テラーノベル
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凪川 彩絵
#独占欲
晴永は無言でなまこのケージを抱えると、リビングへ移動させる。
持ち上げられた際、一瞬だけ止まった回し車を回す音は、ケージがリビングのテーブル上へ安置されるなり、当たり前のように再開する。カラカラと軽快に鳴る音が、妙に頼もしい。
「……とりあえず、なまこはここに」
「いいんですか?」
「いいもなにも……あっちに置いたままじゃ、お前も世話するの、嫌だろ?」
「……はい」
小さなやり取りですら、瑠璃香は少し声が震えてしまう。
「で、今夜だが……瑠璃香は俺の部屋で寝ろ」
短い宣言。
「え……?」
「その方が安心だろ?」
素っ気ない言い方。
けれど、拒否を許さない優しさがあった。
「でも……」
それでは別の意味で眠れそうにない。
そう瑠璃香が続けようとしたら、晴永は寝室へ戻るなり枕だけを持って、出てきてしまう。
「あ、あの……晴永、さん?」
その意味が分からなくて戸惑いに瞳を揺らせる瑠璃香へ、晴永は小さく吐息を落とした。
「蜘蛛がいなくても俺がいたら安心して休めねーだろ? 俺はリビングのソファで寝るから。瑠璃香は遠慮なく俺のベッドを使え」
さっき、確かに瑠璃香だってそれを心配した。心配したのだけれど――。
「そ、そんなの、ダメです!」
何故か反射的に晴永の腕を掴んでいた。
「わ、私のせいで、晴永さんがソファだなんて……」
「平気だ」
「晴永さんがよくても、私が! 平気じゃないです!」
言い切ると、晴永がわずかに眉を上げる。
「……晴永さんのベッド、大きいですよね」
言いながら、頬が熱くなる。
「……端と端なら、問題ないと思います」
一瞬の沈黙。
晴永は何か言いかけて、やめた。
「分かった」
それだけ。
ベッドは確かに広かった。
互いに端へ寄れば、触れない距離。
なのに。
布団にくるまっても、まったく眠気が降りてこない。
隣に人の――晴永の気配がある。
それだけで、意識が研ぎ澄まされた。
「……晴永さん、起きて……ますか?」
「……ああ」
暗闇の中で、低い声が返る。
「あの……。私たちって、その……本当にそういうこと……したことがあるんです、か?」
沈黙。
いきなり何を言い出すんだ、と言いたげな空気。
「ああ」
短い肯定。
それを聞いて瑠璃香は思ったのだ。なぜ、一度手に入れたことのある自分に対して、晴永はこんなにも気を遣ってくれるんだろう? と。
普通の男性なら、一度でも関係を持った女性のことは、自分のものだと思うんじゃないだろうか?
そうして思い至った……。
「晴永さんが……さっきリビングに行こうとなさったのって……もしかして……私が……そのことを覚えていないから……ですか?」
そんな気がする。
恐る恐る問いかけたら、ややして「……ああ」と肯定の声が返った。
それが、なんだか胸に刺さってしまった瑠璃香である。
コメント
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なんかドキドキする!