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ゼイス

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第2話 皇太子殿下の特別
「……お前が喜べば、それでいい」
リンデン殿下の言葉が、いつまでも耳から離れなかった。
贈り物を受け取っただけでなく、喜んでほしいと言われた。
そんなことを誰かに望まれたのは、いつぶりだろう。
いや、そもそも今まで一度でも、そんなふうに思ってもらえたことがあっただろうか。
「ルカ」
「は、はいっ!」
突然名前を呼ばれ、ルカは慌てて顔を上げた。
目の前には、いつもと変わらない無表情のリンデンがいる。
「明日からも、私のそばにいろ」
「……え?」
「お前は私の側近だろう。ならば、私のそばにいるのが当然だ」
あまりにも当たり前のように告げられ、ルカは目を瞬かせた。
「そ、それはもちろんです。殿下のおそばに仕えることが、私の役目ですから……」
「なら、問題ないな」
リンデンはそれだけ言うと、手元の書類へ視線を戻した。
会話は終わったらしい。
けれど、ルカの心臓はなぜか落ち着かなかった。
――そばにいろ。
ただの命令だ。側近として当然のことを言われただけ。
そう自分に言い聞かせても、胸の奥がじんわりと温かくなるのを止められなかった。
翌朝。
「ルカ、こちらへ来い」
「はい、殿下」
朝の支度を終えたルカが執務室へ向かうと、リンデンはすでに朝食の席についていた。
長いテーブルには、焼きたてのパンや温かなスープ、果物が並んでいる。
その光景を見て、ルカは一瞬だけ足を止めた。
「……殿下、お食事の時間でしたか。すぐにお下げするものを――」
「何を言っている」
リンデンはナイフを置き、向かいの席を指した。
「お前の席だ」
「……え?」
「座れ」
「で、ですが、私は殿下のお食事のお世話を……」
「今は必要ない。座れと言っている」
静かな声だったが、逆らえるような雰囲気ではない。
ルカは戸惑いながらも、恐る恐る椅子に腰を下ろした。
目の前には、自分のために用意された朝食がある。
それが信じられなくて、何度もテーブルとリンデンの顔を見比べてしまう。
「……あの、これは」
「朝食だ」
「それは、見れば分かりますが……どうして私の分まで?」
「お前も食べるからだろう」
あまりにも簡潔な答えに、ルカは言葉を失った。
食事を与えられること自体が不思議なのではない。
自分のために、わざわざ用意してもらえることが不思議なのだ。
これまでのルカにとって、食事は余ったものをいただければ十分だった。自分の分がなくても、誰かに責められなければそれでよかった。
けれど、リンデンは違う。
まるでルカが食事をすることなど、最初から当然だと言わんばかりだった。
「……いただいても、よろしいのでしょうか」
気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
リンデンの手が止まる。
「なぜ私がお前の分を用意させたと思っている」
「それは……」
「食べるためだ。冷める前に食べろ」
「……はい」
ルカは小さく頷き、スープを口に運んだ。
温かかった。
ただ、それだけのことなのに。
胸の奥が、どうしようもなく苦しくなる。
「……おいしいです」
ぽつりと呟いた声は、自分でも驚くほど小さかった。
リンデンは一度だけルカを見た。
「そうか」
それだけ答え、再び食事を始める。
しかし、しばらくしてルカの皿が空になりかけていることに気づくと、近くに控えていた侍従へ告げた。
「ルカにパンを追加してくれ」
「は、はい。ただいま」
「で、殿下! もう十分です!」
慌ててルカが止めると、リンデンは不思議そうに目を向けた。
「足りないのか?」
「い、いえ! 十分すぎるほどです!」
「なら、もっと食べろ」
「……え?」
「お前は細すぎる。きちんと食べておけ」
淡々と告げられた言葉に、ルカの頬がじわじわと赤くなる。
心配されている。
そう気づいた瞬間、どう反応していいのか分からなくなった。
「……ありがとうございます、殿下」
ルカは俯きながら、そっと微笑んだ。
ほんのわずかな、控えめな笑み。
けれどリンデンは、それを見逃さなかった。
――まただ。
昨日もそうだった。
この少年は、少し優しくされるだけで、信じられないものを見るような顔をする。
そして、最後には困ったように笑う。
その表情を見るたびに、胸の奥が妙に落ち着かなくなるのだ。
「ルカ」
「はい?」
「明日も一緒に食べるぞ」
「……えっ?」
「聞こえなかったか?」
「い、いえ、聞こえました! ですが……毎朝、私もご一緒してよろしいのですか?」
「私がそう言っている」
当然だというように返され、ルカは再び言葉を失った。
リンデンはそんなルカを一瞥すると、何事もなかったかのように紅茶を口に運んだ。
けれど、その視線は一瞬だけ、ルカの柔らかな笑顔に留まっていた。
――もっと見たい。
そう思った自分に、リンデン自身が気づいていた。
ルカが笑うところを。
自分のそばで、安心して過ごすところを。
そして、できることなら。
その笑顔を、自分だけに向けてほしい。
そんな欲が、静かに芽生え始めていた。
コメント
1件
うおおおお第2話も良すぎる〜!!😭💕💕 リンデン殿下の「そばにいろ」がもう、ただの命令じゃなくて特別なんだよな…「もっと見たい」って思っちゃってる時点で恋の予感じゃない!? ルカが「おいしいです」ってやっと言えたシーン、心臓ぎゅってなったわ。自分のために朝食が並んでるだけで戸惑っちゃうの、これまでの背景を思うと切なくなる…そばで笑うルカをずっと見ててほしい、二人の距離縮まるの応援してる!!📣🎀