________
スタッフも阿部のためにいろいろ考えてくれていた。
「阿部さん、今日はこれ使いましょう。」
用意されていたのは、ゆったりしたポンチョ。
さらに、大きめのぬいぐるみまであった。
「かわいい。」
阿部が思わず笑う。
「ギプスがなるべく目立たないようにと思って。」
「ありがとうございます。」
ポンチョを着て左腕でぬいぐるみを抱える。
鏡を見ると、確かにギプスはかなり隠れていた。
「……どう?」
振り返る。
「かわいい。」
目黒が即答した。
「早いよ。」
「だってかわいいから。」
「まだちゃんと見てないじゃん。」
「見たよ。」
そこへ深澤も来る。
「今日のあべちゃん、めっちゃかわいいじゃん。」
「ほんと?」
「ぬいぐるみ似合う。」
渡辺も頷いた。
「ポンチョもいい。」
「なんか照れるなぁ。」
そう言いながら阿部は笑った。
___________
撮影が始まってからも。
みんなが自然にフォローしてくれた。
物を取る時。
何かを書く時。
移動する時。
阿部が困るより先に誰かが手伝ってくれる。
「ありがとう。」
何度言ったか分からない。
「今日のあべちゃん、ずっとぬいぐるみ抱いてんのかわいいな。」
佐久間が笑う。
「ギプス隠してるの。」
「それ込みでかわいい!」
「込みなの?」
みんなが笑う。
目黒も隣で。
「かわいいよ。」
また言った。
「めめ今日そればっかり。」
「本当だから。」
楽しい撮影だった。
ふと、カメラが目に入った。
「……。」
今日の自分が映像として残る。
ポンチョを着て。
ぬいぐるみを抱えて。
みんなに心配されて。
目黒がいつも以上に近くにいて。
かわいいと言われている自分。
急に。
怖くなった。
――これ、ずっと残るんだ。
何年後でも。
見ようと思えば見られる。
今の自分を。
その瞬間。
頭の中に。
嫌な考えが浮かんだ。
――ギプスが取れたら。
阿部の表情が僅かに固まる。
――かわいくなくなるのかな。
「……。」
自分で考えて。
自分で驚いた。
何それ。
ギプスがあるから、かわいいの?
怪我しているからみんなが優しくしてくれて。
目黒がずっとそばにいて。
かわいいって言ってくれる?
治ったら全部なくなる?
「……っ。」
そんなわけない。
目黒は怪我をする前から何度もかわいいと言ってくれていた。
メンバーだって。
今だけ特別に優しいわけではない。
分かっている。
それなのに。
そんなことを考えてしまった。
「あべちゃん?」
隣から目黒の声がして。
阿部はびくっとした。
「何?」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
「腕痛い?」
「全然。」
笑う。
いつものように。
何も考えていなかったみたいに。
「ちょっとぼーっとしてただけ。」
「そっか。」
目黒はそれ以上聞かなかったそのことに安心する。
絶対に知られたくなかった。
怪我をして。
目黒が仕事を減らしてくれて。
毎日そばにいてくれることを嬉しいと思っている。
ギプスが取れたら。
その時間が終わってしまうことを寂しいと思っている。
それだけでも十分恥ずかしいのに。
今度は。
怪我をしている自分だから、かわいがってもらえるのではないか。
そんなことまで考えてしまった。
「……。」
阿部は左腕で。
ぬいぐるみを少し強く抱き締めた。
「あべちゃん、次いくよ!」
深澤に呼ばれる。
「はーい。」
顔を上げる。
カメラが回る。
阿部はいつも通り笑った。
「かわいい!」
佐久間がまた言う。
「もういいって。」
「今日めっちゃかわいいもん。」
「今日だけ?」
冗談のつもりだった。
佐久間も笑って。
「毎日かわいいよ!」
周りも笑う。
阿部も笑った。
でも。
胸の奥が少しだけ痛んだ。
――毎日。
その言葉を。
素直に信じられたらよかった。
ギプスがなくても。
誰かに助けてもらわなくても。
何でも一人でできる自分に戻っても。
同じように大切にしてもらえる。
そう信じられたら。
こんなに不安にはならないのに。
「……。」
撮影の合間。
阿部は誰にも見えないように、ポンチョの下へ右腕を隠した。
こんなことを考えている自分が。
何より恥ずかしかった。
だから。
誰にも言わない。
目黒にも。
メンバーにも。
絶対に知られたくない。
阿部はそう決めて。
またカメラへ笑顔を向けた。
今日の自分だけが特別なのかもしれないという不安を、ポンチョの下へ隠すように。
