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何もかもが壊れた日、真っ赤に染まった日
俺は幽かなる恩讐の鉢にとらわれた
全てが壊された始まりの日、俺は殺されずに7本の刀と共に毘灼に連れ去られた。目の前には統領と名乗る男。
こいつが父さんを殺した張本人!
憎しみと怒りに駆られる俺を愉しげに見つめる。
「…俺をどうするんだ」
「お前はどうしたいんだ」
「俺は…俺はお前を!!お前達を殺したい!!」
「…いい目だ」
「俺は、お前がどのように成長するのか、どのように復讐するのか見たいと思った。だから殺さない」
「……」
「ただ復讐の種を植えて芽が出るまでは気になるものだろう。連れて自分好みに育てるのも一興かと思ってな。力を得られるんだ、悪いことではないと思うがな」
「…お前を利用して力をつける。今は手のひらの上でも、絶対殺してやる」
「はははっ、そうだ、それでいい。俺をたのしませてくれ」
そう言って彼は満足そうに語った。
そうして俺は治療され、部屋に案内された。
広く洗練された家具が置いてある落ち着いた部屋だった。ここが今日から俺の住処になるらしい。やわらかいベットに体を沈める。
緊張感がとけ、場違いながら眠気が襲ってきた。
壊された家、地面に叩きつけられた金魚、そして血を流してこときれた父
業火を燃え上がらせた憎しみに火傷をおいながら意識を飛ばした。
ここでの生活は3箇所に限られている。
自分の部屋、結界で外には出られない四季折々の庭、広い武道館。
家具や造りを見ると素人ながらに質が良いことがわかる。組織として、かなり資金があるんだろうなと考察する。
奴以外に会うも家事を行う使用人のみで、妖術かなにかで使用人の姿が認識が出来なかった。少しでも毘灼の情報が欲しかったが、徹底されていた。
そうして広い武道場で、俺は皮肉にも復讐相手本人に体術・玄力・妖術を教わっている。意外とわかりやすいのはムカつくが。
流石に奴も忙しいのか来ない日もある。
ただ、復讐のためにいくらでも鍛えられることが出来た。
連れてかれて1ヶ月、今日も基礎を叩き込んでいた。やけに筋肉痛で体が重いがそうは言ってられない。
「せいが出るな」
背後から声がかかる。相変わらず気配を感じられない。振り向くと、奴は少し呆れた表情をにじみだした。何だ。
「?」
「自分の体調管理ぐらいしっかりしろ」
「は?」
「気付いてないのか、顔が白いぞ」
「え」
そう言われて、自分の体調が悪いと脳が認識したのか、どんどん苦しくなってきた。熱くて、寒くて、震える。
こんな所で体調悪くなるなんて、悔しくて涙が溢れそうだ。だけど意地で涙を見せたくなくて我慢する。誰かに縋りたいが、目の前にいる男だけは嫌だ。
そうこうしている間に意識が朦朧としてきて、視界が黒く染った。
暗闇の中にあたたかい光があった。そこに父さんがいた。金魚もいた。柴さん、薊さんもいた。そして幼い俺。平穏な日常がそこにあった。
思い出を目掛けて走っても走っても遠くなる光景。求めるほど遠くなる。光がなくなる。闇が広がる。光を求めてもがいているのに距離は近付かない。
…苦しい。
―待って―
―置いてかないで―
誰かの聲が聞こえた
目を覚ますと、あてがわれてる自分の部屋だった。汗で服がへばりついて気持ち悪いが、少しは楽になった気がする。
「気が付いたか」
あいつが椅子に座って、何かを読んでいた。
「…」
「起きたなら食事を運ばせる。食べれるだけ食べろ。薬を置いてあるから、今日は休め」
そう言って細長い手で頭を撫でられ出ていく。父の刀匠として鍛えられた硬い手の平が好きだった。温かい手が好きだった。求めていた手ではないことに目頭が熱くなる。
そうして食事が運ばれたが、今はただ泣きたかった。
