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「この本全部読んでから音楽流したら、完璧に歌えんの??」
「うん。」
グラウンド近くのベンチに座り、オペラの専門書を読む2人。
「すごい個性だね。オレ、文字見るだけで頭痛くなる。」
照れ笑いする上鳴に、大丈夫??と手話をして。
「そういえばさ、上鳴君はどんな音楽が好きなの??」
と質問を打つ。
「流行の音楽かな。今はノマドの曲にはまってる。」
ノマドといえば。と上鳴はTroupe de musique seuleの動画を見せる。今、耳栓をしているの歌にとっては無音の動画だ。
「このバンドすごいんだ。色んなジャンルの音楽を網羅してて、もうすべてにおいて鳥肌もんなのよ!!」
「そうなんだ!!」
「なんかノマドにも雰囲気似ててさ。ノマドって、このバンドのコピーバンドなんかなって思って。」
一瞬、驚きの表情をした歌。それに気づいたかは定かではないが。
「歌ちゃんって、どういう時に耳栓外すの??」
と踏み込んだ質問をした。
「それは。」
と打ったまま俯く歌を、心配そうに覗き込む上鳴。肩を叩いてみると。顔を上げた歌の顔は凛としている。初めてみる表情に思わず上鳴の鼓動が高鳴った。
「明日のお昼、食堂で待ってて。」
そう打って、いつものおっとりとした表情に戻る。
「わかった。けど、あんな騒がしいところで良いの??疲れない??」
大丈夫。手話をすれば、わかったと上鳴も手話で返した。
「そう言うことで。今日は課題だされてるのやならないとだから。また明日。」
「わかった。門まで送るよ。」
頷いて2人並んで歩きだす。
翌日、職員室に用があるから先に行っててと言われたので、その通り食堂で待っていると。あの時同様、カーテンが閉まり出す。
「(マジか。このタイミングで…??)」
歓声が上がり、ノマドのライブが始まる。
「(おいおいマジか。特等席じゃん!!)」
歌が迷わないようにと出入り口近くの席に座ったことで、ヴォーカルとの距離が近い。この前新曲だと言われていた曲が終わり2曲目。バラード調のイントロが始まった。
「(バラードも良いなぁ。)」
しみじみ聴いているとヴォーカルと目が合った。間もなくサビに入る時。
Aメロ最後の歌詞を切ない表情と声で歌い上げた。サビに入ってから食堂内のボルテージもさらに上がった。
「(あの顔、まさか…!!)」
ベルベットのアイシャドウから垣間見えたあの表情。そして心に突き刺さった、君の声が聞きたいよと言う歌詞。上鳴は曲が終わるまでヴォーカルから目が離せなかった。ライブが終了し、カーテンが開いていつもの食堂に戻る。生徒達も興奮覚めやらぬ中、いつも通りの行動を取る。そこへ。
「お待たせ。」
と手話をする、制服姿の歌が現れた。
「歌ちゃん。さっきまで、職員室にいたんだよね??」
興奮で震える手でやっと文字を打つ。歌はごめんなさいと手話して。
「私が耳栓を外す時は、ノマドとして、Troupe de musique seuleとして歌う時なの。」
椅子を倒すほどの勢いで驚く上鳴。周囲の視線が一気に注がれ、慌てて座り直す。
「黙っててごめん。高校卒業するまでは口外禁止でね。卒業したら正式にデビューすることになってるの。」
学校と若者たちの間で有名なあの2大バンドの正体が歌で、卒業後はメジャーデビュー。壮大な話に上鳴の頭はついていけない。
「は、話しはわかった!!また放課後、ゆっくり話聞かせて??とりあえず、メシ食お!!」
頼んだご飯の味が分からない程動揺し、午後の訓練もほとんど身に入らないのであった。
「大丈夫??」
放課後の屋上で、魂の抜けたような顔をする上鳴を心配する歌。
「歌ちゃんの話が凄すぎて、午後の訓練、全く身に入らなかった。」
焦った顔で、しっかりしてと気の抜けた上鳴の肩をゆする。
「まだ言ってないことある。」
「なに??」
「作詞作曲も私。他のバンドメンバーはアバターで、私が作ったの。」
「マジ!?」
次は、ショートしてしまった上鳴を頬を叩いて生還させる。
「歌ちゃん、どこまで凄いのよ。上鳴君脱帽どころか感電死しちゃうよ??」
「自分の個性で死ぬってどういうことよ。」
「まじめにつっこまれるとは思わなかった。」
そう打って、2人は可笑しくなって笑った。
「上鳴君は卒業したら、やっぱりヒーローに??」
「もちろん。目指すはNo.1イケメンヒーローな!!」
「きっとなれるよ。」
「お世辞??」
「違うよ。本気。上鳴君、初めて会った時からイケメンだと思ってるよ。」
まさかのカミングアウトに顔が赤くなる。
「ありがとう。そんな風に思っててくれて。」
「地味な私に声かけてきたのはびっくりしたけど。」
「地味じゃないよ。本を読む姿が。」
綺麗だったからと、手話をすると今度は歌の顔が赤らむ。
「そんな風に思ってたんだ。照れるな。」
数秒見つめあって、照れのあまり2人とも視線を反らす。帰ろうかとお互い手話をし、屋上を後にしたのだった。