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いままで何人かと付き合ってきたけど、

ああいう風になった俺を受け入れ、ましてや、楽しんでくれたのは未央がはじめてだった。

俺、この人のことすごく好きだ。心底そう思った。

 

そのうえ幸か不幸か、元に戻る練習をすることになった。

 

キスをすれば元に戻るのはいままでの経験上知っていた。実はやろうと思えば切り替えはできる。嘘つくつもりはなかったけど、キスの口実だ。

 

あのときはゴキの件でそれどろこじゃなくなって、うまくできなかっただけ。

通常運転であれば、よっぽどコントロール可能。

 

キスしてるときの未央のとろけた顔は本当にかわいらしい。1週間ほどその関係は続いているが、もう限界に近い。とにかく彼女から好きって言ってほしくて耐える。

 

キスしたらすぐ帰るのは、そのままそばにいたら押し倒しそうだから。下半身の立派なテントも見られたらまずい。未央は、ここまでして手を出してこないのを不審に思っているだろう。

 

未央さん、俺はあなたの告白待ちなんです!! たったひとこと好きと言ってくれたら、すぐ押し倒しますよ!? お願いだから好きって言ってくれー!! 

 

元に戻るキスのあと、あわてて家に帰る。そびえ立つ自分を慰めながら、悶絶するのが毎日くり返されて、さすがに辛くなってきた。

 

──そんな練習も1週間すぎたある日、未央からスタジオ限定メニューの試食を作ったから、一緒に食べないかと誘われた。

 

いよいよか? いよいよなのか? ちゃんと用意しておいたそれをポケットに3つも仕込んで、亮介は意気揚々と未央の部屋にいった。

 

未央の祖母が亡くなっていたのを、そのとき初めて知った。去年ということは、あの話をしに来て、そう時間が経たずに亡くなったのだろう。

 

泣いている未央をなだめていると、愛しくてかわいくて、好きがあふれそうだった。

 

少し落ち着いた未央をベッドに寝かせて布団をかけ、手をつないだ。眠りについた未央のあたまをそっとなでる。好きって言わせる作戦を大作戦に変更して、もっと加速させなくては。こちらがもたない。

 

あしたは、もう一度あいつに相談だな。あいつが未央さんのこと、多少でも知ってて助かった。

 

亮介は洗い物をすませると、部屋に帰ろうと思ったが、戸締りもせず部屋を出ていくのに抵抗があった。

 

しかたない、未央さんが起きるまではここにいるか。ベッドの横に座ると、むにゃむにゃとかわいい寝言がきこえてきた。

 

「ぐん……じくん」

 

寝言か? 起きた様子はない。

 

「ぐんじく……ん、すき……むにゃむにゃ」

 

「──っ」

 

それはずるい。未央の顔をのぞきこんだが、完全に寝ている。未央さん、それはひどいです。

 

作戦はまだまだ続けますよ? 亮介はおでこにチュッとキスをしてベッドに伏せた。だらんとなった未央の手をとって、布団の上で手をつなぐ。あたたかくて安心して、そのまま眠りについた。ずっとこうしていたい、素直にそう思って。

 

5.絵になるふたり

 

 

 

「──んんっ……」

 

未央は朝日の眩しさで目を覚ました。あれ? きのうはどうしたんだっけ? 試作を郡司くんと食べてそれで……。

 

見ると、ベッドに亮介が突っ伏して寝ている。つないだままの手をみるとなんだか恥ずかしい。

 

そっか、泣いてる私を寝かせてくれたんだった。部屋を見渡すと片付けもきれいにしてある。郡司くんがやってくれたんだな。

 

朝の5時半。未央は亮介を起こさないようにそっとベッドから出ると、縁側の窓を開け、庭におりた。庭の奥は崖になっていて、フェンス越しに都庁や東京タワーも見える。この景色も、引っ越しの決め手だった。

 

霞がかった都内の景色は、息を飲むほど美しい。おばあちゃん、わたし元気だよ。そう空に向かって話しかけると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。「おはよ、未央さん」

 

すぐ横に亮介の顔があって未央は心臓が飛び出しそうになった。

時間が止まったみたいに静かな時間が流れる。

 

未央は自分の首に回された亮介の腕にそっと手を添えた。胸の高鳴りが、亮介にもきっと聞こえているだろう。

 

「おっ、おはよ。きのうごめんね、片付けまでさせちゃって──んっ」

 

亮介は、人差し指を未央の口にあてて、シーッと言った。

 

「未央さん、キスして」

 

透明できれいな声が耳元できこえる。その声が光の粒になり、血管に入りこんで身体中をかけまわった。

 

自分からキスするなんて、久しぶり。どうやるんだったっけ。ぐっと息をのみこんだ。亮介はもう目を閉じている。

 

触れるか触れないかくらいのやさしいキスをして、そっと離れる。恥ずかしすぎて顔が上げられない。

 

「こんどは、僕の番」

 

あごをつかまれ、顔を上げられたかと思うと、舌がぐっと入ってくる。

 

「んんっ……ふっ……ぁうっ」

 

愛しい人のキスは、朝するにしては激しくて、深くて、苦しい。息継ぎをしながら何度も繰り返されて、なかなか離してもらえなかった──

すき、ぜんぶ好き。

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