調子が戻ると、すぐに鍛えはじめた。
はじめは、少し体力が落ちていたが、元に戻り着実についてきている。自分のコンディションを見極めながら稽古をする。もう倒れている暇はない。
とは言いながらも、時々あいつは外に連れ出し、色々なことをさせたがる。茶道や華道や弓道、将棋に様々なマナー、挙句の果てには社交ダンス。これには呆れたが…。
「お前は、箱入りだからな。少しは色々な世界を見るべきだ。いつか必要になるかもしれないだろ。あと俺が見たい」
「おい」
奴の本音はさておき、一理あると思った。
平穏の箱庭では柴さんや薊さんがくれる本や情報だけだった。外に出るのはたまにだけ。視野は偏ってはいないと思うが広くはないと思う。
だから色々な世界や知識を得ることで、視野が広がると思ったし、それがこいつらを倒すことに繋がるかもしれない。繋がらなくても知っておいて損はない。だから、奴の本音につきあってあげている。
そんなこんなでそろそろ1年が過ぎる。
基礎を磨きあげ、奴を殺そうとするが遊ばれる。時に趣味に付き合わされる。
わかったことは、奴との差がまだまだあるということ。土台が出来てやっとスタートラインにたてた俺と遥かいくゴール地点の怨敵。今は手のひらの上でも、必ず出し抜いてみせる。
そのために、より鮮烈により苛烈に熟練させていく。
「今日は実戦だ。準備しろ」
「実戦?」
「ああ。裏の人間を殺すんだ。」
「…殺す…」
「そうだ。同列は癪だが、裏の人間。なおさら悪いことをしている人間ならば殺しやすいだろう。ちょうど要らなくなったからな。俺を殺すために、殺すんだ」
久しぶりの外。闇が広がり、月とネオンの光が輝いている。
喧噪奏でる街の一室。狼狽している取引先と顔は見えないが涼しい顔をしていそうな奴とその後ろに立つ俺。
麻薬の密売で金を潤す悪人たち。後ろ盾として毘灼がいたが、金で目がよどんだか別の組織へと情報を渡そうとしたらしい。金の亡者に取り憑かれたか。
この亡霊が今宵の目当てだ。
「こ、此度は如何されましたか」
「種を植えたんだ」
「…は?」
「自分好みに育てているんだが、発芽の時期でな」
「はぁ…」
「どのように芽を出すのか楽しみにしているんだが…ちょうど情報を流そうとしているネズミがいてな」
「そ、それは…」
がたがたと震え出す本来の空間の主。今はただ黒に怯えていた。
「大輪の肥料になるんだ。光栄だろ」
「う、撃て」
涅、一閃
死が舞い降りた。
漆黒がその場にいた人間を1人除いて、死に追いやった。
確かに奴を巻き込んだ攻撃だったが、わざと食らって血を流しながら満悦してる。俺に人を殺させて愉しんでいる。流れた血を見せながら、俺の頭を撫でる。
「千鉱、誕生日おめでとう」
「初めて人を殺した気分はどうだ」
「あぁ…最悪な気分だよ…!!」
―憎悪に燃える16歳の始まり。初めて人を殺した8月11日。平穏には戻れない―
初めて人を殺した誕生日から、奴は用済みになった組織、邪魔な裏社会の妖術師を実戦練習として時々俺に壊させていた。
淵天から伝わる生命を刈り取る感触。命の灯火が消える瞬間。噎せ返る血のにおい。何もかも初めてだったのに、奴を殺すために人を殺すことに慣れてきた。
悪人ゆえに許せとは言わない。ただ俺の復讐の糧となれ。
「へ〜君が幽のお気に入りか〜。僕昼彦」
今日も組織壊滅を任されたが、いかんせん人数が多い。そのため、もう1人派遣された。 昼彦というらしい。
相変わらず術で姿が認識出来ないが、おそらくコイツは毘灼のメンバーだろう。奴がその辺の奴と組ませるわけがないからな。自意識過剰だが奴はそうする。
「悪いがお前らと話す義理はないし、アイツに認識出来ないようにされているから」
「幽、そんなことまでしてるんだ〜徹底的〜。…いや独占欲かな?」
「…」
