コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
小さな少女が月を見上げる。真白い娘、という言葉が似合うだろうか。髪は日の光のように穢れなく、その眼は夜明けの様な美しさを孕んでいる。元は白かったであろうワンピースは薄汚れては居るが決して少女の美しさを損なわなかった。
その近くに少年がそっ、と佇んでいる。まさに冬の夜の様な少年であった。白く輝く雪肌に、墨を溶かしたような黒から月の光の様に穢れなき白へと変わる髪。
そんな正反対のように見える二人の子供に共通点があった。二人共肉が無く、骨が見えるほどに痩せているのだ。それでも人攫いが出てしまうような凛とした美しさを保っているのはもはや彼女らにかけられた呪いのように感じる。そんな時、一度聞けば一生耳に残る様な天使の声が聞こえた。
「…お前、あの時使った睡眠薬は?」
それに対し、硝子細工の様に透き通った美しい声が聞こえた。
「デエビゴ。練炭は…?」
「A○AZONで買ったマッチ練炭。…また会ったときの合言葉をせーので言ってくれ。」
「せーの「「推しが尊い」」
少年少女の掛け合いが終わり、しぃんと場が静まる。両者とも、自らの半身を見つけたかのように喜びに満ちあふれたかの様な表情をして、少女が音を鳴らした。
「…みき、みきちゃん〜!ありがとう〜!この世に産まれてくれてありがとう…!」
「お前もな〜!いやほんとまって、なぎさちゃんと会えてよかった…!
ぎゅう、と両者は抱きしめ合いながらこの世のすべての幸福はここにあると言わんばかりの笑みをこぼす。会えなかった時を取り戻すかのように二人は話し続ける。そこにはただ純然たる親愛の情があった。
「地獄でしかないけどお前がこの世界に転生できててほんとよかった!これだけで生きる価値がある…!」
「ほんとに!これだけでも希望が持てた!一緒に心中したかいがあった!」
キラキラ光る星のように目が瞬く。ふわふわと熱に浮かされたように上気する頬。感動をそのままに気になっていた本題に入る。
「ちなみに今どういう状況?ここ文ストだよね…?あ、私中島敦ね?女体化しちゃってるけど…。」
「僕芥川龍之介なんよ…。僕ら新双黒になるんだね。あっ、太宰さんにはまだ引き取られてない。」
そう言うと少し不安気にゆるりといった。
「そっか…。原作通り行ったら私らのメンタル確死になるね…。」
「そうなんだよね…。解決策どこ〜!」
「…太宰さんさ、断っても金くれるって言ってたよね…。いや、だけどな〜!あの人が逃してくれるか?って話なんだよねぇ〜。」
「それ〜!ホント絶望案件。…異能持ってるし銀連れて出来る限り逃げる?少なくともヨコハマからは出ないと駄目だよね?」
今までの分を取り戻すように。両者以外は話をさせることを許さぬとばかりに。双方の掛け合いが続く。
「そうするぅ?あ、転生特典とかない?私は文字が書かれてるものを操れる能力貰ったけど…。名前は文字禍。」
「あ、マジ?僕は絵を描いてその絵にしたことがその人にもおこるっていう能力貰った。名前は地獄変。」
誰にも聞こえないようにひっそりと打ち明けられた密言は他人が聞くと目を見開くような驚きの内容となっただろう。だが周囲に溢された全ては両者だけが知る秘密となる。ここによりつく者はもう誰一人、居ない。
「やっぱり。どうあがいても中島敦と芥川龍之介の作品になるんだねぇ…。」
「まぁできるだけこの貰った能力は隠して頑張る?もしくは原作の方を隠す?」
「あ〜。どっちにしよう…。あ、そうだ。私異能の制御出来てるから孤児院の対応はちゃんとしてるよ。子供っぽくも出来てると思う。」
「おお…、有能。僕は原作通り貧民街に居るよ。なんにも変わってない。」
現状報告の言葉に少女、否。中島敦は少し顔をしかめてはっきりと言う。
「…やっぱり銀ちゃん連れて逃げよう。銀ちゃんはみきちゃんのこと分かってるの?」
「うん。銀の前では演技してないからね。」
「なら大丈夫かな…?さて、さっさと逃げちゃおっか。国外でもどんとこいよ!」
「うん。3人で逃げちゃおっか。」
「銀、銀。起きれる?」
「ん…。兄さん、大丈夫。」
「良かった。まだ眠いならおぶっていけるけど…?」
「う〜…、頑張る。」
「ありがとう。それじゃああそこに行こうか。」