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男子校の文化祭に来る女なんて、親しかいないと思ってた。
教室の中は油とソースの匂いで満たされていて、窓を開けても全然抜けない。焼きそばをひっくり返す音と、適当な呼び込みの声がずっと響いてる。
「おい、もっと声出せって」
「うるせえよ、誰も来ねえって」
そんな会話を聞き流しながら、俺は廊下に出た。
中にいると息が詰まる。
別に具合が悪いわけじゃない。
ただ、空気が少し重く感じるだけだ。
——いや、たぶん、それだけじゃない。
俺は体育に出ない。
走れないから。
いや、走ろうと思えば走れるけど、そのあとが面倒になる。息が上がって、心臓が変な打ち方をして、しばらく戻らなくなる。
先生は何も言わない。
クラスのやつらも、最初は気にしてたけど、今はもう慣れてる。
「もってるやつ」っていう扱いだ。
楽でいい。
楽でいいはずなのに、たまに息が詰まる。
校門の方から、ざわついた声が聞こえた。
珍しいなと思って、そっちを見る。
女子がいる。
何人かで来てるみたいで、笑いながら写真を撮ってる。
その中に、一人だけ少し離れて立ってる子がいた。
スマホを見ながら、きょろきょろしてる。
迷ってる感じ。
……関係ない。
そう思って、視線を外そうとした。
でも、なんとなく気になって、足が止まる。
ほんとに、なんとなく。
「すみません」
先に声をかけられた。
びっくりして振り向くと、さっきの子だった。
「この教室って、どこですか?」
スマホの画面を見せてくる。
クラスの出し物の場所が書いてある。
「あー、それなら奥の階段上がって右」
言いながら、自分でも分かりにくいなと思った。
少し考えて、言い直す。
「……案内するよ」
階段を上がる。
ゆっくりでいい距離なのに、なぜか少しだけ息が上がる。
気づかれないように、歩く速度を落とした。
「男子校って初めて来た」
隣でその子が言う。
「こんな感じなんだ」
「どういうイメージだったの」
「もっと殺伐としてるかと思ってた」
少し笑う。
つられて、俺も笑った。
「ここ」
教室の前で止まる。
「ありがとう」
その子が、少しだけ目を細めて笑った。
「優しいね」
その瞬間、なんか全部持っていかれた気がした。
理由は分からない。
別に特別なこと言われたわけでもないのに。
「じゃあ」
その子が手を振って教室に入っていく。
俺はしばらくその場に立ったままだった。
胸の奥が、少しだけ変な感じがする。
心臓が、いつもと違う打ち方をしてる気がした。
麦ごはん
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でも、それが病気のせいなのかは分からない。
たぶん違う。
これは、もっと別のやつだ。
その日の夜。
スマホに通知が来た。
見慣れないアイコン。
「さっき案内してくれた人だよね?」
画面を見たまま、少しだけ息を止める。
心臓が、また変なリズムで鳴り始める。
止まない。
たぶん、これは辞められないやつだ。
あとがき
ごりきらです
これは1話として出す予定でした。
最初にインパクト出したくて2話を1話として出しました。
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