「まぁいいや今日はよろしくね〜」
そう言って彼は紙を出す。紙が武器か。
「俺、右からやるから左からよろ〜」
速い。もう離れた。メンバーなだけあってそこらの妖術師と動きが違う。
もっと情報を得たいが後から絡まれるのは面倒だな…。仕方なく左から敵を倒していくか。
本当に数が多い。妖力が減って、少しふらつく。ここは課題だなと自分の反省点を見つけ、今後のトレーニングの調整を考える。
すると昼彦というのも片付け終わったみたいで、こちらに向かってきた。
「は〜つまんな」
奴は特に傷もなく、何も変わっていない。
「つまんなかったからさ…
味見してもいい?」
「っ!」
そう言って彼はこちらに紙を飛ばして向かってきた。こちらも淵天を構えて、紙を切る。だが、紙吹雪の様に舞った白が、昼彦の動きを見えなくする。紙の間から攻撃を仕掛けてきて防戦一方。それなら…
「涅」
涅で紙諸共薙ぎ払う。
「いいね」
しかし昼彦は攻撃を避け、一瞬で紙が覆ってしまう。キリがないか…それならば…
「涅、錦」
「―っ」
涅で道を開き、錦を纏い振るい続けて、紙を操る余裕をなくす。だが全て寸前で避けられる。読まれてる…?
「動きが単純だよっと」
「ぐっ…」
死角から鶴の折り紙が飛んできて吹っ飛ばされた。本気ではない。本気だったら脇腹抉れてた。奴の言うように動きが単純であれば、もっと複雑に。もっと淵天の可能性を広げて。限界を越えろ。静かな闘志は青く燃えていた。
「そう来なくっちゃ」
殺し合いが始まるその瞬間ー
「そこまでだ」
「っ!!」
「ヤバっ」
突然現れる宿敵に闘志が止む。体が限界だと悟ったが、意地で立つ。
「昼彦、何している」
「遊んでただけだよ。準備、準備で退屈だったから」
「そうか…。では、より退屈な任務を任せようか」
「え〜!?幽の意地悪!
…まぁ今日は楽しめたし、邪魔者は退散するよ。
またね〜千鉱、また遊ぼ」
そう言って昼彦は消え、2人だけになる。
「どうだった」
「…悔しいが遊ばれた。実戦経験が違う。だからこれからも稽古に付き合え」
「強欲だな。いいだろう」
奴と共に炎に消え、限界を超えた体は意識を失った。意識を失う直前、奴が体を支えたのはわかったが、何も出来ず落ちた。
意識を失った千鉱を抱き、ベットに寝かせる。淵天と脇差を大切に置き、細かな傷を治す。
1年前と比べると身長が伸び筋力も増え、着実に成長している。落ち着いて理性的な性格も相まって、より大人びただろう。
ただより鮮烈なのは、眼だ。赤い瞳が何より良い。鮮やかな赤に復讐心をのせた瞳を向けられると心が満たされる。
今は目を閉じていて、置いてきたあどけなさが残るが、ひとたび目を開けたら、鮮やかな瞳が見える。その差異がまたたまらない。
あぁ、楽しみだ…
それからも殺し合い、鍛え、時に趣味に付き合わされ、また殺し合う。復讐の為に繰り返す日々。
気付けば、また暑い夏が来ていた。
囚われている空間は、時空が狂っているため、何もかも晴れていて心地良さが気味悪い。
だから外に出ると、季節を感じる。
「裏社会の集まりがあってな。行かないか」
「行ってどうするんだ」
「俺たちとの繋がりがわかるかもしれんぞ」
「チッ」
「いい子だ」
言葉に乗せられて、集まりに来たが、いわゆるパーティーじゃないかこれ。しかも仮面付き。淵天は野暮だから置いておけと大事に保管されたが、持ってきていたら逆に悪目立ちしていた。まさに物語でしか知らない世界だ。
でも仮面のお陰で傷が隠れているのは助かる。復讐の灯火故に目立つし顔を知られる。
だが、仮面で顔は隠れているが、これが全員裏社会の人間達だと思うと、吐き気がする。絢爛豪華な世界を満たす為に、何を犠牲にしているんだと考えると虫唾が走る。
奴は子慣れていて、他の参加者と気軽に話している。
