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人混みで賑わう表参道
昼下がりの柔らかな日差しが街を照らし、行き交う人々は皆どこか浮き足立っているように見える。
俺は隣を歩く玲於の腕に軽く手を添えて、自分たちの穏やかな時間を噛み締めていた。
けれど、その平穏は唐突に破られた。
「あ、玲於さん!」と、背後から弾んだ女の声が響く。
振り返ると、そこにはいかにも表参道が似合いそうな小綺麗な女性が立っていた。
玲於が勤める店に通っている常連客らしく、二人はそのまま道端で立ち止まって仲良さげに話し始める。
「今日は非番なんですか?」「ああ、まあ。たまたまね」なんて受け答えをする玲於の横顔を、俺は一歩引いた位置で見守ることしかできない。
二人の間には、俺の入り込む余地なんて一ミリもないような、完成された親密な空気が流れていた。
極めつけは、彼女が別れ際にバッグから手帳を取り出し、さらりと連絡先を書いたメモを差し出したことだ。
玲於はそれを断るどころか、驚くほど爽やかな、俺の前でも滅多に見せないような完璧な営業スマイルで受け取った。
「ありがとうございます。またお店でお待ちしてますね」
去っていく彼女の背中を見送る玲於の指先には、俺以外の誰かが書いた数字の羅列。
胸の奥が、熱い鉄を押し当てられたようにチリチリと焼ける。女性の姿が人混みに消えた後、俺は努めて平坦な声を絞り出した。
「……ねえ、それどうすんの」
「ん? 捨てるけど」
玲於は歩きながら、何の迷いもなく答えた。
そしてその場で、たった今受け取ったばかりのメモを、まるで道端に落ちている吸い殻でも扱うかのように無造作にクシャクシャに丸めた。
ポイ、と近くのゴミ箱へ放り込まれる白。
そのあまりに無機質な、感情の一切こもっていない動作に、俺は少しだけ安心した。
結局、玲於にとっては仕事道具の一部か、あるいはただの紙屑同然なんだ。
そう自分に言い聞かせて、この場は無理やり納得することにした。
けれど、翌日
仕事終わりの玲於を迎えに美容室へ向かった俺は、見てはいけないものを見てしまった。
ちょうど閉店間際。
扉を開けて中に入れば、レジ越しに昨日の客とはまた別の女が、玲於の腕にべたべたと指先を這わせているのが見えた。
玲於は困ったように眉を下げて笑っている。
けれど、その手を振り払おうとはしない。
それどころか、上目遣いで彼を見つめる女の潤んだ瞳をじっと見つめ返し、とどめを刺すような甘い声を向けた。
「───さんが来てくれなくなったら、店長も俺も悲しいですよ……。また、すぐ会いに来てくださいね?」