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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第52話 〚後ろの席が“安全じゃない”と気づく回〛
――海翔視点――
バスが動き出した瞬間、
海翔は一度だけ、
後ろを確認した。
——真壁恒一。
最後列に近い席。
一人で座っている。
(……よし)
そう思った自分に、
すぐ違和感を覚えた。
(“よし”って何だ)
前を見る。
澪は、
えまの隣の席。
窓の外を見ているけど、
肩が少しだけ強張っているのが分かる。
(緊張してるな)
それでも、
無理に声はかけない。
昨日、
澪は言った。
「ちゃんと自分で歩いてみる」
だから海翔は、
“一歩後ろ”を選んだ。
——はずだった。
バスが信号で止まる。
その一瞬。
後ろから、
視線を感じた。
(……来た)
振り向かなくても分かる。
“見ている”。
しかも、
ただの視線じゃない。
(澪、だよな)
ミラー越しに、
真壁の目が動くのが見えた。
澪の方を、
正確に追っている。
(距離がある)
(席も離れてる)
(なのに)
——安心できない。
その感覚に、
海翔は眉をひそめた。
(後ろの席って、
一番死角じゃないか)
声を出さなくても、
見ていられる。
直接触れなくても、
“意識”は向けられる。
(……甘かった)
これまで海翔は、
「近づかせない」ことばかり考えていた。
隣に座らせない。
一緒に行動させない。
距離を保つ。
でも。
(見られてるだけで、
澪は消耗する)
ふと、
澪が小さく息を吸うのが見えた。
背中が、
ほんの少し硬くなる。
(……気づいてる)
視線の正体までは分からなくても、
“何か”を感じている。
海翔は、
無意識に体をずらした。
澪と、
後ろの視線の間に入るように。
さりげなく。
でも、はっきりと。
その動きに、
真壁の視線が止まる。
(……合ったな)
鏡越しに、
一瞬だけ目が合った。
真壁は、
何か言いたそうな顔をしたが、
すぐに逸らした。
(これだ)
(これが、危うさだ)
真壁は、
何もしない。
叫ばない。
触らない。
暴れない。
でも。
(“抑えきれてない”)
感情だけが、
座席の距離を無視して
滲み出ている。
(後ろの席が安全じゃない理由、
これだ)
海翔は、
一つ決めた。
——澪の前に立つだけじゃ足りない。
——“視界”も、管理する。
過剰だと言われてもいい。
やりすぎだと思われてもいい。
(澪が気づく前に、
俺が気づけ)
バスは、
高速道路に入る。
窓の外の景色が、
流れ始める。
その中で海翔は、
静かに確信していた。
——この修学旅行は、
“移動中”が一番危ない。
そして。
(もう、偶然じゃない)
この感覚が、
外れたことは一度もなかった。
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