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#シリアス
それから数日後
季節が巡る早さに、時折置いていかれそうになる。
美術室の窓から見える景色が、鮮やかな新緑からじっとりとした初夏の気配を帯びるように
僕の周囲も少しずつ、けれど確実に色を変えていた。
けれど、今日だけは別の意味で胸が騒がしかった。
「…あっ、やば……」
更衣室のベンチで、僕は青ざめていた。
通学バッグの底をいくら掻き回しても
指先に触れるのは筆箱や参考書の硬い感触ばかりで
あるはずの柔らかい布の感触が手に当たらない。
最悪だ。
体育のジャージ、よりによって上着だけを家に忘れてきてしまった。
半袖の体操着一枚で外に出るには、まだ少しだけ風が冷たいし
何より「忘れ物をした」という事実だけで
クラスの端っこにいる僕の心は簡単に折れそうになる。
「どしたの水瀬。忘れ物?」
背後から声をかけてきたのは、当然のように天馬くんだった。
彼はすでに着替えを終えていて
すらりと伸びた手足に、紺色のジャージが驚くほどよく似合っている。
金髪が更衣室の蛍光灯を反射して、いつも以上に眩しい。
「うん…ジャージ、忘れちゃって……」
「上だけ?」
僕が小さく頷くと、天馬くんは「あー」と短く呟いて
たった今着終えたばかりの自分のジャージのファスナーを躊躇なく下ろした。
「ほい」
「……え?」
「俺の貸すわ」
「えっ?でも、天馬くんが困るんじゃ……」
「俺は平気。Tシャツ一枚の方が動きやすいし」
彼は脱ぎたてのジャージを、僕の肩にふわりとかけた。
その瞬間
布越しに伝わってきたのは、天馬くんの確かな体温。
そして、制汗剤のシトラスと
いつもの石鹸のような清潔な香りが鼻先をかすめて、頭の中が真っ白に塗り潰される。
「……っ、あ、ありがとう…!」
袖を通してみると、案の定、サイズが全然合っていない。
指先まで完全に隠れてしまう長い袖は、僕がどれだけ腕を伸ばしても手の甲すら見せてくれない。
裾は太もものあたりまで届き、まるで子供が大人の服を借りたような不恰好さだ。
天馬くんの体の大きさを
布の余り具合という残酷な現実で突きつけられているみたいで、顔が急激に熱くなる。
「……っ、」
あまりのサイズ差に恥ずかしがっていると
天馬くんが僕を見て、少しだけ目を見開いたあと、慌てたように口元を片手で覆った。
「…やっぱり変、かな」
「いや…変っていうか、なんつーか…うん、いいんじゃねーの?……可愛いし」
最後の方は消え入るような声だったけれど、僕の耳にははっきりと届いてしまった。
けれど僕の耳には、心臓に直接打ち込まれた杭のように。はっきりと届いてしまった。
天馬くんはなぜか耳の先を林檎みたいに赤くして、そそくさと更衣室を出ていってしまった。
◆◇◆◇
数十分後───…
体育館の床がキュッ、キュッと鳴り響く。
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