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部屋の鏡で身だしなみをチェックして、客室に向かう。
初めてのお客様はジェラード。あんまりお客様っていう感じはしないかな? ……まぁ、仲間だし。
客室は1階の、玄関近くにある部屋。
そういえば私も、ここに来るのはピエールさんに案内されて以来、2回目だ。
調度品も置いてあったりして、結構立派な部屋なんだよね。
そんなことを考えながらドアを開けると、上機嫌のジェラードが話し掛けてきた。
「やぁやぁ、ご主人様のお出ましだ♪」
「はーい、ご主人様ですよ~♪
ジェラードさん、こんにちは!」
「アイナちゃん、こんにちは!
それにしても凄いねぇ。数日の間に、こんな立派なお屋敷を持つだなんて」
「あはは。
工房をもらったら何だか付いてきました。私も驚きですよ!」
「用意してくれた王様も太っ腹だよねぇ。
メイドさんもしっかりした感じだし、良い雰囲気じゃない?」
「5人もいるんですよ! 皆さん、とっても素敵な方で」
「ふーん? 僕も加わってみようかな。なーんて♪」
「ぶっ!? そういえば女装……もとい変装をして、普通にメイドさんの中に紛れ込めるんですよね。
今度、しれっと紛れてみませんか?」
「んー、機会があったらにしようかな?
さすがに、何でもないときにそんなことやってたら変態っぽいし」
「私はそれでも良いですけど」
「いやいや、僕がダメなの!」
「そうですか、残念……。
ところで最近、どこかに行ってたみたいですけど、戻って来たんですね」
「うん、今日の昼過ぎにね。
宿屋に戻ったらアイナちゃんが引っ越したって聞いて、急いで来たんだよ」
「あ、伝言は上手く伝わりましたか。良かったー」
ここ数日、ジェラードがどこかに行っていたのかは気になるけど……それは聞かない方が良いのかな?
……うーん。
ルークは経緯を知ってるだろうから、ジェラードからルークに話がいくかもしれないし。
それなら又聞きって形にはなっちゃうけど、あとでルークに聞いてみることにしよう。
そこで聞けなかったら、きっと私が聞くべき話では無いのだろう。
まぁ、『循環の迷宮』でリーゼさんに裏切られたあとの話だから、それ関連だとは思うんだけどね。
実際のところ、聞くのが少し怖い……というのも、本音だったりして。
「ところでルーク君とエミリアちゃんも、このお屋敷に寝泊まりしてるの?」
「はい。1人1室割り振って、私室にしてるんですよ。
ああ、そうだ。夕食は食べていきますか? ご用意できますけど」
「本当? それじゃ、ご馳走になろうかな♪
あ、夜は用事があるから、夕食を頂いたら帰るね」
「そうなんですか?
みんな集まったところで、お話したいことがあったんですが……」
私の話したいこと――
……それは私の旅の目的、つまり『神器作成』。
全員にそれを伝えて、できれば皆に協力して欲しいのだ。
作るのは私だけでできるとは思うけど、素材を集めたりするのは一人では難しそうだから。
特にジェラードは情報収集に強みを持っているから、きっとお願いすることも多いだろう。
「話したいこと……。
それって大まかに言うと、どんな話?」
ジェラードは顔を真面目にさせて、私をまっすぐに見ながら聞いてきた。
緊張感というか、そんな何かが周囲に張り詰める。
「……えっと、私の旅の目的ですね。
王都まで来たのは目的があるんですけど、それをお話して、皆に協力をしてもらいたいなって」
「ああ、そういう感じの話ね!
うん、大丈夫だよ。是非、聞かせて欲しいな♪」
そう言うと、ジェラードは顔の緊張を解いて明るく笑った。
……その裏で、今ここで出されたくない話があるのだろう。
それは容易に想像が付いた。
『どのようなことがあってもジェラードさんはアイナ様の味方ですので……』
先日、ルークが言った台詞を思い出す。
ひとまず今は、不用意なことは言わないでおこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、ルークとエミリアさんを加えた四人で夕食をとる。
昼に話をした通り、エミリアさんには3人前を用意してもらった。
今回の給仕はマーガレットさんとルーシーさん。
エミリアさんを気に掛けるように見ていたが、その見事な食べっぷりに、かなり驚いているようだった。
見た目的に、そんなに食べる人には見えないからね。
食事を終わらせたあと、メイドの二人には部屋から出ていってもらう。
「――さて。
少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか」
「え? 何かあるんですか?」
私が改まって話を切り出すと、エミリアさんが返事をした。
「四人が揃ったところで、お話したいことがあったんです。
たまに触れられそうになっていましたが、私が王都まで来た旅の目的を」
「あ……。
もうお話しても、大丈夫なんですか?」
「別に隠そうとしてたんじゃなくて、話すタイミングが、何となく無かっただけなんですよね。
……あと、私の覚悟っていうのかな?」
「覚悟……」
「ちなみにルークにも話していないことだから、本邦初公開です」
「おおー!」
「ふぅん? ルーク君も聞いていないんだ?」
「錬金術の関連とは聞いていましたが、具体的には聞いていませんね」
口々に言う三人の視線を、まずは集める。
「最初にですが、今回の話はここだけの話にしてください。
皆のことを信頼してるから、話すことにしたので」
三人は黙って、しっかりと頷いてくれた。
「……さて、どこから話しましょうか。
えぇっと、まず私は錬金術が使えます。それも、かなりの高レベルです」
「それは皆知ってるよね。僕の勘だと、50はいってるんじゃないかな!」
「「……」」
ジェラードは自信満々に言ったが、ルークとエミリアさんは少し自慢気な顔で彼を見ていた。
「あ、あれ? ルーク君にエミリアちゃん、どうしたの!?」
「アイナさんの錬金術、レベル99なんですよ!」
「……は?」
そう言いながら、ジェラードは信じられない表情で私を見た。
「はい、レベルは99です」
「……99なんて、実在したんだ……。
へ、へぇ……凄いね……?」
「懐かしい反応ですね、ルークさん」
「私たちもあんな反応をしていたんでしょうね、エミリアさん」
ルークとエミリアさんは、ジェラードの顔を眺めながらしみじみと言った。
確かにあんな反応だったよね。私もよーく、覚えてる。
「ちなみに余談ではありますが、鑑定と収納もレベル99です」
「……凄ぇ」
驚きすぎたのか、ジェラードの口調が何だかいつもと違った。
これはこれで新鮮だけど、何だか違和感もある。
「そこまでが前提です。
ここから、もう少し続きますね」
「「え?」」
ルークとエミリアさんが、同時に声を上げた。
『何かまだあるの?』といった表情だ。
「えっと、皆は『ユニークスキル』って知っていますか?」
「『ユニークスキル』……? わたしは知りませんね……」
「私も知りません」
「僕は聞いたことがあるよ。
確か、世界に1人だけ持つことが許される、伝説のスキル……だっけ?」
「はい、ジェラードさん正解!」
「……この流れ。
もしかして、アイナ様が持っている……ということですか?」
「はい、ルーク正解!」
「えぇ……。
でもアイナさんのことだから、いくつか持ってそうですよね……なんちゃって?」
「はい、エミリアさん正解!」
私の言葉に一同深く息をつく。
「……さすがです」
「……さすがです」
「……さすがだね」
『さすが』、3つ頂きましたー!!