テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
目を丸くした麻里に、苦笑しながら麗子が言う。
「これも聞いてるでしょうけど、あたしはポップスとかの音楽の編曲家、美咲は美術デザイナー。両方とも昔から収入が不安定な仕事だから、子どもは一人だけにしようって決めてたの。それで、アメリカから届いた精子を同時に注入したのよ。先に妊娠した方が子どもを産む役目になろうってね」
武司がフォローする。
「でも麗子ママも、れっきとした僕のお母さんだよ。それに家事はほとんど麗子ママがやってたから、面倒は麗子ママの方に見てもらって育ったようなもんだし。美咲ママは壊滅的にそういう事苦手だったもんね」
美咲が口をとがらせて不平を言う。
「ちょっとタケちゃん、未来のお嫁さんにそんな事ばらさないでよ」
麻里は思わず吹き出しそうになり、手で口を押えた。そこからは和気あいあいと話がはずみ、麻里が自分の家族の事を、たとえば父親は平凡なサラリーマンであり母親は専業主婦である事など、を話し終わった頃には、外にはすっかり夕闇が降りていた。
麻里がその日は帰宅する事を告げ、武司が、じゃあ送って行こうと言って立ち上がると、美咲がカードを武司に渡した。
「もうこの時間だし、二人で夕食に行って来なさいよ。そのカードを店員さんに見せれば個室用意してくれるわ」