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月城 蓮桜音
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#いじめ
#三角関係
名瀬口にぼし
580
ざく。ざく。ざく。
まだ殆ど足跡がついていない雪の歩道を歩く。気温が低いので、雪を踏む音が固い。
――結局昨夜は泊まる羽目になってしまった。
家主が布団も掛けず長椅子で寝てしまい、仕方なく何か掛けるものを自力で探して、ちょうど毛布が二枚あったので片方を男に掛けて、自分も横の長椅子の上で毛布にくるまって寝た。
「やー……」
カノンの隣を並んで歩いていた男が、沈黙を不機嫌ととったのか、申し訳なさそうに話し掛けてきた。
「本ッッとうに申し訳なかった。ごめん。せめて寝床は用意してあげるべきでした」
朝目覚めてから、何度謝られたか。
「もういいよ。泊まるとこ探してたのは事実だし。それに、美味しい朝ごはん奢ってくれるんでしょ」
「おう。好きなだけ食べな」
やっと、八の字にしていた眉を上げて、ふわりと微笑んだ。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったな。俺はアトリ。君は?」
「あたしはカノンて言います」
カノンの自己紹介を聞いて、アトリの目が点になった。引きつった顔で聞き返してくる。
「………アタシ?」
何故かカタコトだ。
「あたしはカノン。十歳。性別は女」
「あっ……」
「男の子だと思ってた?」
図星だったようで、歩みを止めて頭を下げられた。
「どうも済みませんでした!」
「平気でーす。よく間違われまーす」
もともと凛々しい顔だとよく言われていた上、引き取り手の趣味嗜好だかに合わせて、数日前に髪を随分短くされていた。服装も雪道を歩く想定のため、かなり厚手で重装備。
女の子と認識される要素は少ない。
「もうホント、好きなだけ食べて。何なら、昼も夜も奢るから」
「だから、親戚の家まで行く途中だって」
と、その時、アトリが一軒の店を指し示した。淡いミントグリーンのドア。
既に食欲をそそる匂いが漂ってきている。
「いらっしゃいませー。あら、センセイ。今朝は早いですね」
店員さんと顔見知りのようで、挨拶を交わしながら、奥の方のテーブルに進む。
外の静けさからは想像ができないほど、店内は朝から賑わっていた。
「おすすめは、パンケーキかな。温かい飲み物は何でも美味しいよ」
メニュー表を開いて、どれも美味しそうで目移りする。しばし悩んだあと、勧められたパンケーキと、ハチミツ入りのミルクティーを選んだ。アトリの方は、焼きたてパンと玉子料理とカフェオレを注文していた。
アトリは再び眉を八の字にして言う。
「昨日も言ったけど、好きなデザートとか注文してもいいんだよ?」
「そこまで甘えられないよ。…あ、でも」
カノンはポケットにしまっていたメモをテーブルの上に置いた。
「この住所って、この近くで合ってる?」
「確かにこの近くだけど……ここって――」
言いかけたところで、パンの盛り合わせが来た。
「新作のパンもサービスで入ってるから、食べながら他の料理待ってて」
先程の店員さんが、にこやかにそう言って去っていく。
「おおー」
余りにもいい匂いがする。カノンはパンの籠を覗き込んだ。
「やっと年相応の顔が見れた。ほら、1個食べてみな」
にこにことカノンに手渡してくる。今まで触ったことのないもちもち感だった。
「……いただきます」
口にしたもの全部が美味しかった。
食べ終わった後もパンケーキのしゅわっと感を思い出しながら、店を後にする。
「ご馳走さまでした」
アトリは会計の時、店員さんから何やら紙袋を受け取っていた。
カノンの視線を感じて、アトリが答えた。
「ああ、さっき見せて貰った住所のとこまで行くとなると、往復したらお昼を過ぎるだろ?」
ちょっとした違和感を覚えて、聞き返す。
「なぜ往復が前提」
「どうせ暇だし、着いていこうかなって」
気候がいいときに、ふらっと近所の公園に散歩にでも行くような気軽さで言う。
「暇なお医者さんて、聞いたことないんだけど」
「ああ、俺、センセイなんて呼ばれてるけど、あそこで開業してるわけじゃないんだ。診療所だったところを借りて、研究室にしてるだけ。 まあ一応医師免許は持ってるから、近所の人が夜中にお腹痛いとかの時は対応するけど」
成る程。だからあんなに雑然としていて、人の気配がないんだ。しかし医師免許……。
「胡散臭い……」
つい心の声が漏れてしまう。
「ん?何?聴こえないなぁ」
はっはっは、と笑いながら、アトリはずんずん先に行く。観念して、カノンは彼のコートの袖を掴んで引き留めた。
「……靴、ただの冬靴じゃだめだよ。雪道を歩くから」
「ああ……そうだね」
もっとも、人が歩ける路が残ってない可能性もあるけど、と、カノンは心の中でだけ付け足した。
コメント
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第2話、ほっこりしたわ〜!カノンが女の子だと気づいてめっちゃ慌てるアトリ、そこからの「好きなだけ食べて」の流れがいいな。医者なのに胡散臭い感じも含めて、キャラの掛け合いがちゃんと活きてる。雪景色の中のモーニング、しゅわっとしたパンケーキの描写にめっちゃお腹空いた(笑)最後の「靴、ただの冬靴じゃだめ」ってカノンのツッコみ、ちゃんと現実見てるのが好き。次どうなるか気になる!