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テラーノベル(Teller Novel)
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鳴り止まない蝉の声と応援の声がわんわんと響くテニスコートに、それに応えるかのように動く選手たち。

顔を伝った汗がぽとりと地面に落ちて、コンクリートにじわりと染み込んだ。

彼らとわたしの間とを区切るフェンスを握りしめ、同じように汗を地面に染み込ませる柳生くんを見た。

見たというよりは、一方的に見つめたという表現のほうが正しいのかもしれなかった。

わたしと柳生くんは去年同じ委員会だったというだけで、お互いに顔見知り。

廊下ですれ違えば軽く会釈するくらい。

それだけの関係だけど、わたしは柳生くんに恋心を抱いていたし、会釈程度の仲でも満足だった。

もちろん欲を言えばキリないから、というだけなんだけど。

柳生くんとは逆に、3年間同じクラスで相当仲が良いと言える仁王は、わたしの柳生くんへの思いを知っている。

少しではあるけど協力はしてくれている。

今日も試合があるのを教えてくれたのは仁王だった。

またわたしの額から汗がぽたりと落ちた。柳生くんと仁王のダブルスが始まってからどのくらい経っただろう。

いつの間にかゲームカウントは5-0のマッチポイントで、もちろん柳生くんたちが勝っていた。

審判のゲームセットを知らせる声と、わたしの肌をじりじりと焼く太陽の光線はどちらもあまり嬉しくはなかった。

柳生くんは試合を終えて、仁王と何かを話していた。

仁王はいつもの嫌みな笑みを浮かべてわたしをちらりと見た。

そして柳生くんもわたしを見た。たった2秒くらいなのに、スローモーションの様に時間がゆっくりと進んでいく。

手を振ったほうがいいのかと思う、けど、わたしが何もしないうちに柳生くんがこっちへ向かってきているように見える。

これは幻なんじゃ、と思ってまばたきをしてみても、見えるのは暑さとは反対の爽やかな柳生くんの笑顔と、その後ろでにやにやしている仁王の顔が確かにそこにあった。

今にもわたしに声をかけようとする柳生くんが幻なんじゃないかと思って、何度もまばたきをしたけど、やっぱり幻なんかじゃなくて柳生くんはいつの間にかわたしの目の前に立っていた。

「応援ありがとうございます」

「え、うん。試合お疲れ様」

「あなたの応援のおかげで良いプレーができました」

「それって…」

どういう意味?と聞こうとしたら、向こうから仁王が柳生くんを呼ぶ声で途切れてしまった。

きっとわざとだ。

もう行かなければ、と言う柳生くんにとりあえずタオルを手渡した。

ピンク色でちょっと不似合いだけど、柳生くんは嬉しそうに受け取ってくれた。

日差しは相変わらず強くて、汗がぽたりと落ちてまたコンクリートに染み込んだ。

わたしの頬が赤いのは日焼けのせいなんかじゃなくて、ピンク色のタオルを大切そうに持っている柳生くんのせいに間違いなかった。

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