___________
撮影が終わると、目黒はそのまま個人仕事へ向かうことになっていた。
「あべちゃん、行ってくるね。」
「うん。頑張ってね。」
阿部はいつも通り笑った。
本当は、寂しかった。
ここ数日ずっとそばにいてくれたから。
たった数時間離れるだけなのに、置いていかれるような気持ちになった。
そんな自分が嫌で、何も言えなかった。
「佐久間くん。あべちゃん、お願いしていい?」
「もちろんであります!」
「めめ、俺一人で大丈夫だよ。」
反射的に出た言葉。
けれど目黒は、
「心配だから言う事聞いて。」
そう言って、阿部の頭を優しく撫でてから仕事へ向かった。
その背中が見えなくなるまで。
阿部は笑っていた。
___________
佐久間は深澤も誘って、三人で喫茶店へ連れて行ってくれた。
けれど。
阿部は何度もスマホを見てしまう。
まだ仕事が始まったばかりなのだから、連絡なんて来るはずがない。
「……どうして恋って苦しいんだろうね。」
深澤が突然呟いた。
阿部が顔を上げる。
「幸せなはずなのに、苦しくなる。」
その言葉が胸に刺さった。
佐久間が少し笑う。
「でも、めめは今の状況楽しんでるよ。」
「……俺、怪我してるのに?」
「怪我が嬉しいんじゃないよ、あべちゃんのそばにいられるのが嬉しいんだよ。」
「……。」
「めめ、ずっと嬉しそうだったじゃん。」
それを聞いた瞬間。
阿部の目から涙が落ちた。
「……俺も嬉しい。」
声が震える。
「めめが仕事減らしてくれて、ずっと家にいてくれるの……嬉しいんだよ。」
言いたくなかった。
誰にも知られたくなかった気持ち。
「今日だって、仕事行っちゃうの寂しかった。」
「怪我なんて早く治った方がいいのに。」
涙が止まらなかった。
「ギプスが外れたら、また忙しくなるかもって思ったら……嫌だって思っちゃうの。」
阿部は俯いた。
「こんなこと思うの、最低だよね。」
「違うよ。」
深澤が静かに否定した。
「あべちゃん、病院で俺が『今はめめにそばにいてもらうのが正解』って言ったの、覚えてる?」
「……うん。」
「本当はさ。」
深澤は少し悲しそうに笑った。
「あべちゃんが逃げないように、その言葉で縛ったんだよ。」
「……え?」
「一人で大丈夫って強がって、めめを仕事に行かせないように。」
阿部は何も言えなかった。
「めめ、本当にそばにいたかったんだよ。でもあべちゃんは、めめのためなら自分が寂しくても離すでしょ?」
「……。」
否定できなかった。
「だから俺が勝手に『正解』にした。」
深澤は優しく言った。
「めめのためにね。」
阿部の涙がまた落ちた。
ずっと、自分が目黒の時間を奪っていると思っていた。
でも。
目黒も同じように。
一緒にいることを望んでくれている。
佐久間が阿部の左手にそっと触れた。
「あべちゃん。」
「……うん。」
「今は幸せな気持ちだけでいいんだよ。」
「でも……。」
「めめがそばにいて嬉しい、それだけでいいじゃん。」
「……いいの?」
「いいよ。」
佐久間は迷わなかった。
「怪我してよかったなんて思ってないでしょ?」
「だったら、幸せまで否定しなくていいよ。」
その時。
スマホが震えた。
『休憩入ったよ。あべちゃん大丈夫?』
目黒だった。
その短い文章だけで。
また涙が溢れた。
阿部は左手だけでゆっくり文字を打つ。
『大丈夫。佐久間とふっかとお茶してるよ』
一度、そこで指が止まった。
それから。
今までなら絶対に書かなかった言葉を続けた。
『帰ってくるの待ってる』
送ってしまった。
少し怖かった。
けれど、すぐに既読がついた。
『うん。終わったらすぐ帰るね』
「……。」
阿部はスマホを胸に抱いた。
「……嬉しい。」
泣きながら、笑った。
佐久間も少しだけ泣きそうな顔で笑う。
「それでいいんだよ。」
阿部は小さく頷いた。
怪我が治った後のことを考えれば、まだ怖い。
また忙しい毎日に戻って。
この幸せな時間が終わることを考えると、寂しかった。
それでも今だけは。
いつか終わるからこそ、目黒のそばにいられる幸せを、罪悪感で捨てたくないと思った。
コメント
1件
うわ、読んでて胸がぎゅっとなった……。阿部ちゃんの「ギプスが取れたらかわいくなくなるのかな」って思考、すごくリアルで刺さったわ。怪我してるから特別扱いされてるって不安、本人にとってはすごく恥ずかしい感情なのに、ちゃんと書かれてて泣ける。ふっかの「縛った」発言と佐久間の「幸せまで否定しなくていい」は名場面すぎる。最後の「帰ってくるの待ってる」が送れてよかったね……!