TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

それから数日が過ぎた夜


シャーロットが私の部屋を訪れた。


その手には、一枚の書面がある。


それは、私たちが最初に結んだ「身売りの契約書」だった。


「エルサ。お前の家の負債はすべて完済した。お前の母の療養先も、一生涯の保証を約束した」


心臓が跳ねた。


契約が終わる。


それは、私がこの屋敷を去る日が来たことを意味する。


「えっ、もう、ですか?」


「あぁ」


驚く私に、シャーロットは契約書を私の方へ滑らせた。


「……そうです、か。えっと、ありがとうございます、今まで───」


私は震える手でそれを眺めながら答えた。


(そうなる、とは思ってた)


何故なら彼は「完済したら出ていけ」って最初に言っていた。


───なのに。


次の瞬間、シャーロット様が目の前で、その契約書を無造作に真っ二つに引き裂いた。


「……え?」

「契約は終了だ。だが、お前を帰すとは言っていない」

「えっ?!」

彼は驚く私を追い詰めるように一歩踏み出し、私の首元にある、あのサファイアのチョーカーに指をかけた。

「これは『所有物』の印だった。だが、これからは違う」

彼は懐から、小さなベルベットの箱を取り出した。


中には、チョーカーのサファイアと同じ、深い青色をした大粒のダイヤモンドの指輪が輝いている。


「エルサ。俺は、お前という『道具』を買ったつもりだった。だが、お前の減らず口も、俺に噛み付く気の強さも、涙も……すべてが俺の心を狂わせた。……責任を取ってもらう」


彼は私の前に跪いた。


あの傲慢な彼が、生まれて初めて誰かに頭を垂れるように。


「俺の、本当の妻にならないか」


突然の求婚に、世界の音が止まった。


「俺はお前を愛している。死ぬまで手放すつもりはない」


熱烈でありながら強制的なプロポーズは、まさに「シャーロットらしい」と言えた。


驚きのあまり何も言えない私を見て


彼は少し自信なさげに付け加える。


「……お前が本気で嫌だと言うなら…断ることも出来る」


最後の一言には明らかな躊躇が滲んでいた。


その不器用さに気づいた瞬間


胸の奥から湧き上がってきたのは恐怖や呆れではなく


温かい感情だった。


まるで縋るような眼差しに


私はゆっくりと深呼吸した。


「……分かった。なってあげてもいいよ」


頬を染めながら小さく頷くと


シャーロットは安堵の表情で椅子を引いて私を座らせた。


「ただし」


「……ただし?」


「私の幸せは母を幸せにすることなの。だから、私の家族も大事にしてほしい」


シャーロットは目を丸くした後、心の底からの幸せそうな表情で微笑んだ。


「……そういうことなら任せておけ。お前のためなら地位と金を使うことも厭わない。だが……その代わりお前は一生俺だけを見ていろ」



◆◇◆◇


数年後────


私は王都の社交界の花として活躍していた。


『氷の公爵様が首ったけになっている妻』


それが私の称号になるとは、過去の私が聞いても信じないだろう。


隣に座るシャーロットの腕にはしっかりと私の手が絡んでいる。


「ねぇシャーロット、あとどれくらいで屋敷に着くの?」


「知ってる。だが、もう少しだけ我慢しろ」


「もう少しってどれくらい?」


「……少しは少しだろ」


「早く帰って寝たいのに~…」


「寝る?その前にすることがあるだろ」


「すること……?」


「俺の妻になった自覚がまだ足りないみたいだな」


彼は不敵に笑ったかと思えば、腰を引き寄せられて強く抱きしめられ、そのまま馬車の中でキスをされてしまう。


「んっ……ちょ、ちょっとこんなところで……っ」


「誰も見てない。それに、夫婦のスキンシップに誰かの許可が必要なのか?」


「そういう問題じゃなくて……」


「エルサ」


「な、なによ?」


「お前のその可愛い顔を見るのは、俺だけで十分だ」


そう言って彼は私の髪にキスを落とす。


もう、私の存在は彼にとっては『所有物』ではなくなっている。


愛しい伴侶として、溺愛されている毎日だった。

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