あぁ、嫌な空気だ。優美な衣装も。キツイ香水も。見栄がわかる宝石も。薄汚い人間達の巣窟だ。
この醜い空間から外に逃げ出したくて、月に向かって逃げていた。どこからか聴こえた波の音に導かれ気付いたら浜辺にいた。
思えば初めて1人で外に出た。今まで、父さん、柴さん、薊さんとしか外へ出てないし、囚われてからも奴としか外に出てない。この瞬間、自由に何処へでも行けると漠然と思った。だがその自由に戸惑う。
今ここで逃げようか。どこかに置いてきた自分が囁く。何を馬鹿なことを…。このまま奴からも逃げようとも、柴さんと薊さんを見つける前に捕まってしまうだろう。
そもそも淵天を置いて逃げるつもりはない。人を殺しておいて戻れるつもりはない。父さんの信念を分からせるまで。奴らを殺すまで死ぬつもりはない。
分かりきった答えに空っぽな笑みが零れる。
ただ、そうだな…少し疲れた。
波の音に耳を傾けながら、月を眺めていた。
どれくらい時間がたっただろう。
砂浜に足音が刻まれる。
「1曲いかが」
「…気分じゃない」
「それは残念だ。それでは無理やり踊るか」
「おいっ」
奴は手を奪うと、もう片手を腰にあてた。ステップ勝手に刻み、体が覚えているため踊らされる。
「ははは、波の音で踊るなんて風雅じゃないか」
「アンタ、この為に俺に教えたのか」
「役に立っただろ」
「嬉しくない」
「だが、そうだな…月に照らされて踊るなんて思わなかったな」
「月が綺麗ですね、なんて言うなよ」
「おや、知っていたのか残念だな」
「…」
「では…」
ふいに抱きしめられて、顔が近くなる。
―――っ
1拍。
理解に時間がかかった。理解したのは唇に何か触れたこと。奴の顔が近かったこと。
キスされた。
思わず離れる様に動かすが、抱きしめられている力が強く離れない。
「…っ何をするんだ」
「月に約束しようか。お前が18になったら、抱くと」
「…は、何言って…」
キスが降り注ぐ。顔を動かして、避けようとするがただ笑うだけだった。
「止めろ!正気か」
「お前は俺に正気を求めるのか」
「それとこれとは違うだろ!…っ」
頭を固定され唇が合わさる。ぬるりと舌が入ってきて変な感覚になり、言葉にならない音がでる。こんなの知らない。未知の感覚に恐ろしくなり舌を噛み唇が離れる。
「…ふっ初めてか」
「…当たり前だろ」
「それは僥倖」
息を整える俺もよそに、彼は俺の臍辺りを細長い指で撫でる。動きでコイツが望んでいるものを本能的に理解してしまう。
「あぁ、来年のこの日が楽しみだ。それまでに俺を殺せればいいな」
あぁ…最悪のカウントダウンが始まった。
あの夜から境に、奴はキスをするようになった。場所を問わず。殺し合った後は特に長い。前に舌を噛んで血を流させて抵抗したが、ものともせず、それどころか血を飲ませてくるので噛むのはやめて好きにさせている。
今日も一方的に殺し合い、奴に傷を負わせ妖術を使わせたが、樹木で身動き取れなくなってしまった。それをいいことに深いキスをしてくる。キスされまくって呼吸の仕方を覚えてしまったなと、どこか俯瞰している自分がいる。
「んぁ…、ぁ、…ふっ…ぅ…」
「今日はここまでだ。また来る」
唇から零れた唾液をすくい、炎に消えていく。
奴が消えて、樹木も消え自由になる。早く殺さないと…タイムリミットが着々と近づく。
冬になり、外との寒暖差に震える頃。奴は俺をつれて海外に飛んだ。どうやっているのかわからないが、妖術で気付いたら海外にいた。不法侵入極まりない。
「休暇だ。楽しもう」
「そんな暇はないし、第一お前と一緒は楽しくない」
「そうかな。俺はお前となら楽しいが」
「…」
「千鉱、行くぞ」
隠してもないし、気に入られているのは承知しているが、ここまでくると呆れるな。コイツ、俺が何しても悦ぶんじゃないか…?
