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日々はおだやかに過ぎていく。矢車氏はまた金銀妖狐の動画を作ったそうで、真希氏がチェックしていた。最近のバズチェックの話、そして働いている館に座敷童子が住み着き、雇い主の縁者の元に住み着いた貧乏神の追い出し方を教えてくれた話。真希氏がOKを出して動画が公開され、それなりに好評だったようで、今回は200再生を超えた。
「ね、ヤカ見て、金銀妖狐、コメントに全部返信してる」
動画にコメントが5つほどつき、どれも返信されている。
{このコメントの、ストーリー勢、とは何だ?}
「配信や動画で、こういう設定でこういうストーリーのお話をしていきます、っていうVTuberのことね。金銀妖狐は本当にあったこと話してるだけだけど、あんまりにも荒唐無稽だから、こういうストーリーを描いていくVTuberですか? っていうコメントもつくみたい」
{なるほど}
そして、土曜日の昼下がり。真希氏が買った服が届いたそうで、彼女はいそいそと梱包を解き、シャワー室の脱衣室に入って着替えてきた。
「ね! 見て! かわいいでしょ!」
シンプルな形の黒っぽいロングワンピースだが、胸元から首元にかけて色とりどりの刺繍があり、鮮やかだ。真希氏はくるっと回ってみせ、ふわりとワンピースの裾が広がる。真希があまりにも楽しそうに笑うので、私は目を奪われてしまった。
{とても似合う、とてもかわいらしい……}
真希はまた笑った。
「ありがと! これの色違いと、他にももうひとつ買ったんだよね、もうひとつのも変じゃないか見てもらっていいかな?」
真希氏は、今度は朱色のロングワンピースを着て現れた。こちらは襟ぐりから胸元にかけて色とりどりの刺繍がある。
{とても華やかでよい、とてもかわいらしい……}
「やった!」
真希氏は喜び、そして窓の外を見て言った。
「さすがに外出る元気ないけど、この服で庭ちょっと歩きたいな、一緒に歩こうよ」
{ぜひ行こう}
庭を見てもらえるのは嬉しい。楽しそうな真希氏と歩くのはさらに嬉しい。
鶏頭がよく咲いている。鮮やかで濃いピンクは燃えるようだ。コスモスはキバナコスモスも合わせて植えたので、ピンクとオレンジの花が色とりどりでよい。サルビアは赤く咲き、小さい花でかわいらしい。紫のクレマチスは今が盛り、大きな花を咲き誇らせている。東屋のつるバラは流石に時期を過ぎたが、他の株のクリーム色のバラや深紅のバラがよく咲いている。9月に肥料をやって、この時期によく咲くよう工夫して剪定した甲斐があった。
真希氏はスマホで花を撮っている。
「あのね、接写してそのまま撮るより、2倍か4倍に拡大してちょっとだけ引いて撮った方が、目に映るのに近い感じで撮れるんだって」
{きれいに撮ってくれているのか……とても嬉しい}
「よかった! 後でSNSに上げまくるね」
庭を一周りして館に戻り、真希氏は自室に戻ってスマホをいじり始めた。花の写真をSNSに上げてくれているらしい。後でどれくらいの人が見てくれたか見せてもらうとして、今日の夕飯は何にしようか。白菜があるから、鶏肉と一緒にクリーム煮にすることは決めているが……。
すると、ぷるるる、と真希氏のスマホが鳴った。
「何!? あ、九さんだ」
真希氏がスマホに耳を当てる。私の聴覚だと、スマホからの声も聞けるので、2人の会話が手に取るようにわかった。
「元気にしておるか?」
「あ、はい、おかげさまで」
「薄荷たちから聞いたのじゃが、どうでもいいくだらないバカバカしいことで3億円使い切りたいそうじゃの」
「はい……何かいい案あります?」
「賭け事はどうかと思って電話したのじゃ」
「賭け事!」
「賭け事でスるのは、かなりくだらない使い方じゃろ?」
真希氏は「それだ! それです!!」と大声を上げた。
「やってみます! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
「いや、そこまで感謝されることでもないが……なんでその3億をそんな使い方したいんじゃ?」
「あー、隠すことでもないんですけど……ちょっと長い話になります」
真希氏は話し始めた。贅沢はできないと言い含められて育てられたこと、親のためにアルバイト漬けの日々を過ごしたこと。アルバイトと学業の板挟みで倒れ、そこからずっと体を壊していること。その後両親が事故死し、遺産の整理をしていたら3億円以上あったこと。この3億を普通に使ってくれていれば、自分は体を壊すことはなかったのにとやるせない気持ちがあること。
「親の貯金を辱めてやりたいから、どうでもいいくだらないバカバカしいことで全額使い切ってやりたいんですよね」
「そうじゃったか……おぬしも苦労しているのう……」
「でも本当にありがとうございます、賭け事はすごくいい案です」
「そうかそうか、まあ役に立ててよかった。これからも矢車と薄荷をよろしくな」
「はい! それはもう!」
電話を切り、真希氏はうきうきしながら私に聞いてきた。
「ねえヤカ! 3億使い切るのに賭け事はどうかって九さんが!」
{聞いていた、あなたの目的に合致すると思うが}
「そうよね! どの賭け事がいいだろう!? ちょっと調べてみよっと!」
真希氏は興奮してパソコンに向かった。いい賭け事が見つかるといいが。
コメント
1件
うわ、すごく優しい回だった…!ヤカから見た真希さんの日常、ほっこりするし、ワンピースの話とか庭の花の描写とか、細かいところまで愛おしい気持ちになる。でも後半の九さんとの電話で、真希さんの過去とか「3億使い切りたい」本音が出てきて、胸がぎゅっとなった。親への複雑な想い、わかる気がするよ…。賭け事というくだらない方法を選ぶ感じ、逆に清々しくて好きだな🥀