テラーノベル
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任務を終え、静かな待機所でふたりは並んで座っていた。
ナマエがぽつりと口を開く。
『ねえ、出水先輩。もし私が…突然、消えたら、どうする?』
彼は少し驚いて、すぐに答えた。
「そりゃ、嫌だけどよ…」
『なんで?』
「大事な後輩つーか…友達、だし?」
ナマエは少しだけ微笑みながらも、目は少しだけ揺れている。
『……ありがとう、先輩』
「変なこと言うなよ。消えるなんてこと、考えるな」
『うん、わかってる。でも、たまに怖くなる』
出水は優しくナマエの肩に手を置いた。
『そういう時は、俺が守るから。ナマエがいなくなるなんて、絶対許さねえ』
「……うん」
ふたりの距離がまた少し近づいた気がした 。
夜。
部屋の天井を見つめながら、ナマエはベッドの上で静かにため息をついた。
(――大事な後輩、友達)
出水の言葉が、何度も頭の中で反響している。
『……そっか、やっぱり、そうだよね』
目を閉じると、昼間の出水の顔が鮮明に浮かぶ。
真剣な眼差し。優しい声。
いつもと変わらない、だけど少しだけ遠い。
(先輩は優しいから。誰にでも、ちゃんとそうやって言ってくれる人で)
胸の奥が、じくじくと痛む。
(なのに私だけが、特別だと思ってた。……バカみたい)
枕に顔を埋めて、笑おうとしたのに、喉 の奥で小さくしゃくり上げる音が漏れる。
『友達……かぁ……』
ぽつりと呟いたその言葉が、やけに空しく響いた。
(どうして、ちゃんと聞けなかったんだろう。どうして、言えなかったんだろう)
沈黙が降りてきた部屋で、ナマエの心だけがざわめいていた。