明らかに違う言葉、建物、文化に気候。本当に海外に来たんだと実感する。何もかもが新鮮で、正直心躍らせられた。料理も洗練された洋食で美味しかった。奴の謎のマナー教室のお陰で、恥をかかなかったのはムカつくが。
様々な所に行き、違う文化に触れた。時に、いかにも高そうな服屋で着せ替え人形にされたが、全てが自分にとって目新しく時を忘れさせた。
最後の夜、極寒の中連れ出された。光も少ない真っ暗闇のはずなのに、真っ白に覆われている。白銀の世界に取り残されたようだ。
ここで何をするんだと問いかけても、待てと言われる始末。経験したことのない寒さに徐々に熱が奪われる。流石に体が冷えてきたと思ったその時、鮮やかな色彩が生まれだした。
「綺麗…」
思わず声に出た。夜空に神秘的なヴェールが描かれていた。オーロラだ。知識としてあったが、ここまで綺麗だとは。自然がおりなす美に目を奪われる。寒さを忘れて見入っていた。そんな俺を眺めている視線など忘れて。
「満足したか」
その言葉に思考を取り戻す。随分と眺めていたようだ。体が冷えている。
「体が冷えただろう。戻ろうか」
「…」
コイツの事は確かに憎い。俺の全てを壊した。殺したい。だが、コイツのお陰で様々な経験が出来ている。感謝していると言ってもいい。その二律背反に精神が追いつけない。
俺の人生どうしたいんだよ。
あぁ…ムカつくな…
春が過ぎて夏がきた。
8月11日に日付が変わる頃。
タイムリミットまで時がない。今こそ奴を殺す。
殺意を持って淵天を振い続ける。今までみたいな細かな傷じゃない。確かな傷を。集中しろ。
錦を纏い、加速させる。ついてこさせるな。
「涅」
「!」
涅を囮に確かな一撃を放つ。
だが
「っ…!」
返り血が顔にかかり、目をつむる。
「まだ終わってないぞ」
「ぐっ…」
逆に奴の蹴りが入り、樹木の壁に衝突し拘束される。衝突した勢いで、大事な淵天が手から離れる。
「残念だったな。
だが、今までで1番良かった。まだまだ輝けるな」
「うるさい。殺せないなら1番も何もない」
「それはそうかもな」
動きが取れない俺を背に、奴は淵天を拾い唇を合わせてくる。
「ん……ぐっ、んん゛っ…!」
いつもと比べ物にならないくらい、性急で、より深くて、口内を舐め回される。反射で舌を引っ込めたが、追いかけるように回される。
「まっ、んん……は、はげしぃっ…や……」
激しい接吻に頭が追いつかない。今まで手加減されていたことを知る。もはや、舌は甘く痺れて何もできず、口の端から重なり溢れた液が零れ落ちる。
「……ぅ………、ぁ……ぁ………はぁ……」
ようやく解放された後には、いつのまにか解けていた拘束がなく、崩れ落ちた。
「初めてはベッドがいいだろう」
そう言って俺を姫抱きにしたが、俺の思考は溶けていて、初めての意味も、今の体勢も、何もわからなかった。
体が沈み込む感覚で思考を取り戻す。
ベットに倒され、奴が覆いかぶさっていた。抵抗を試みたが、再び激しいキスをされ、抵抗の意味をなくす。
その間にお互いの服を脱がし、全身を意図を持った動きで翻弄される。胸も腕も足も背中も触れる甘さに酔う。
じわじわと甘く溶かされている感覚がもどかしい。高めるだけ高めて、吐き出せないのが苦しい。
