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庭園の片隅で、私は茂みに隠れて座り込み、嗚咽していた。
(こんな事になるなら来なければよかった。どうせみんなが求めているのはレティで、私なんか要らないんだわ。あんな事をする悪い子だと知られたら、もうどこにも招待されないに決まってる。お父様とお母様にも怒られちゃう。……こんな能力、なんの役にも立たない……っ!)
激しくしゃくりあげる私は、涙を拭おうとしてハンカチを求め、ポケットを探る。
するとアルフォンス様のハンカチがでてきて、余計に悲しくなってしまった。
(せっかく励ましてもらったのに、嫌われてしまう……っ)
両親やレティ、貴族たちに呆れられるのはいつもの事だ。
外国にまで来て失敗し、知らない大人たちに迷惑がられるのもつらい。
けれどその時の私を一番打ちのめしたのは、初めて〝私〟を見てくれたアルフォンス様の期待を裏切ってしまった事だ。
昼間は『役に立ちたい』と豪語したくせに、その夜にはみんなが楽しんでいるパーティーを台無しにした。
しかも場所は帝国の宮殿で、アルフォンス様のお家を破壊した事になる。
(嫌われちゃう……っ!)
初めて私を受け入れてくれた人だからこそ、彼に失望されると思うと恐ろしく、悲しくて堪らなかった。
――と、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
見つかりたくないと思って息を潜めていると、来るはずのない人の声がした。
『フェリ? いるか?』
凜とした少年の声は、紛れもないアルフォンス様のものだ。
――どうして?
――怒られるの?
――アルフォンス様に怒られたら生きていけない。
――見つかりたくない。
身を小さくして両手で頭を抱えた時、茂みをかき分ける音がして頭上から声が降ってきた。
『ここにいたか』
ハッとして顔を上げると、魔術の光を浮かばせたアルフォンス様が、安堵の表情を浮かべて微笑んでいる。
――怒られちゃう。
私はとっさに走って逃げようとする。
が、彼は素晴らしい反射神経で私の腕を掴み、引き留めた。
『こら、逃げようとするな。怒ったりしないから』
『嘘です! 絶対怒ります! 私はみんなが楽しんでいる時間を台無しにした悪い子ですから!』
私はポロポロと涙を流し、ジタバタと暴れる。
『フェリ』
すると、アルフォンス様は私をギュッと抱き締めてきた。
『うぅ……っ、う……っ』
大きな体にすっぽり包まれるように抱かれ、観念した私は彼の腕の中で嗚咽する。
アルフォンス様は私の背中をトントンと優しく叩いて言った。
『嫌な目に遭ったな。道化とはいえあれは酷すぎる』
思いも寄らない言葉を聞き、私はハッと顔を上げた。
彼は厳しい表情の奥に憐憫を宿し、慈愛の籠もった目で私を見つめていた。
『あれは一国の王女にとる行動ではない。あの道化は二度と宮殿に招かないし、のちほど君に正式な謝罪をさせる。そのあと相応の罰も与えるから、どうか溜飲を下げてくれ』
予想外の事を言われ、私はポカンと呆けてアルフォンス様を見つめる。
ボーッとして何も答えなかったからか、彼は心配そうに顔を覗き込んできた。
『これでは足りないか? 君が望むならもっと厳しい罰を与えよう』
『ちっ、違います! 罰なんて求めていません!』
酷い勘違いが起こりそうだったので、私は胸の前で両手をブンブンと振る。
『……私なんかのために、誰かが怒ってくれると思わなくて……』
思った事を口にすると、アルフォンス様は悲しげな表情をして溜め息をついた。
『フェリ、虐げられる事に慣れては駄目だ』
『…………っ』
その言葉を聞き、私は唇を震わせ息を鋭く吸い込む。
――まただ。
――またこの方は、私の心を救おうとしてくれる。
彼の思いやりと、自分がちゃんと〝人〟として扱われている事が嬉しくて堪らない。
「…………っ、うぅ……っ、う、――――うぅううっ」
私は食いしばった歯の間からくぐもった声を漏らし、今までとは違う意味で涙を流し始めた。
アルフォンス様は激しく体を震わせて泣きじゃくる私を優しく抱き締め、背中をさすってあやしてくれる。
『君はこれまでよく頑張ってきた。君が感じたつらさ、悲しさは、五歳の子供が背負うべきものではない』
彼の声が体の奥まで響き、硬く凝った私の心を柔らかくほぐしてくれる。
『これからは俺の前では何も我慢しなくていい。つらい事があったらつらいと言って、本心を語っていいんだ』
両親すら言ってくれなかった言葉は、天から降り注ぐ慈雨のようだ。
アルフォンス様の御言葉は聖典よりも私の心に響き、カラカラに乾いた心に癒しを与えてくれる。
――この方がいる限り、私は〝私〟でいられる。
――彼の優しさを裏切らないよう、可能な限り善い行いをし、前向きに生きよう。
これからもレティと比べられてつらい想いはするだろうけど、アルフォンス様という心の柱がある限り、自分は強くなれると信じたかった。
思う存分泣いたあと、私はアルフォンス様と星空を見上げる。