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麦ごはん
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俺の心臓は、止まない。
正確には、止まったら終わりなんだけど。
問題はそこじゃない。
勝手に乱れる。
勝手に速くなる。
勝手に遅くなる。
なのに、辞められない。
生きることも、好きになることも。
俺の心臓は、たぶん普通より少しだけ怠け者だ。
医者はもっと難しい言葉で言ってたけど、要するにそういうことらしい。
ー拡張型心筋症ー
名前だけ聞くと強そうなのに、中身は全然違う。
走ればすぐ息が上がるし、階段も三階までで限界。体育は見学が当たり前。
でも、それ以外は普通だ。
少なくとも、周りから見れば。
文化祭の日、校門の外まで甘ったるい焼きそばの匂いが広がってた。
男子校の文化祭なんて来るやついないだろって思ってたのに、意外と人は多くて、女の子もいた。
その中の一人が、あいつだった。
きっかけは、たぶんどうでもいい会話。
迷ってたから案内したとか、そんなレベル。
「ありがとう、優しいね」
その一言で、たぶん終わった。
それからは、SNS。
会ったのは一回だけなのに、毎日話してる。
どうでもいい動画送り合って、テストの愚痴言って、朝まで続くやつ。
顔もちゃんと覚えてる。
笑うと、ちょっと目が細くなる。
「ね、また会おうよ」
画面にその文字が出たとき、指が止まった。
会いたいに決まってる。
でも。
病気のこと、言ってない。
言ったら、どうなるか分かってるから。
「今ちょっと忙しいかも」
送信。
既読は、すぐについた。
「そっか、無理しないでね」
優しすぎる返事だった。
夜、心臓の音がやけにうるさい日がある。
ドクン、ドクン、ドクンじゃなくて
ドクンドクン、ドクン、ドクンドクン
ズレてる感じ。
ちゃんと動いてないみたいな。
医者は「無理しなければ大丈夫」って言った。
でも、“大丈夫”の期限は教えてくれなかった。
次に倒れたら、入院だって言われてる。
そうなったら、たぶん今みたいに自由には話せない。
だから、考える。
今のうちに会うべきか。
それとも、このまま終わるか。
「実はさ、言ってないことある」
打って、消す。
「今度ちゃんと話したい」
打って、また消す。
結局、送ったのは
「今日寒いね」
既読がつくまでの数秒が、やけに長い。
この時間が、ずっと続けばいいのにって思う。
会わなければ、壊れない。
言わなければ、失わない。
でも、それって本当に残ってるって言えるのか。
「ね、冬休みさ、会えない?」
通知。
画面の光がやけに眩しい。
たぶんこれが最後のチャンスだって、どこかで分かってる。
心臓がまた、変なリズムで鳴る。
俺は、しばらく画面を見たまま動けなかった。
打つべき言葉は、もう決まってるのに。
──送信ボタンに、指が触れる。
あとがき
初投稿です!!
最期に私の小説をここで供養させてください
ごりきらと申します。
生きてるうちはコメント全部返します。