「…も、ぅ…っ……やだぁ……ん…」
「あぁ、お前の体を堪能しすぎていたな」
「あぁっ――!」
泣き言に反応して、奴は性器を口に含む。口内の温かさと舌が蠢く激しい刺激に混乱と同時に熱を吐き出した。焦らされただけあって、余韻に溺れそうだ。
「濃いな」
そんな俺を他所に、口の中の精子を嬉しそうに飲んでいた。
その手に何処かから取り出した液体を出す。その手でまだ触れられてない場所に触れられて、一気に余韻がなくなる。
「お前に男を教えよう」
細長い指が中で動く。液体のお陰か痛くはないが違和感が凄い。その間にも気持ちを和らげているつもりか、キスが降り注ぎ片手で胸をいじる。
液体をつけた指が増えたのか中が狭く苦しくなった。苦しくなったはずだった
「あっ、え、な、なに…んっ…」
「千鉱、ここが前立腺だ。男でも気持ちよくなれる所だ。わかるか」
「ひっ…わ、わかんな、あっ…ひぅ……」
突如、強すぎる快感にパニックを起こす。前立腺と言われても気持ちよすぎて、何もわからない。何も考えられない。違和感が凄かったはずなのに、全てが快楽に塗りつぶされる。
中を拡げながらも巧みな指使いに理性は溶けきっていた。
すると指を抜き千鉱を起こさせ、膝立ちにされた。後ろから、指を挿入する。再びの刺激に何かすがりたくなり、抱きつく形になる。自分から抱きにいっているとはつゆ知らずに、馬鹿みたいに喘ぐしかなかった。
「愛らしいな…」
溶けた顔の千鉱の頬を撫でながら、恍惚な笑みを浮かべる。その手を後ろにやり、顔を下げようとする。
体とともに顔を下げると奴の性器が目に入る。膨張した男根に怖気付く。そんな俺を無視して、口に咥えさせる。
「ん、ぐっ…ぅ……」
独特の匂いが鼻につく。器用にも後ろで指を動かしながら、顔を揺らされる。怖気付きながらも未だ快感に溺れているからか、口内を犯す行為さえ苦しいのに気持ちよくなってくる。
「どうしてだろうな…
わざなんて何もない動きなのにどうしてここまで惹かれるのか」
涙目になり快楽で前後不覚なはずなのに、何故かコイツの限界が近い事がわかる。口の中でなにかが破裂するように太くなる。指を抜かれ、集中しろとでも言うように動きが少し速くなる。
あぁ、出される。
「くっ」
「―――っ!!」
口内に吐き出された熱。独特な苦味。
分かっていても喉に張りつく精液に咳き込む。
咳き込み、零れた涙を拾いながら押し倒す。
「やっとお前の全てを奪える」
出したはずの精根が熱を灯していて、本当に俺で興奮しているんだなと現実逃避しているかのように思い浮かんだ。
それもつかの間、散々弄られた蕾に押し当てられる。
指とは違う質量に涙が零れる。拡げられたはずなのに、ミチミチとゆっくりまた拡げられる。苦しいのに、自分のを触れられて、気を紛らわせる。優しいのが辛い。もう沈み込みたくないのに、甘美に落としてくる。
ゆっくりと、しかし自分のモノをわからせるように動く。単調な動きに心地良ささえ感じて、口から出る音は何も意味をなしてない。
ゆっくりとした動きを繰り返していくと、奥まできたようだ。
「俺のがわかるか」
その問に答えたくなくて頭を横に振る。
「それでは、わからせようか」
