コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「○○番でお待ちの明石さん診察室へお入りください」
もう何度目だろう。意味のない診察。結果は分かっているのに。
「今回も異常なしですね。一応喉薬を出しておくのロビーでお待ちになっていてください」
頷いて診察室をでる。
異常がないのは当たり前だ。どこも悪くないのだから。声が出ないことを心配してくれるのはいいが、正直病院に来るのはもう面倒くさい。私は声を失ってしまったことをもう受け入れている。喋れなくても生きていける。
私は何も困っていない。なのに大人達は無駄な心配をしてくる。病院の大人達も私を可哀想な子を見るような目で見てくる。
私は可哀想じゃない。大丈夫なのに…
「なあなあ!」
突然病院内に響き渡った私に向けられたであろう声。突然のことに驚いて叫ぶところだった。叫べるような声などないのに…
そんなことより、私に話しかけてきてくれるような友達などいない。だったら、いきなり知らない人に大きな声で話しかけるようなヤバい奴ということになる。けれど無視するわけにはいかない。とりあえず顔だけ見ておこう。振り向いて驚く、そこにはいたのは絶世の美少年だ。綺麗な白い髪と肌。透き通るような青い瞳。身長はそこまで高くなく170センチちょい。こういう人を美少年と言うのだろう。けれど、なんと返事をすればいいものか。ペンも紙も持ってない今の私には返事をする術がない。そうだスマホのキーボードで答え
「そんな面倒なことする必要ないよ笑」
彼は笑いながら言う。
「そんなことより、絶世の美少年かー照れちゃうなー笑」
私はまだ状況を理解できないでいる。そんな私に彼は続けて
「まだ状況が理解できていないね笑そりゃそうか、喋ってもないのに考えてること当てられてるんだもんな笑俺人の心が読めるんだよね」
コイツは何を言っているんだろうか、確かに病院に来た方がよさそうだ。頭がおかしいんだろう。
「ひど笑俺の頭はおかしくねーよ。あとコイツじゃなくて蒼だ。白川蒼。覚えとけ」
白川蒼。コイツは本当に人の心が読めるらしい。君はなんで病院に来てるんだ?
「またコイツって言った」
コイツは少々めんどくさい奴なのかもしれない。早く答えろ。
「俺はめんどくさくなんかない!俺が今日病院に来てるのは盲腸の手術の抜歯!てかお前の名前はなんだよ」
答えたくない。
「明石桜っていうのか」
なんで分かるんだよ。
「馬鹿だなー笑、一瞬でもそのことについて考えたらこっちにも伝わんだよ笑残念だったな」
最悪だ。なんのようなんだよ。
「いや、桜が1人ボッチだったから話しかけてみよーと」
いきなり下の名前呼び。軽々しく接してくるな。
「桜友達いないだろ笑」
ムカつく。初対面のコイツになんでこんなこと言われないといけないのだろう。私は声が出ないからしょうがないんだ。なのに…
「いやいや、声のせいにしてるだけだろ。今さっき考えたみたいに紙や電子機器とかコミュニケーション取れるだろ、するのが怖いのをできないのを声のせいにしているだけだろ言い訳すんなよ」
さっきまで半笑いだった彼が突然真面目にそう言ってくる。意味が分からない。何故彼にこんなことを言われないといけないのか。
「俺は言い訳すんなって言いたっブォフ!」
叩いてしまった。自分でも無意識だった。
「○○番でお待ちの明石さん〜〜〜」
いいタイミングでアナウンスがなった。
「あ、呼ばれたな。一旦貰ってこいよ。まだ話したいことがあるんだ」
彼が私に言う。怒っているようには見えない。むしろ無邪気な子供のように見える。
けれど私はその言葉を無視してその場から逃げるために走って喉薬をもらってそのまま帰った。
「おかえりなさーい、診察どっだった?」
母に答えることのできない問いに私が戸惑っていると
「母さん、桜には答えられないよ。桜、上に上がって制服を着替えてきなさい」
父にそう言われて頷いて上へ上がった。
また1人になって1番最初に考えたのは彼のことだ。白川蒼。とても綺麗な見た目とは真逆にとてもデリカシーがなく、思ったことをすぐ口にするタイプだ。そして心が読めるときた。不思議な人だ。まあ今日あんなことをしたんだからもう関わってこないだらう。そんなことを考えて制服を着替えていると、カバンにつけていたお守りがなくなっているのに気づく。
どうしよう。あのお守りだけはダメだ。大切なものなのに。きっとどこかで落としたんだ。でも今探せば見つかるはずだ。そうだ。きっとそのはずだ。大丈夫。大丈夫。
私は走って家を出た。