その頃の僕は大学生で親元を離れた開放感からなのか真面目に遊び暮らしていた。
親からの仕送りは飲み会やちょっとしたお遊びにきえご多分にもれずバイトで生活費を賄わねばならない身分であった。
当時の僕は朝の早い一限からの必修が多く朝の弱い僕はバイトから寝ずにそのままいける大学近くの夜勤を考えていた。
そんな折、大学近くのローカルコンビニエンスストアが夜勤を募集しておりそのアルバイトに目をつけたのである。
バイトが終わり一限まではサークルが使ってる部室で仮眠でもとって一限に出れば良いだろうと軽い気持ちで面接を受けた。
人手不足だったらしくその場で採用、翌日から出て欲しいと言われ僕は快諾した。
翌日制服?であろうエプロンをバックルームで身につけていると男性がバックルームに入ってきた。
髪の毛はぼさぼさ伸び放題。かろうじて髭は整えられていてちょっとくすんだパーカーでものすごく猫背だ。
「君新しい人?」
「はい!今日からです。」
「一応夜勤は俺と君だけだから。がんばって。」
それだけいうとエプロンを身につけてタイムカードを押してさっさと店内に戻ってしまった。
タイムカードにはS岡とかいてあった。
コンビニの深夜とはいえ大学近くのコンビニ、夜遊びの好きな大学生たちがひっきりなしに来るおかげかあっという間に深夜2時を超えていた。
「僕君。そろそろ空き始めるから休憩いいよ」
レジでタバコを補充していたS岡さんがお菓子の品出しをしながら声をかけてきたので有難く休憩を入ることにした。
休憩といっても店にあるコーヒーか何かを買ってバックルームでぼんやりするくらいしか思いつかなかった僕は案の定バックルームにある監視カメラをぼんやり見つめながら廃棄されたフライドチキンをかじっていた。
お菓子の品出しを終えたのであろうS岡さんがバックルームにはいってきたのを気配で感じとりながら何が映る訳でもない監視モニターに目をやる僕に
「あと30分くらいモニター見てなよ。そろそろ来るから」
喉を鳴らしてS岡さんは猫背をさらに丸めて店内に戻っていった。
そろそろくる?
常連客でも来るのだろうか?
まぁでもまだ休憩がとれるならゆっくりさせてもらおうと携帯のアプリを開いてゲームをやり始めた。
横目でたまに見る監視モニターは何も変わらず閑散とした店内を撮している。
レジではS岡さんが大きなあくびをしながらおでんの鍋を洗っていた。
店の中にはS岡さんとアダルト雑誌のコーナーで立ち読みをしてる若い男性しかいない
なんとなく耳に残るはやりの歌が有線で流れてる。それ以外は静かな店内だ。
モニターの端の時間を見るとS岡さんがくるといっていた30分が近づいていた。
横スクロールアクションのゲームに飽きてきた僕はそろそろ休憩を上がろうかとコーヒーの最後ひとくちを流し込んだところだった。
ふいに入店のチャイムが店内に鳴り響いた。
自動ドアが見えない誰かに反応したようにすーっとあいて、そしてとじた。
レジでは相変わらずS岡さんが眠そうにあくびをしている。
モニター全体を見てみるがやはり店内にはS岡さんと立ち読みの男性しかいなかった。
なんだ。誤作動か。そうおもって店内に戻る扉の方を向いた僕はその場から動けなくなった
店内に戻るためのバックルームの扉の窓はすりガラスになっている。
そのすりガラスに思いっきり顔面を打ち付けている人がいる。なぜ今まで気づかなかったのかというくらいの大きな音で
バンッッッ
バンッッッ
バンッッッ
何度も何度も顔面をうちつけて髪の毛を振り乱しすりガラスには血が滲んで付着している
「ヒッッ、ぇっ、」
声が出せない。動けない。
しばらくそうしていたと思う。
磨りガラスからスーッと影が遠ざかった
店内側から扉が押されてS岡さんが顔を出した
「僕くんいつまで休憩とってんの?かわってよ。」
あくびを噛み殺したS岡さんをみてやっと動けるようになった
「え!!!ちょっとあれなんなんですか!!?S岡さんあれしってたんですか!!!モニターみてたらどうのって!!!!」
「ん?あー。おばあちゃんがいっつもくるんだけどうつった?モニターにしかうつらないんだよね。びびった?」
あっけらかんというS岡さんに僕は自分が見た事を話した
「へー。扉まで来たのははじめてだなー。なんにせよ直接危害加えてくるわけじゃないから大丈夫でしょ」
そういってS岡さんは飴を僕の手のひらに置いた。
「気の持ちようだよ」
休憩交代ねーといって僕を店内に放り出した。
S岡さんがくれた飴は塩飴だった。
これが僕の初めの夜勤だ。