不気味に笑った奴は、臍の下を押し、俺のを性急な動きで促す。声にならない声を上げ、白い子種が溢れでる。筋肉が痙攣し中が締めたことで、否が応でも奴のがわかってしまった。
「…ぁ……はぁ…はぁ……んっ」
良く出来ましたとでも言うようにキスをされる。余韻に浸るキスは甘かった。
甘さ漂う中、腰の動きを再開した。
「あっ、また……あっ、ふ……」
「俺はまだ出してないからな」
俺の気持ち良いトコロを刺激しながら、速くもなく遅くもない動きで、揺さぶられる。肉同士がぶつかる音を聴きながら、高める欲に羞恥を覚える。普段淡白で生理現象としか思っていない体が作り替えられる。
「あ、…で、る…」
またイきそうになっているモノに栓がつけられたように蓋をされる。
「ひぅ…ぁ、な、ん…で…ぇ……あっ…」
「もうすぐだから、少し我慢しろ」
出したいのに出せない。俺の全てを握っている男の鼓動が激しくなる。今まで甘やかされた分、激しくなる動きについていけない。激しいのに、あいも変わらず甘いキスをほどこす。吐息がまざる。
「っ…いい子だな。イっていいぞ」
栓が解かれ、裏筋を責められる。
甲高い声と同時に勢いよく弾けとぶ。その勢いに締めた中で、奴も声が漏れる。
(あぁ…奴も出したんだ…)
溜めた分、長い射精に浸る千鉱は、目の前の男をぼやけた視界で見ていた。
吐息が支配し、終わりかと思った
だけど
再びピストンが体を巡る。終わりだと思っていた身体に衝撃が走る。
「ひっ、お、おわっ、り…じゃ…あぁっ…」
「おかしなことを言うな。まだ夜は始まったばかりだろう」
悪魔が笑い、気を失しなわせて貰えず、彼が満足するまで饗宴は続いた。
日差しが照りつけて目が眩む。
8月12日。柴登吾は高級ホテルの前に来ていた。
(ヒナオちゃんから俺宛の任務がきたっていうから受けたけど、十中八九罠やろうな…)
だけど罠でも構わない。3年前あの日失った親友と行方不明の息子、その犯人である毘灼の情報が手に入るなら構わなかった。
指定された場所は、変哲もないビルの屋上で、鍵が置いてあった。鍵には目の前の高級ホテルとその部屋番号が刻まれいた。
このホテルと毘灼が繋がっているのかは後で調べるとして、部屋に向かう。
(この部屋や…)
鍵の解錠音を聞き、部屋に入る。
1人の気配を感じながら進むと、花の匂いが強くなる。その気配の主はベッドに横たわっていて、身を覚えがあった。
「チ、チヒロくんか…?」
3年も探していた人が確かにいた。顔には傷が残り、身長は伸びて大人びていたが、確かにチヒロくんだった。眠っているようだ。
起こそうとしたが、神聖な雰囲気が邪魔して触れることを躊躇した。白無垢のような着物を着て、綿帽子の意味か白い上質な布が被せられていた。
それに反して、おとぎ話のように眠らされているチヒロくんが持っているものは刀だった。
これは…淵天か?
戦後に長い時間かけてつくっていた刀。その刀をチヒロくんが持っている事実に少し安堵する。
白と黒を覆うように敷き詰められているのは赤い花々。花には詳しくないが、薔薇や椿、彼岸花らがあった。
正直、美しいと思った。ずっと眺めていたいと。
その想いを捨て、ようやくチヒロくんに触れ、声を掛ける。
声に反応したのか、ようやく「赤」が動き始めた。