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アルフォンス様とは、たわいのない話をした。
好きな食べ物や色などを聞かれ、『本当はピンクのドレスを着たかった』と打ち明けると、彼は私の頭を優しく撫でてくれた。
『それは悲しかったな。臣下の子にも双子はいるが、やはり色違いで同じデザインの服を着ている。よくある事かもしれないが、好きな色を選べないのはつらいな』
彼としては、普通に私の話を聞いて、自分の意見を述べているだけだろう。
けれど私は今までじっくりと誰かと話した事がなかったので、アルフォンス様と会話する事そのものがとても楽しかった。
(この方はちゃんと私を見てくださっている)
無視され、またはおざなりに扱われる事が多かった私にとって、皇太子殿下が〝私〟の目を見て話してくれる今の状況は、あり得ないほどありがたい。
有頂天になった私は、彼なら私の〝ハズレ〟能力も見ても笑わないのでは……と思い、インビジブルハンドを披露する事にした。
『あそこ、見ていてください』
私は近くにある庭木を指さし、神経を集中させると見えない手を伸ばし、木の枝を大きく揺さぶった。
すると彼は目を見開き、笑顔になる。
『凄いな。あれは君がやったのか?』
『はい。意識をうんと伸ばして、見えない手で触れる事ができます。この力をどう活用できるかは分かりませんが、少しでもみんなの役に立ちたいです』
するとアルフォンス様は輝かんばかりの笑顔を見せ、私の頭をクシャクシャッと撫でた。
『偉いぞ! 君は自分の置かれた状況に屈さず、なお善くあろうと努力している。その心意気を忘れるな。神は常に、前を見て歩む者を照らしてくださる』
『はい』
聖王国の王女なのに、私は『神様は私にだけ微笑んでくださらない』と思っていた。
(でも、アルフォンス様がそう仰るなら信じます)
彼にとってはなんでもない励ましの言葉であっても、その一言で私の世界は大きく変わった。
(彼が応援してくださる限り、頑張って前を向いて歩こう)
当時の私にとって、アルフォンス様は暗い道を照らす光そのものだった。
けれど浮かれていたのも一瞬の事だった。
晩餐会が終わると、みんなボールルームに移ってダンスに興じる。
本当なら子供は夜になる前には貴賓館に帰され、大人たちの世界を見る事はない。
でもその時は聖女の社会勉強という名目で、子供たちも少しだけ夜の宴を覗く事ができた。
会場には道化が呼ばれ、魔術を使って色とりどりの花を出し、令嬢たちを喜ばせている。
やがて道化は私たちに近づくと、お菓子でできたバラを配り始めた。
私とレティはパァッと表情を輝かせて手を伸ばし、バラをもらおうとする。
歩きながらバラを配っていた道化はレティの前で立ち止まると、大仰なまでに恭しい動作でピンクのバラを差し出した。
瞬間、フワッと焼きたてのストロベリークッキーの香りがし、私は期待して胸を高鳴らせる。
(次は私の番!)
道化は私に向き直り、クルリと手首を捻らせてクッキーでできたバラを作り、差しだしてくる。
『ありがとう!』
お礼を言って受け取ろうとした時――。
道化はあっかんべー! をすると、上を向いてボリボリとバラを囓ってしまった。
『あははははは!』
その様子を見て周囲にいた者たちがドッと沸き、手を打ち鳴らして笑う。
彼らにとっては面白い、道化仕草だったのかもしれない。
けれど私はとても悲しかったし、笑い者にされて恥ずかしくて堪らなかった。
――ひどい。
目の奥が熱くなったかと思うと、ボロッと涙が零れる。
そんな私を見て、レティが呆れたように言う。
『何も泣く事ないじゃない。新しく作ってもらえばいいのだから』
その通りかもしれない。
でも道化にすら馬鹿にされ、大勢に嗤われた私の心はズタボロだ。
『~~~~っ、うぁあああぁあんっ!』
こみ上げた感情を抑えられずに泣いた瞬間、制御できなくなったインビジブルハンドが荒れ狂った。
『っきゃあああっ!』
見えない手が凄まじい勢いで周囲にあるものを叩き、殴り、引っ掻いて破壊する。
絹を引き裂くような女性の悲鳴を耳にしてハッと我に返ると、令嬢たちのドレスは引き裂かれ、壁紙は剥がれ、近くにあったテーブルはひっくり返り、ご馳走が散乱していた。
――どうしよう。
私は自分のしでかした罪の重大さに気づき、顔を真っ青にさせてガクガクと震える。
周囲にいた人たちは、泣いた瞬間にこんなふうになったものだから、私の事を不気味そうに見ている。
風の魔術が発動した気配もなかったのに、いきなり物が滅茶苦茶になるなんて、確かに恐ろしいだろう。
『ほら……、あの王女、シャレット聖王国の第二王女の……』
『ああ……、聖なる加護がない……』
女性たちが扇子の陰でボソボソ言うのが聞こえ、私はカーッと赤面する。
『なんの力があるのか分からないけれど、癇癪を起こして暴れるなんて姫君とは思えませんわ』
冷たく言い捨てた言葉を聞いた瞬間、私はパッと走り出していた。
『あっ、フェリ!』
レティが声を掛けるのを後ろに、私はボールルームを駆け抜けて外に出た。
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